61、傭兵、苦悩する
エクシブやジャンクが先頭を目指す中、黒い娘は一人愚痴る。
最悪の事態だ。
キックスは先を睨みつけ呟く。
「やっと追いついたかと思えば!」
舌打ちをしながら様子をみる。
先は地面が抉れ、幾つかの馬車が脱輪し使い物になりそうにない。
恐らく最初の轟音の正体であろう。
場を抑え後続に先を行かせて指示をしていたのは三番隊の長であるワイアット。横倒しにした馬車を壁に、周りからわらわらと出てくる敵を迎え討っていた。
商人たちの姿が見えない様子から、後続のどこかの馬車に乗せて先に行かせたのだろう。
「ワイアット隊長!」
近場まで行き声をかけると、矢を放ちながら振り向いた。
「キックスか! 無事だったようだな」
「あまり良いとは思えませんが、状況は?」
ワイアットの横にさしかかった瞬間走る馬から飛び降りると、単独で先へと行かせ近づく。
敵が止めどなく押し寄せるなか、次から次ぎへと弓を放ちながら応える。
「見てのとおり最悪さ。取り敢えずあいつを先に行かせたっ、とと!? しつこい奴らだ」
先に行かせた。
つまり四番隊の先頭は既に先へと向かい三番隊が後続と合流するまでの殿を務めていた訳だ。
「本当は二隊で出迎えてやりたかったが、見過ごせない輩がちらほら、な?」
ワイアットたちの矢や剣で倒されていく者の中に混じる、毛色の違う傭兵。
キックスは頷きこたえる。
「アイシス隊長も気付いたようで私を向かわせました」
その言葉に、ワイアットは少し考える素振りを見せた後何かを決心したかのように頷き言う。
「なら四番を行かせたのは正解だったな。最悪あいつならガライヤと組まなくても止められるだろう。キックス、恐らく今はアイシスの考える最低な状況だ。このあとはどうする?」
相も変わらず攻めてくる者たちを一瞥しつつ舌打ちをする。
どうにもこうにも先に進まねばならない。
「私は戦闘に参加できません。あくまで伝達のみ。ワイアット隊長、行きます!」
キックスは本拠地に帰るまでは傭兵としては戦えない。刃を抜けば違反者になる。それなりに地位を持つ者、どれだけの罪に問われるかはわからない。
皆がそれを理解している為、出来ることはキックスを行かせること。情報こそ戦場での強い武器となる。
わかってはいるが、キックスはぎしりと歯を噛み締め苦悶の表情を浮かべながら、先へと走り出す。
参加できない不甲斐無さと全てが後手にまわされている葛藤を頭の端へ押し込み、キックスは向かう。
敵へと視線を向けていたワイアットは、すっと消えたキックスの気配に苦笑いを浮かべて呟く。
「やっと行ったか。影師が簡単に感情出してどうすんだ? おい、お前ら! 団長たちがくる前にここを終わらすぞ!」
「おおっーー!!」
ワイアットの言葉に気合を入れなおした傭兵たちは篭城戦から攻戦へと切り替えした。
それから間もなくたどり着いたのは四番隊の一台と共に単騎で駆けていたジャンクだった。
既に乱戦の様相を見せていたが、馬鹿でかい弩弓から矢を放つワイアットに気付き近付く敵を振り払いつつ馬車を気にしながらジャンクは問うた。
「ワイアット隊長! 何でこんなことに!?」
キックスと違い察しの悪いジャンクに苦笑し応える。
「ここはいいから、さっさと行け! どうせアイシスの伝令は私じゃないだろう? そっちの馬車はこっちの怪我人を乗せてやってくれ!」
攻めに転じたばかりで、正直忙しい。
ワイアットは端的に指示するとジャンクを追い払うように片手を振った。
それでも動かず、寧ろ参戦しそうなジャンク。
ワイアットは舌打ちし怒気を込めて言う。
「行けと言うのがわからないか!」
「けどっ!?」
その対応に不満だらけのジャンクであったが、何かを言う前に、馬の足元に矢を射られ地中深く突き刺さる。
突然のことに馬が驚いて嘶き、慌てて体制を整えたジャンクは目の前のことにギョッとする。
殺気を含んだ視線と共に引き絞られた矢を向けられている。
ごくりと唾を飲み込むジャンクに、ワイアットは静かに言う。
「状況判断すら出来ない足手まといが。嫌なら今すぐ傭兵を辞めろ。そのままなら、いつかお前は仲間すら殺す」
周りにいる敵には目もくれず、ジャンクを真っ直ぐと見据えるワイアットは、端的に言う。
「行け」
少しの間の後、ジャンクは俯きながらも馬を走らせる。儘ならない悔しさからか、目尻に湿り気を帯びつつも、本来の目的を遂行すべく馬を加速させたのだった。




