6.Ghost-ゴースト-
大統領との会話の後、ウィリアム=チラージンは、しばし考え事をした。
今回自分の部下であるというと語弊があるかもしれないが、そのアレックス=オルドウィンに一つの作戦を任せていた。
その任せた任務とは、とあるテロ組織の潜伏場所の解明を行うことだった。
この半年間思う様に成果が出せていなかったウィリアムは、たまたま別任務でトルコに滞在中だった、アレックスを現地投入させ、支援させる事にしたのだ。
アレックスは、あらゆるケースに対応できる事から、普段から重宝がられていた。
その為か、報告書の中で気付かない内に名前が上っていたりするのだが、機密に抵触するケースが多い為すぐさま削除される。
なので、第三者が後から報告書を参照しても、アレックスの名前を見つける事はできない場合が多い。
報告書の中で突然現れては消えるその様が幽霊みたいなので、いつのまにか局内でゴーストと呼ばれるようになった。
そのゴーストの起用が決まったのが2週間前の事だった。
本人はあまりこの任務に乗り気ではないようだったが、最終的には承諾した。
乗り気ではない割に、仕事に取り掛かるのは早かった。
敵の潜伏場所やその他諸々の分析に関して定評があったアレックスは、自分の持つ情報を巧みに利用してターゲットの情報を瞬く間に集めていった。
その後からが速かった。
数カ月経っても判らなかった、敵の隠れ蓑がアレックスによって次々に暴かれていき、工作活動が行われていった。
いったいどんな方法で情報を引き出したのかは判らないが、気付いた時には、敵勢力の活動範囲がかつての1/3にまで狭まっていた。
壊滅状態となるのは時間の問題だった。
アレックスがアメリカに帰還したのは丁度そんな時だった。
作戦がまだ終わってもいないのに、帰還してきたのだ。
先ほどアレックスにも言ったが、頭を打って記憶でもなくしたかと本気で思ったものだ。
まぁ、事態は目に見える形で収束し、後は軍にでも任せればいい状態ではあったのだが、今回の件は問題だと思っている。
だが自分としては、事を大きくしたくないのも事実だ。
この件については、深く追求をしない事に決めた。
それ程までに、今回の作戦におけるアレックスの働きは大きかった。
もしこの作戦にアレックスが参加していなければ、人命や予算、かかる日数などその他諸々に対する被害は尋常ではなかったかもしれないとウィリアムは分析する。
年々減らされる予算の中で、今年は特にきついのだ。
あのまま作戦を続行などしていようものなら、おそらく作戦が終了する前に上からストップがかかり空中分解していたことだろう。
たとえ相手が一筋縄でいかない、この国にとって益にならない連中であっても、だ。
それにしても、元々あった基盤を差し引いたとして、アレックスがたった一月も掛からずでやり遂げたことを、半年以上もかかる他のメンバーの不甲斐なさには少々頭を痛めそうである。
やはり、ここらで人材の一新を図らねばならない、とウィリアムは感じた。
旧体制の弊害が、ここにも表れていたようである。
問題は山積みだった。
ふと、手元の時計を見たウィリアムは、思っていたよりも時間が進んでいてびっくりした。
あわてて、資料をまとめ上げ、ホワイトハウスへと向かっていった。