58 傭兵は、考えを巡らす
微かに見えてくる馬車、5番隊の長が居るはずだ。
エクシブは速度を上げて近づくと、その横には馬に乗ったジャンク。こちらに気付いてはいないようだが、何やら話しをした後、馬に鞭をいれ、そのまま速度を上げて行ってしまった。
エクシブは馬車を何とか横につけると、隣で手綱を持つ者に声をかけた。
「アイシス! 無事かっ?」
呼ばれたアイシスはエクシブを一瞥し正面に向きなおしてこたえた。
「ええ、団長の秘策のおかげで何とか!」
「なら良い」
短く切り、エクシブは更に問うた。
「ジャンクには何を」
アイシスの指示で先へと向かったであろうジャンクの行動、把握出来ていないエクシブにアイシスはやはりそのままの姿でこたえる。
「岩窟王の手の者、更に山鼠のチンピラが混じっています。ジャンクにはキックスと梟に合流時の注意を促せました」
アイシスも敵に気づいていた。エクシブは少し考えた後問う。
「あいつは黒だと思うか?」
予想していた質問なのだろう。アイシスは間もなくこたえた。
「それにしては手際が悪すぎます。とは言え白とも言い切れませんが」
エクシブは頷き速度を上げた。
離れていく馬車にココは一瞥して問う。
「随分あやふやだったがよ、何か納得したようだの」
エクシブは頷き前を向いたままこたえた。
「アイシスは傭兵と言うよりも軍師だ。あいつが白だと思うなら恐らくジャンクをこちらに返してる。黒なら既に手を打っている。だが」
アイシスは先をエクシブに譲り殿を代えた。
ジャンクには三番と四番の猟兵と遊撃ではなく影師に伝達をさせていたが、五番にキックスはいなかった。つまり……。
「あいつがどうのなんてのは二の次だ。重要なのは奪われた先手をどう返すかだ!」
先を案じつつ、進む速度を上げていくエクシブたち。
そんな二人とはところ変わり、単騎で森を駆け抜けるものがいた。
アイシスより伝言を持たされたジャンクである。
アイシスに言われた言葉。
『先に四番へ向かわせたキックスさんに伝言を頼む、クエスト殿の足を止めるようにとガライヤ隊長たちに伝えてくれ。ただし足止めだ、わかったな!』
思いもよらぬ伝言に驚きはしたが、止める算段をされただけで、敵として判断された訳ではない。
そう考え直しているものの、やはり妙な焦りは止められない。
焦る原因は他にもあった。五番隊にいるはずのキックスは居らず、更にはアイシスが既に戦闘体勢でことを進めていたからだ。
これまでの道中に各馬車が襲われていたのは知っていたが、エクシブの策で全てが終っていたと思っていた矢先のこと。ジャンクとクエストは知人である、親しい仲と言っても過言ではない。
故に信じられない。
「岩おやじが裏切り者?」
何にせよ先頭のクエストは遙か彼方、確かめようが無い。
ジャンクは馬の速度を上げ、キックスの居るはずの馬車に向かった。
荷物の多い商人の馬車は、いくら速く走らせようとも単騎の馬には勝てない。
風を切るかのように進むジャンクの視線に、風になびく黒髪が見えた。
「黒女!」
叫び呼ぶ声に気付かなかったようで、すっと馬車の中に消えていった。




