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55 傭兵は覚悟する

 酒場での一件以来エクシブの代わりをやっているジャンク。

言ったは良いが、思っていたのと違うらしく、今は頭を抱えて指示を確認している。

 始めてから三日目、皆もっと早く根を上げると思っていたが、想像を超えて頑張っている。


「えと……、一から五番車の頭は、あっ! ワイアット隊長だ」

「なんだ? 私に何かあるのか?」


 名前を呼ばれ近づくワイアット。

 十兵団、三団の団長アバント=チェストの実弟。

 エクシブと同じく旅をしていた者で、エクシブがカトレアにいる噂を聞き付け近場まで来ていたところを声かけられたのだ。

 ジャンクはエクシブに小声で何かを聞いた後ワイアットに振り向き言う。


「三日後の出発前の……、あれ? 先回り? えと、順番……」

「ああ、先発隊の順路と組み合わせのことだな? それはこっちに出したやつを見てくれ」


 本来なら一日だけの代わりだったが、予想以上にできなかったことに納得がいかないジャンクは、出来るまで続けるつもりらしく、これと言って忙しくもないせいか、特に誰からも文句は出ていない。

 ちぐはぐな単語を並べつつも、言いたいことはなんとなくわかる様になってきた周りに助けられていることには、まだ気付いてはいない。


「知ってると思うが、私の積み込んでる得物は多い。そこ忘れないようにな?」

「えっ⁉ あっ、はい! えーっと次はぁ」


 読み書きも、最初は嫌がっていたが、代わりを始めてその重要性に気づいたのだろう。真面目に勉強するようになった。周りが思う以上、やると決めたことに対しては誠実なようで、誰に対しても問い頼る姿勢は、傭兵に関わらずキャラバン内で好印象を与えた。

 ジャンクの頭領である双子やココはその潜在能力を見抜いていたのかもしれない。

 エクシブも出来るところまではジャンクにやらせてみようと考えていた。


 しかし、旅には何らかのもめ事出てしまう場合もある。


 次の朝、それは起きた。

 出発まで二日を残したキャラバン隊だったが、顔をしかめたグルーがエクシブたち傭兵の駐屯する宿へと訪ねてきたのだ。

 

「邪魔するぞっ! グラン=エクシブ、例の噂は耳に入っているか?」


 まだ出発前だというのに既に集まっていた各部隊の隊長たちとエクシブはやはり神妙な面持ちで迎えると、ゆっくりと口を開く。


「リザルトの行進、の件ですか?」


 すると「話が早い」と地図を広げながら近づき、全員の中央にあるテーブルへと乱暴に叩き付けた。


「リザルトが平原先からこちらに向かい行進を始めやがった。数は一万騎と五千の歩兵、更に第四皇子までいやがる」


 五大国の一つであるリザルト連邦。

 『侵略王』が治めしその国には、ある特殊な公約が存在した。

 それは『リザルトの行進』である。

 『リザルトの行進』とは『何人たりとも行軍を妨げてはいけない』と、言うものである。その行進も指揮官によって程度があるのだが、中でも第四皇子のものは例外と言えるほどに恐れられている。それはたった一人の兵士にすら及ぶものであり、例えすれ違った者に目がいっただけでも、公約の名の元に殲滅される。

 つまり――。


「うちの隊が通りかかろうものなら、悲惨なことになることだろうよ」


 グルーは舌打ちしながら言った。

 誰一人として止められぬ、最早天災に等しい。

 

「さて、どうする?」


 通り過ぎるまでおとなしくしている訳にはいかない。

 おそらくこの町で少なからず補給をするだろう。

 町の店に対しては今後の進攻に支障が出ぬよう荒いことはしない。しかしこちらは行商人、しかもグルーの出身国でもある隊の本拠地は五大国に加盟している国ではない。当然扱いは想像するまでもない。

 どうするかと聞いておきながら、馬車隊には出発の準備をさせている。

 いつもならエクシブの横に居るであろう狐の姿が見えないのはそれが理由だろう。


「山越え……、しかないか」


 ぽつりと呟くが、言ったエクシブ本人な苦い顔をしている。グルーは腕を組み、やはりぽつりと返す。


「已むを得まい」


 二人はあることを危惧していた。ギルドに現れたルークの言葉。


『山越えは薦めない。最近、質の悪い者が集まっている。行くなら、気を付けろ』


 グルーは問う。


「どう見る?」


 エクシブは少し考え、ゆっくりと顔をあげてこたえた。


「ルークの言葉通りなら、お薦めできませんが……、背に腹は変えられません」


 グルーはこくりと頷くと、足早に部屋を出た。

 悩んでいる暇など無い。今出来ることは、すぐにでもこの場を離れることのみだ。エクシブは立ち上がりまわりに言う。


「これより山越えに挑む。おそらく馬車は既に準備を終えているだろう。各自厳戒態勢で臨め」


 各隊長位の者たちは頷きエクシブに注目する。今までののんびりとした旅ではない。皆が魅せるその瞳は覚悟を超えた戦士のもの。

 エクシブはゆっくりと息を吐き吸い上げ伝える。


「ここからが我ら傭兵団の本領発揮だ。今から部隊順列を伝えるので名を呼ばれたものから出発を始めろ!」


 エクシブの指示の元、名を呼ばれた者たちが順に部屋を出ては走り去ってゆく。部屋に残ったのは呆然と立ち尽くしたジャンクと指示を終えたエクシブ。


「行くぞ、ジャンク」


 ゆっくりと部屋を出るエクシブを見送るように首だけが回るが、はっと気付いて急いで追いかけた。


稚拙の物語を読んでいただきありがとうございます!

少なからず、楽しんでいただけたら幸いです。

連休中は、更新を頻繁にさせていただきます。

もしよろしければ、お付き合いくださいませ。

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