山登りの練習
「フフ・・・。大丈夫?」
大きめの麦わら帽子を被った渚が、自転車の後ろに座って微笑む。
「大丈夫・・・!たぶん・・・。」
愛宕山に登る為の練習として、この辺を少し走り回ることになった。自転車の後ろに人を乗せて走った事が無いのに、いきなり人を乗せて、それも山を登るなんて無理がある。
「よし・・・行くぞ!」
意を決して自転車に跨がり走り出す。二人も乗るとバランスを取るのが難しいが、予想以上に渚が軽くて走りやすい。
「渚、軽いな。体重いくつだ?」
「啓祐、女性に体重聞いちゃ駄目よ?」
渚に背中を小突かれる。そりゃそうだ。以前、クラスの女子に体重を聞いた高梨がクラス中の女子から総攻撃を喰らった事を思い出した。それ程、女子にとっては聞かれたくない事柄らしい。
「ああ、そうか。すまん、気を付ける。」
「私は別に気にしてないけど、普通は皆、気にしてる事だからね。」
そういうものかと納得し、炎天下の道路を進む。
「取り敢えず、この先の公園まで行くぞ。」
「平地ばかりじゃ山登りの練習にはならないじゃない。もっと山の方まで行けないの?」
「えぇ・・・じゃあ、熊野神社まで行くか?」
「ええ、そうしましょう。」
熊野神社は、町の中央にある山の上にある神社で、毎年お盆の時期にはお祭りがあり、町中の人が集まり賑わう場所だ。愛宕山に登る練習には丁度良い。熊野神社へ向けてペダルを漕ぐ。
・・・
「ハァ・・・ハァ・・・。」
「頑張って。もうちょっとよ。」
完全に夏を舐めていた。暑さで汗が滝のように流れ、自転車を漕ぐ足は発熱し、体温が四十度を越えているんじゃないかと疑いたくなる程に暑い。渚は軽いと言っても、人を乗せて走るのは相当疲れる。今更ながら、愛宕山に登るのが億劫になってきた。
「はい、到着。お疲れ様。」
「ハァ・・・ハァ・・・疲れた・・・。」
漸く神社まで着いた。足がつりそうだ。崩れるように自転車を降りて地面に寝っ転がる。明日は筋肉痛になるかも知れない。
「お疲れ様。はい、これ。」
ペットボトルのスポーツドリンクを差し出された。自販機で買ってきたのだろう。
「あ・・・ありがと・・・。」
スポーツドリンクが体に染み渡る。こんなに美味しく感じるのは初めてだ。
「あ、もう十六時だね。そろそろ帰らないと。」
来たばかりだが、もう帰りを急かされる。
「せめてお参りくらいしてきたらどうだ?」
「さっき啓祐が休んでる時にしたから大丈夫。それに、お盆にも連れて来てくれるでしょ?」
暗に、お祭りにも連れていけ、と言ってきた。覚悟はしていたが、本人がその気なら連れていくしかない。
「分かったよ・・・じゃあ、帰るぞ。」
「はーい。」
渚を後ろに乗せて帰路に着く。帰り道は下り坂だから楽で良い。スピードが出過ぎないように注意しながらブレーキをかける。
・・・
「明後日は九時に来てね。お昼御飯は用意してあげるから、山の上で食べよ。」
「おう。それじゃ、またな。」
渚をいつもの廃墟の前で降ろして解散する。既に足の筋肉が痛い。練習を前日にしなかったのは、こうなることを予想していたからだろう。明日も学校だが、体育が無くて助かった。恐らく筋肉痛で最低限の行動しか出来ないだろう。