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52 傭兵、酒場で悩む

 ジャンクとの代人契約も終わったその日の夜、傭兵たちとキャラバンの者たちは、ラフェスト商会が経営する酒場で異様な盛り上がりを見せていた。

 これからの道のりは長い、ともなれば友好を深めるのは当然のことであり、この宴はまさに必然なのだ。

 それはエクシブにもわかっている。だからこその酒場である。

 勿論やることはそれだけではない。

 だが、最早真面目に話を聞ける者はほぼ皆無であろう。

 まあ、それもグルーの言葉があったからこその今なのかもしれない。

 宴会の始まり。グルーによる今回の代表としての言葉。


「今日の場所代はおれの奢りだ! 好きなだけ飲みやがれ!」


 響く歓声、舞い飛ぶ酒、吐かれるエクシブのため息。


「ああ、もう、どうしたものだか……」


 いつもなら隣にいるはずの相方までもが、真ん中のテーブルを数人で陣取り一気呑み勝負を始めている。

 エクシブはゆっくりと店内を見回しながらカウンター席に座り呆然と眺める。

 最早この状況を止めることは今後に響きかねない。出鼻を挫かれたエクシブが悪い。

 悩むエクシブは椅子に座り、カウンターに向けて上体だけを仰け反り、天井を見つめていた。すると、にやにやとそれを見付けたグルーが、酒を片手に隣に座った。


「悩んでいるなあ、若者よ」


 その声に、上体を戻し苦笑いで顔を向ける。


「若者、と言うほど若くはありませんよ。ただ、オレには前途多難だと、少々弱気にはなっていますが」

「くく、わしからすれば充分若い。さて、これからのことを考えると、前途多難はこちらとしても困るのだが──」


 グルーにはエクシブの悩みがわかっているのだろう。まだ空のままとなったエクシブの器に笑みを浮かべたまま酒を注ぐと、満たされた器を持ち一気に身体に流し込む。


「依頼の始まりは酒の席。常套手段ですが、まとめられなければ意味がない、改めて自分の未熟さを知りました」


 苦笑いを浮かべたエクシブ。グルーは一度、共に飲んでいる為、エクシブがどれだけ酒を呑むか知っている。空の器をそのままに宴をみつめるあたり、諦めたわけではないようだ。


 グルーはおもむろに酒をエクシブに持たせると、椅子から立たせて耳打ちした。


「グラン=エクシブ、悩んでたって何も始まらんことはわかっとるだろ? 酒の席で飲まないのは無しだぜ」


 その言葉に困った顔をして見るエクシブ。グルーはポンと背中を叩いて続けた。


「とりあえずその酒が無くなるまで回ってくると良い。そのうち答えも出るだろう」

「……わかりました。歩いているうちに良い考えが浮かぶかもしれませんしね」


 そう言うと、エクシブは近場の集団にへと向かいだす。


「待っててやるから、潰れない程度に戻ってこいよ、グラン=エクシブ」


 エクシブを見送り、自分の器を飲み干して言う。


「嬢ちゃんは付いて行かないのか?」


 いつの間にかグルーの横で、ちびりちびりと飲むココ。

 なくなってしまったのか、名残惜しむ様に最後の一滴を口に入れようとしながらこたえた。


「あれはリンの仕事だからの。ウチがでしゃばるのは余計なお世話と言うものよ」

「ほう、彼の悩みがわかったか」


 ココはカウンターに置いてあるグルーの酒を自分の器に入れつつこたえた。


「リンの心配は組合せ。何せ長旅のようだからよ。仲の互い違いほど厄介なものはない。ぬしもそれがわかってて奴を回らせたのではないかよ? 酒が入れば自ずと仲間で集まるからの」


 中身は長寿の白狐、しかしそれを知らないグルーからすればたかだか十数才の小娘が、言うまでもなくすべてを理解している様に見える。テランからはただ者ではないと聞いてはいたグルーであったが、思わず感嘆の息を漏らす。


「なあ嬢ちゃん、ただ者ではないとは聞いていたが、いったい何者だ?」


 ココはクフフと笑い、飲み干した器をグルーに向けてこたえる。


「ウチは嬢ちゃんではなく、行商見習いのココ。それ以上でも以下でもないの」


 ココのこたえにグルーはにやりと笑い、差し出された器に酒を流し込み言う。


「くく、面白い二人組だ。今度の旅路は楽しめそうだ」


 旅の始めを祝う今宵は、長く深い時間まで続いたのであった。




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