1.Butterfly Effect-きっかけ-
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1〜4話まで多少変更しましたが、内容はほとんど変わっていません。2009.05.07 GUOREN.
ヨーロッパのとある小国の王室で、ちょっとした事件が起こっていた。
その国の皇太子が行方不明になったのだ。
その件で、少し神経質になっている側近と、いつもと変わらぬ様子の国王が話し合っていた。
「陛下、もしかして又ですか?」
側近が、恐る恐るという感じで国王に尋ねる。
「…もしかしなくても又だな」
どうやら、件の皇太子が、旅行という名の脱走を図ったらしい。
「まぁ、そう目くじら立てるな。血圧上がるぞ、お前」
国王は余計な事を言った。
「大きなお世話です。その原因の大半は、いつも陛下や殿下にあるんですよ!少しくらいは責任を感じて下さい」
その余計なひと言に、真面目くさって反論を返すのが、この側近の常だ。
「おいおい、だから少し落ち着けって。一応ちゃんと手は打ってあるから」
「それに…何ですって?もしかして、殿下の居場所が判明したのですか?」
「判らんし、知らん」
またもや余計な事を言う国王。
この国王は、言葉で側近を困らす事が、大好きだった。
やられる方は、たまったものではない。
「うわ、すまなかった。取り敢えず聞け。な?お前の血管、切れたら困るから、俺が。」
側近の表情に、まずいと思った国王は、とりあえず謝っておくことにしたらしい。
まじめな顔を慌てて取り繕い、続きを話す事にしたようだ。
「はっきり言って、あいつの居場所は、探すだけ無駄だ」
「否定できない所が又…」
側近は、何とも言えない表情を一瞬したが、すぐに表情を改める。
「そこでだ、相手の返答次第なのだが、あいつの身代わりを立てようかと思って」
「………は?」
ゆうに5秒は沈黙した側近。
「いわゆる影武者だな」
「………え?」
「だからな、身代わりを誰かにさせようかと」
「……………」
「だーかーらー、身代わりを。ってわざとだろう?それとも歳とって耳が聞こえなくなった、とか言うんじゃないだろうな?」
「いえ、聞こえてます。あまりにばかばかしくて、思考停止しただけで」
本当にばかばかしい、と側近は思った。
だが、国王はいたって本気だ。
「イギリスでのパーティー覚えているか?」
「えらく唐突ですね。ええ…まあ覚えてますが。印象深かったですし、色々と。」
「その時の来賓客の中にブルーのドレスを着た美人がいたのを覚えているか?」
美人かどうかはさておき、印象の残った人物はいたなと、側近はあの時の事を思い出す。
「先週会った、DE&Bの会長の護衛をしてたぞ」
DE&Bというのは、鉱石を広く取り扱っている大企業だ。
この国とは、色々と付き合いが長い。
その"DE&Bの会長付きの護衛"と、"パーティーに来ていたブルーのドレスの人物"とが側近の頭の中では繋がらない。
側近には会長の護衛が、別人に見えていたからだ。
しかし、国王は人の見る目だけは確かである。
どういう形で繋がったのかは判らないが、"護衛とブルーのドレスの美人"は、国王の中ではイコールの存在であるらしい。
側近が、そこまで思い至ったところで嫌な予感がした。
その予感は、大抵変則的な形で現実となる。
「その事が気になって、ジェフにカマを…じゃなかった、聞いてみたら、話してくれたよ。恐らく、その美人は、この間の護衛だとのことだ」
ジェフというのは、DE&Bの会長の名である。
側近はこの国王が、無邪気を装った腹黒狸なのを知っている。
きっと会長は脅されたに違いない。
「たまたま偶然が重なって、自分の護衛をすることになったそうだ。今は別の者に交代しているらしいが。必要ならば繋ぎを取ってもいいとも言っていたな」
「まさか本当にあの女性なのですか?」
「確かだ。俺は女だけは、忘れない。どんなに姿を変えようと、見間違える事はない」
どこか自慢げに言う国王に、一瞬胡乱な目を向けた側近だが、思いなおす。
この王ならば、あり得るからだ。
「あれだけ変われるんだ、影武者にはうってつけではないか?まぁ、それも向こうがOKしたらの話だが」
「いったいどこの世界に、女性にむかって男性のふりを何日もしろ、だなんて言う人がいるんです?何を考えているんですか」
「女だなんて一言も言ってない。男かも知れないじゃないか。嫌だけど」
「私も嫌ですが、例えあの方が男性だったとしても、影武者はリスクが大きすぎます。断られるのが落ちですよ」
「本音が出たな、ど天然たらし。取り敢えず、お前は説得に行け。どうするかはその後だ。息子の捜索は秘密裏に行う。もちろんプレスには隠せるだけ隠しておく。この件に関しては、以上だ」
以上だ。と言われてしまえば側近は何も言えない。
似非フェミニストに、ど天然たらしと言われた事には異を唱えたかったが、国王の決定には否やを言うつもりはなかった。
側近は国王に向かって一礼し、踵を返して早々と執務室から出て行った。
その後姿を見遣りながら国王は、あいつ禿げるの早そうだな若いのに、と要らぬ心配をしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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