57 狐と傭兵、進みゆく
エクシブの確信は、その道筋で見て取れた。
道の脇には、呻きながら転がっている者たちが次々と見え始めたのである。
「リンの無茶が功を奏してきたの」
ココの言葉にエクシブは頷きこたえた。
無茶とは『剣を抜かずに監視のみで旅費がかからず帰れる』という例の件である。
エクシブは、始めから馬車に一台につき一人忍ばせておいたのだ。
馬車にただ『居るだけ』なら護衛ではない。こそ泥相手なら音をたてれば良い。そして、走行中の馬車が何者かに『内部』から襲われるようであれば、逃げ道が無い者たちは傭兵法の一つ防衛抜刀により『自らの命を護るべく、致し方が無く剣を抜かざるを得ない』のだ。奇襲に対しての奇襲である。万が一のためエクシブは商人だけではなく傭兵たちにもココを引き合わせた。
すべてはこのため。
だが、一番使いたくなかった手でもある。
「合流まであと半日もあれば到着するだろうが、うまく全台数、無事なら良いのだが」
冷静さの中に見え隠れする焦り。しんがりを勤めるは総大将。傭兵が自分の部隊を信じるのはこういう理由もあるが、本来先頭で道を作る先行斬り込み、前を行くものたちを信じていない訳ではないのだが――。
そんな心うちを読んだのか、ココは軽くエクシブの肩に手を乗せて口開く。
「そんな顔をしていては、上手くいくことも上手くいかなくなるものよ。ぬしは総大将、胸を張り他を信じるが仕事ではないかの?」
ココに言われはっとする。前傾姿勢となった身体を落ち着かせ苦笑いをして言う。
「どうも、こういうのは合わないようだ」
硬くなった身体が軽くなる。できた相棒だ、とエクシブは素直に認める。
流石に途切れてきた転がる者たち、ふとエクシブは馬車を停めて最後と思われる者を見た。まさかと思い停めたのだが、呻く男の胸ぐらを掴みながら起こすと驚きの顔を見せた。
「リ、リン! どうかしたんかよ!?」
相方の急な行動に動揺するココだが、エクシブはこたえずに行く先を見据えて呟く。
「まさか……」
まさかであってほしい、だが知りえてしまったことは明らかにこの先の窮地を知らせていたのだ。
男の肩に残る火傷。
それは、岩窟王の配下として認められたものだけが付けられる焼印。
「ココっ、急いで先頭に追いつく! このままではまずい!」
慌てるエクシブに何が起きているのか理解できないココ。
そんな二人を嘲笑うかのように異変が起きた。
思わず耳を折りたたむかのように身構えるココ。それと同時に、はるか前方で大きな爆発音が響き地面が揺れ、木々の鳥たちは一斉に飛び立った。
「な、ななな、なんなんよ、一体!?」
「くそっ! やられた!?」
木々が邪魔をし見えぬ先。
エクシブは馬車へと乗り込むと馬を全速力で走らせた。 走りだしてまもなく最初の馬車が見えてきた。だが馬車は停まっている。
「団長!!」
追いついて来たエクシブたちに気がついた傭兵は、すぐさま降りて問う。
「待ってました団長。一体あの音は――」
やはり先程の音に異変を感じとりあえず停めたようだ。
エクシブは首を振りこたえる。
「わからない。だが、確かめなければならないことが出来た。オレは先頭を目指して向かうので続けて来い」
エクシブの指示に頷くと急ぎ馬車に乗り込む。
エクシブはそれを確認すると再び馬車を走らせる。
「リン、ぬしの確証を伝えなくていいんかよ?」
続く馬車を見ながら問うココ。エクシブは先に視線を向けたままこたえる。
「残念だが、まだ確証ではない。それに今話しても味方の混乱を招くだけで得策ではない」
「ふむ」
短く返事をし正面を向く。どうやら納得したようだ。
その後も停まっている馬車と出会っては後ろに続けさせる。今のところ遅れが出ている馬車は居らず、次は5番隊の隊長のいる馬車のはずだ。




