59 傭兵、ひたすらに走る
馬車の隙間からスッと見えた特徴的な黒髪に、思わず声をかけたジャンクだが、相手は気付いていないのか、反応が返ってこない。
「ちっ、くそっ!」
舌打ちをしてジャンクはその馬車に近づき、手綱を持つ傭兵に問う。
「黒おん……、じゃ無かった。キックス、さんは居るか?」
自分より格が上の者に対しての礼儀をわきまえろ、とエクシブに注意されたばかり。何とか言い直して問うジャンクに、彼はこたえた。
「かすり傷だが、うちの商人様が潜伏者にやられた。キックスさんはその手当てをした後、先の馬車に向かったはずだ」
「はず、とか、なんであやふやなんだよ!」
イラつき始めたジャンクだったが彼は前から視線を外さずにこたえた。
「悪いな。こっちも襲われたばかりで周りを見てる余裕は無いんだ」
よく見れば、馬車は雨風を凌ぐための外幕を切られた痕が幾つかあり、手綱を持つ彼も怪我をしている。馬車の中では青い顔をした商人が包帯で巻かれた両腕で自らを抱いて震えており、床には胸や腹に血染めの包帯を巻いた傭兵が荒い息で呼吸しながら大の字で横たわってた。
時折、商人に対してもう終わった、あんたは助かったから大丈夫だ、と痛みを堪えながらなんとか笑顔を作って声をかけている。
馬車の反対側には敵だった傭兵と思わしき男が胸に剣を刺され地面で事切れている。
恐らく乗り込んでいた敵が相応の手練れであったのだろう。
悲惨とも言うべき状況を理解したジャンクは、味方が這う這うの体であることに少しの恐怖が背中を走り、ごくりと唾を呑んで視線を合わせられずに何とか言葉を零す。
「悪かった」
「気にするな、さあ、行け」
そう呟くように謝罪する自分に怒ることもなく先へ促す者に、何とも言えない思いのままジャンクは先へと馬を走らせた。
早馬のはずなのに、追い着かないことへの苛立ちは、先程の馬車によりだいぶ覚めていた。
今は冷静にキックスとの合流に全力を向けるべきだ、そう決意したジャンクは馬を急かす。
緩やかな上り坂を矢のごとく走り抜けるジャンクは、馬車とすれ違うたびに一瞥だけをして更に走る。
焦る必要はない、だが、急がなくてなならない。
まだ日が落ちるには早いはずではあるが、薄暗さすら感じる鬱蒼とした樹木が、長い年月をかけて通ることによって出来上がった道にそこから外れれば外界であると、訴えるかのように妙な境界線を作るかのように生え広がっている。
ふと、森を抜け近道でもしてるのでは、とつまらない考えを浮かべては、首を振って前を見直す。
ここまで追いつけないなら、同じように馬に乗っているはずであり、馬ならば、木々のない道を進むのが道理である。
まだ、見つからぬキックスと、疑いをかけられたクエスト。先へと進まねばこたえは出ない。
ジャンクは馬を更に加速させる。
四番隊の先頭まで、あと少し。
必ずいるはずだ。そうジャンクは自分に言い聞かせ駆けていった。




