62、傭兵、参上す
続く馬車に自分の部下と怪我人を乗せては離脱させていく。正直に言えば減らぬ敵に対して割には合わない。が、この場は長く保たせる場所ではない。
「そろそろアイシスか団長が来ないとキッツいなっ、と」
不意をついたつもりで背後に近付く敵は、ぼやきながら振り向くワイアットに倒される。
妙に短い矢が刺さり、既に数人の戦士がビクりと身体を痙攣させて倒れている。
「ひー、ふー……、無駄撃ちはしたくはないが、まあ、問題ないか」
足元にある矢の充満した木箱を数え、ワイアットは視線を変えずに矢を放ち、近付く敵を確実に撃ち倒していく。
片手には通常の弓より小さい形の変わった物を装備している、先程まで持っていた巨大な弓は立てかけられていた。
その装備から遠距離支援を主軸にした傭兵と思われがちだが……。
「これも飽きてきたな。次は……」
持っていた弓を投げ、別の弓へと持ち替えた。更に一風変わった弓と矢を入れた筒を背負い走り出す。
「隊長、何であんなに得物持ってんだ?」
思わず呟く仲間の傭兵、それを隣の男が笑いながらこたえた。
「うちの隊長は弓矢の収集家なんだよ。本拠地にはとんでもない量の得物が飾られてるぜ。距離や正確さこそ兄に及ばんらしいが、至近距離で戦える弓兵はあの人ぐらいだよ」
本来の弓兵は遠距離支援、近付かれたら弓は使わないのだが、どの距離も関係無く弓矢を使うのがワイアットの戦闘スタイルである。
それを証拠に、ワイアットの動きには一切の迷いがない。剣を持つ敵数人に囲まれているワイアットだが、剣を避けながら矢の切っ先を別の者に振り傷を付けたかと思えば、その流れを崩さぬままに弓へと装着すると同時に弦を引き、更に別の者の肩に刺さった。
この瞬間に二人が倒れ、怯んだ敵にもう一発。
囲んだ瞬間に半数が倒され、間を広げた敵だったが、この機会にと言わんばかりに狙い撃つ。
「馬鹿共が! あいつの矢は麻痺毒だから気をつけろと!」
「大将、どうするよ? 籠もってるうちは良いが、出て来ちまったらあいつは厄介だぞ?」
戦線から少し外れた位置に居る緑を基調としたローブを被る男は舌打ちをし、後ろを向いてこたえる。
「まだ早いが裏手に廻る。ウチの隊だけでいい」
「あいつらはどうするんで?」
同じような格好をした別の者は問う。
ワイアットたちに攻撃する傭兵たちを一瞥し男は静かに淡々とこたえた。
「置いていく。拾う価値は元より無い」
その言葉には返さず、片腕をそっと持ち上げる。
するとワイアットが篭城していた馬車を囲むようにしていた気配がたちどころに消えていった。
エクシブがワイアットの元にたどり着いた頃には、乱戦の様相を呈していた。
自ら戦場の中心で獅子奮迅の闘いを魅せるワイアットと、自軍が優勢であることをエクシブは感じとり安堵のため息を吐く。
ならばやることは一つ。
「ワイアット! 遅くなった!!」
エクシブの声に敵味方が一斉に振り向き、掲げられた暗黒剣を見て場の雰囲気が変わる。
まるで勝利が決まったかの様に叫ぶワイアットの隊と、明らかに動揺する敵。たった一人の参戦で変わる空気。
だが、勿論全てではない。
変わる雰囲気を好機ととるのは味方だけではない。今まで押されていた敵が、油断した者を捉える瞬間でもある。
たどり着いた傭兵はただの援軍ではない。
「今より武器を持つ者は、すべて敵とする」
掲げた黒剣を横一文字に振り言うと、空いた片手で更に剣を抜き、一歩づつワイアットたちのいる戦場へと向かう。
真っ先に武器を捨てたのは……。
「まだ死にたくはないな」
集団に囲まれたワイアットである。
まわりは一瞬唖然とするが、直ぐに状況に気付き向かいくる者を見る。
遠くはないが近くもない。
次々と武器を捨てる音が聞こえる中、一人が言う。
「ワイアットを斬り、撤退する! せめてこいつだけでも──」
しかし、すべてを言うことは叶わない。
エクシブより放たれた短剣が真っ直ぐその男を襲う。何とかそれを剣で弾くが……。
「遅い」
いつの間にか目の前に迫るエクシブがぽつりとこぼし、男の剣を容易く弾き飛ばすと、黒剣の腹を力の限り叩き込んだ。
「色々と知っているみたいだな。なら……」
エクシブは誰を見るでもなく、言った。
「あとは必要ないな」
底冷えするほどの威圧に、武器を構えていたものたちは、一様にその意味を理解しびくりと震えた。
相手にする? 誰が? 誰を?
途端に地面はにぎやかな音を立て始め、そのすべてが終わると同時にエクシブは大きなため息を吐いてワイアットへ振り返る。
「こいつらの拘束は任せた。オレは先を急ぐ。頼んだぞ」
「お任せを、団長」
エクシブは頷き、最後に命令を飛ばした男の襟首を掴み立たせて言う。
「お前はこっちだ」
男は悪態をつきながらも渋々エクシブの言う通りに付いて行くのであった。




