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60 狐と傭兵、思案する

 時を同じくして、エクシブはちょうど四番隊の最後尾にかかっていた。

 乗り込んだ者が強者だったのか、さっきから何かの破片が落ちていたり、目の前の馬車が傷だらけであったりと、現状の厳しさが窺えた。


「無事かっ?」


 追いついたエクシブは止めることなく叫ぶように声をかける。

 一瞥し苦笑しながら、手当てしたのであろう布の巻かれた腕を挙げてこたえる団員と、空いた穴から恐る恐る顔を出す商人に荷物にまぎれ込ませていた傭兵。

 ココはそれを見るなり頷くと、エクシブはほっと胸を撫で下ろした。


「速度を落とし後ろのやつらと合流した後進んでくれ。あとの動きはアイシスに一任している!」


 ゆっくりと速度を落としていく馬車に用件が伝わったことを確認したエクシブは更に馬車を進め先頭へと向かいだす。


「ここからは匂うの。覚悟しないといかんかもしれんの?」


 ココの表情ががらりと厳しいものとなった。

 エクシブは前だけを向きこたえる。


「これだけ匂えばオレにもわかる。これは……」


 エクシブはぎしりと歯を軋ませ、苦々しく続ける。


「戦場の匂いだ」


 多すぎる鉄を含んだような咽かえるような匂い。

 そして、轟音の正体と思われる焦げ臭い香りが、先ほどから風に吹かれて漂い始めた。風の方角は向かい、つまりは正に進むべき場所。


「最悪、先頭は既に……、ココ、掴まれ! 馬には悪いが少し無理をさせる!」


 多少荷台が跳ねようと、商品に支障がありそうな物はまだ無い。あればココと荷台を他に預けなくてはならなかっただろう。正直な話、エクシブが一人で馬に乗り単騎で向かうほうが断然に早い。だが、そうとわかっていてもやらないのは理由があった。

 それは……。


「ウチは全ての仲間を把握しておるからの、安心して突っ走るが良いよ。ウチの鼻と耳からはキックスたちのような特殊な技を持つ人では無い限り逃げられぬよ」


「ああ、頼りにしている。一々馬車を停めている時間が惜しい」


 最早良い予感は一切しない。考えられるだけの最悪な事態を想定しつつエクシブは馬の手綱を握りなおした。

 口数が減り険しい表情で前を見据える二人だったが、咄嗟にココが両耳を塞ぎ丸くなった。


「っ!? どうし」


 突然のことに声をかけようとしたその時、前にも響いた轟音があたりを振動させた。

 前回の比ではない音の大きさと何かが崩れるような轟音が響き続け、馬が慌てて立ち上がり馬車が急停止した。

 勢いで飛ばされたココだったが、くるりと空中で回り着地すると、何事も無かったかのように立ちあがる。


「おいっ! 大丈夫か?」


 慌てるエクシブだが、ココはそれを片手を上げることにより制して、小さく呟く。


「リン、たしかこの先は橋じゃなかったかの?」


 ココの頭に入っているであろう先の道。

 エクシブも勿論記憶していた。


 峠越えとなる道にある橋は確かにこの先。

 大きな崖に川が通る場所。


「さっきの爆発音は岩窟王が所持する、火薬球の一種だろう」


 ココはフードを脱ぎ耳を忙しなく動かし、時折空気の匂いを確認する。

 苦々しく歪むその顔に、エクシブはこの先の状況が読めた。


「橋は、絶望的かもしれんよ」


 ココの言葉に思わずため息が漏れる。

 橋を渡らなくては廻りまわって海沿いの街道へと出され、今の状況ならリザルトの行進ど真ん中へと突き進んでしまうことになる。


 ならば、敵の狙いはそれだ。


 リザルトに潰させること、もしくは――。


「最初から手を組んでいた、か。ココ! 先を急ぐぞ」


 これ以上ここに居ても仕方がない。

 エクシブは再び馬車に乗り込みココを呼ぶと、全速力で馬車を走らせた。



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