雨降る廃墟で
約束の水曜日になったが、生憎の雨模様。家からいつもの廃墟までは、歩くと少し遠い。カッパを着て自転車で向かってもいいが、その後の手入れが大変だからなるべくしたくない。
行こうかどうか考えてみるが、行かないということを伝える手段がない。もし、渚がいつも通り待っていたら申し訳ない。・・・うだうだ考えていてもしょうがないな。傘を手に取り、雨の中を歩き出す。
雨の街中は静かだ。出歩く人はまばらで、蝉だけが雨にも負けず元気に鳴いている。雨が降っても気温は高く、湿度が高くなりその分蒸し暑い。
時間をかけていつもの廃墟に到着する。中から物音がする。どうやら既に来ているようだ。
「おはよう、啓佑。雨の中、お疲れ様。」
いつものように微笑む渚。その笑顔を見るだけで安心する。
「今日は雨だから何処にも行けないな。どうする?」
すると、渚は奥の方から本を持ち出し手渡してきた。
「地図帳?」
「ええ。印をつけたところが、私の行きたい所。」
中学の時に使っていた地図帳だ。そこには付箋がいくつも貼られ、そのページには行きたい場所に丸印がされていた。
「・・・これ全部に連れていけってことか?」
恐る恐る聞く。付箋は地図帳のほとんどのページに貼ってあるからだ。
「全部は無理よ。時間が足りないもの。」
確かに時間もそうだが、お金も足りない。付箋は全国各地の観光名所に貼られている。到底、高校生の男女二人で巡れるようなものではない。
「日帰りで行けるのは・・・このページくらいかな。」
「始発に乗ればもう少し遠くまで行けるわ。」
そう言って指し示したのは、大都市・石山だ。
「・・・確かに、日帰りで行こうと思えば行けるけど・・・。」
石山は、古くから栄えている商業の中心都市だ。街は人や物で溢れ、夜になろうと静寂の訪れない誰もが知る大都会だ。
「私ね、都会の街並みとか見てみたいの。ビルが乱立していて、空が狭いってよく言うじゃない?私はあんまり歩き回れないから、環状線に乗って、車窓から街を眺めるだけでもいいの。それだけでいいから、行ってみたいの。」
「それって、俺じゃなきゃ駄目なのか?親にお願いすればもっと色々連れてってくれるんじゃないか?」
「お父さんもお母さんも忙しいし、絶対反対するから駄目。行くならこっそり行かないと。」
見た目によらず大胆なことをする。渚は箱入り娘なのかと思っていたが、考えを改めた方がよさそうだ。
「ねぇ、来週は空いてる?」
「まあ、何時でも空いてるけど・・・まさか!?」
「フフ・・・じゃあ、来週。・・・そうね、水曜日がいいかしら。お願いね。切符はこっちで用意してあげるから。」
駄目だ、もう断れない。・・・都会には俺も行った事が無い。取り敢えず、帰って時刻表を調べよう。