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51 傭兵、弟子をとる

「旦那、お疲れさん。結構盛り上がったじゃないですか」

「あんなのはただの勢いだよ。本来、苦手な分野だからな」


 嫌そうな顔でこたえると、グルーはエクシブの肩を叩き言う。


「苦手であれなら充分だろう。今すぐ戦にでも行くのかと思ったよ」


 すると、エクシブは頭を軽く掻き、苦笑いでこたえる。


「正直そのつもりでやったんです。うまくまわりがハマってくれたんで助かりました。戦でもなければあそこまで鼓舞する意味はないんですが……」


 妙な含みで話を止めるエクシブにグルーは首を傾げ、先を促す。


「ウチの将軍は変なところが厳しくて。失敗なんてしていたら、久々に帰ったところを斬られかねません」


 まさか、と笑おうとしたグルーだったが……、エクシブの隣で真剣に頷くダグラスを見た。


「……ああ、えっと、上手くいったんだから、なあ。良かったじゃないか」

「まあ、そんなことはどうでも良いんだがよ」


 思わず苦笑いでエクシブに返すグルーだったが、そんな会話を遮り、ココはジャンクをエクシブの前に連れて問う。


「こやつはどうするのかの?」

「うん? ああ、そうだった」


 忘れていた、と言わんばかりにこたえるエクシブにココはいつものからかい顔で更に言う。


「こっちにやっときながら、決まってないなんて言う様な奴を、ウチは喰わねばならんらしいからの」

「うっ」


 思わず言葉を失いジャンクを見るが、余計なことを言った自覚がないのであっけらかんとしている。

 エクシブは言い返すのを諦め、ダグラスに言う。


「こいつはオレが連れまわす。目的地はステージア、着いたら手紙を寄越すって双子に伝えといてくれ」

「はいはい。で、どちらに……、って聞くまでもないか」


 エクシブは頷き更に続ける。


「計画書はイグナスまでの依頼書の写しを送ってくれ。後のは自分でやる」


 何やらわけのわからないやり取りをする二人に、不思議そうに見るココたち。

 例外はキックスやギルド内の傭兵なのだが。


「あの、オレを連れまわすって……」


 この話題の中心人物たる当の本人が、一番不安と疑問を浮かべた顔をしている。

 そんなジャンクにダグラスは不思議そうに問う。


「お前、双子に仕事みつけて自力で帰ってこいって言われてたんだろ?」


 すると、ジャンクは大きく頷いてこたえた。


「そうだよ。半年もここにいるんだから、いくらグラン=エクシブの相手だからって、キャラバン同行なら兎も角、連れまわされてる暇なんて──」

「あー、うん。わかった。お前は何にも理解してない」


 ダグラスはジャンクの話を遮りそう言うと、苦笑いしてエクシブに振り返る。


「旦那、こいつダメだ。双子も何を考えているのやら」


 次から次へと心労がたたったのか、盛大なため息をついてエクシブは言う。

「ジャンク、これからも傭兵を続けるつもりならよく聞いて覚えておけ」


 ジャンクは神妙な面持ちで静かに頷き続きを待つ。エクシブは聞く体制に入ったことを確認すると、ゆっくり話始めた。


「連れまわすと言うのは傭兵の用語で、既に依頼を受けている状態で別の依頼を受けなくてはならない場合に自分の手が離れている依頼者を護る為のものの一つだ」


 傭兵は、ギルドや自国に申請を通し二つ以上の依頼を請けることが出来る。

 これは個人で依頼を受けている最中に戦などで主となる傭兵団の呼び出しに応える為の契約制度の一つである。

 エクシブの説明にジャンクは疑問を持ち問う。


「それって、代人契約じゃなかったっけ?」

「そうか、代人契約は知ってるんだな。ダグラス、何か書くものをくれ」


 エクシブはカウンターにジャンクを座らせ、ダグラスから物を受け取るとまた説明を始めた。


「ものの一つ、と言っただろ? まあ、間違ってはいないが、連れまわしは代人契約の一種で契約の主だった傭兵が、自分より経験の少ない者を鍛えたりする為のものでもある」


 エクシブはそう言うと、何かを書き始めた。


「例えば、今回の部隊編成も大掛かりな代人契約と言える。オレ独りでは無理だから、見きれない部分の人数分だけ編隊を組むんだ。つまりは人数が多いだけで内容は変わらない」


 他にも代人契約は他の呼び方となっているものが多く存在する。

 自分より下の者を連れていくもの、大人数で隊をつくるもの、細かい条件で変わるが、自分以外の誰かに頼むという根本は一緒である。


「細かく言うとまだまだあるが、とりあえず幾つかをまとめておいた。よく読んで覚えておけ」


 そう言うと書き終えた羊皮紙を渡す。ジャンクは受け取りそれを見るが、苦笑いしてエクシブへと返した。

 エクシブは訝しげに見るとジャンクは理由を口にする。


「おれ、字が読めないんだ」

「えっ!?」


 驚いたエクシブにダグラスは頷いてこたえた。


「本当ですよ。こいつは字の読み書きが出来ません。何度教えようとしても駄目で、遂には、傭兵は腕があればそんなものはいらない、とかぬかしやがる次第で」


 エクシブはまた深いため息を吐きジャンクに言う。


「仕方がない。今更どうこうしたって変わらないからな。基本となるアストレア文字は道中に教える。文句は言わせないからな」

「そんな!? オレは文字をおぼえるだけの旅なんてごめんだ! 強くなりたいんだよ。グラン=エクシブ、あんたみたいに」


 剣だけで生きる。傭兵からすれば理想であろう。

 腕を信じられ、外から勝手に依頼が舞い込み、仕事を探して走り回る必要すらなく、自由な身。

 恐らくジャンクの目からはエクシブがその様にうつるのであろう。

 しかし、そんなに甘い世界ではない。エクシブはゆっくりと言う。


「文句を言わず来るか、それとも辞めるかはお前次第だ、ジャンク」


 エクシブはジャンクに何を言っても意味を成さないと感じたのか、選択を与えた。

 ギルドの端の方では、今までを見てきた傭兵たちが、人が良すぎると愚痴る。

 少しの沈黙、そしてジャンクは問い返した。


「アンタに付いていけば、オレは傭兵になれるのか?」


 大きく頷きジャンクはその手を掴んで叫ぶようにこたえる。


「お願いしてます!」


 少しの沈黙がギルドに広がる。


「……いや、してます、って」


 思わず回りが言い間違いに突っ込み、ジャンクは不思議そうな顔で首を捻る。


「……先ずは、言葉遣いからだな」


 エクシブは、旅とはまた違う不安を感じつつ、苦笑いしながらも、希望と信念に燃えるジャンクの手を強く握り返すのだった。



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