50 傭兵、声をあげる
「合格者集合!」
まるで地響きの様な、ココに至っては思わず耳を塞いでしまうほどの凄まじい声に、皆が鎮まる。
瞬間、特に決められているわけでもないのに、傭兵たちは自然と縦五列、横六列に並び次の言葉を待った。
「ほう」
思わずグルーから感嘆の声が漏れる。
あれほど自由奔放にしていた彼らが、訓練を重ねた騎士団さながらの動きを魅せるのだからグルーの反応も納得である。
「旦那」
準備は出来た。
ダグラスがエクシブに声をかけると、静かに頷いて口を開く。
「待たせてすまなかった。とは言え、調度良い暇潰しがあったようだが」
キックスとジャンクの手合わせのことだろう。回りから軽い笑い声があがる。
皆が笑うと言うことは、こちらの話を聞いていると言う証拠だ。それを確信し、エクシブは続ける。
「さて、ここからが本番だ。今回はベルレットキャラバンの護衛となる。ここからイグナス間は長い旅路だ。その分拘束期間が長くなるが傭兵としての誇りを忘れず、所属している団に恥をかかさぬよう行動してほしい」
「ふむ、リンもなかなかやるの」
なかなか胴に入った話し方をするエクシブに、ココがこぼす。
「ええ、流石です」
間髪入れずに褒めるのはキックス。
二人が言うだけあって、ため息傭兵とは違う、上に立つ堂々とした姿であり、それを他に認めさせるには充分の資質を魅せていた。
「急拵えの傭兵団だが、名前がなければ不便だ。なので、グルー隊長の主名をお借りし、警護の間、我らはスカーライ護衛兵団と名乗る!」
「おおーっっっ!!」
良否は傭兵たちの声の響きで決まる。
ダグラスはにやりと笑う。
「決まりだ。旦那、最後の仕上げを」
ダグラスの言葉に、エクシブは少し嫌そうに苦笑した後、すっと息を吸い、一気に声と共に吐き出した。
「スカーライ護衛兵団に異論無き者! その長は誰だ?」
「グラン=エクシブ!!」
一斉にエクシブ名を叫ぶ傭兵たち、その声の凄まじさにココは驚きキックスに問う。
「いっ、一体何事よ?」
「まあ、見てればわかりますよ。グラン=エクシブの決声唱和はなかなか見られないですから貴重ですよ」
「決声……、唱和?」
何やら凄いことをしている、と捉えたのか、笑顔でこたえるキックスにココは静かに従いエクシブを見詰める。
「我らに敵無し!」
「グラン=エクシブ!!!!」
決声唱和、依頼前に鼓舞し士気をあげると言う傭兵の決まり事の様なもので、言葉に対して傭兵たちが長となる者の名前を応え返すというもの。
この返しで長となる傭兵の大きさがわかるとも言われている。
響く声に、いつの間にやらギルドには野次馬が集まっていた。
しかし、熱気溢れた彼等には関係なく、エクシブの決声唱和はとまらない。
「我らに護れぬもの無し!」
「グラン=エクシブ!!!!!!」
気付けば関係無い者たちまでエクシブの名を叫んでいる。
そのまわりすべてを巻き込み、今か今かとエクシブの言葉を待つ。
「我らこそ最強の傭兵団!」
「グラン=エクシブ!!!!!!」
最高潮に仕上げられたこの場。
エクシブは片腕を振り上げ声を枯らさんばかりに叫ぶ。
「いくぞーっ!! 傭兵が剣だけではない誇り高き戦士であることを見せ付けてやれ!」
「おおぉぉーーっっ!!!!!!」
応えて返す傭兵たちと、まるで讃えるかの様に叫ばれ続くグラン=エクシブの名。
「腕だけで上がった訳ではないと言うことかの」
これが無敗と言われる十兵団の一団を任されるエクシブのつよさ。
ココは改めて相棒の実力を目の当たりにした。
改めたのは何もココだけではない。キックスや、元部下だったダグラスまで驚いていた。お決まりの儀式だけに、本来、戦でもなければここまでにはならないのだが……
「……噂に違わぬ存在感。普段はただの優男なんだがな」
グルーは満足気に言う。士気の高さは今後の旅を左右するもの。ここまでのものが見られたならば不安を払拭させる。
「す、すげえ……、鳥肌、立った」
「当たり前です。伊達に十兵団のグランを名乗ってません」
決声唱和を目の前に興奮するジャンクと、まるで自分のことの様に自慢気に言うキックス。
「ふむ、いつもため息ばかりのリンも、上に立つ時ばかりは器の広さが見えるの。誰かさんも見習ってほしいものよ」
ココの言葉に思わず苦笑いになるキックス。
雄叫びの様な傭兵たちの声が静まりだしたころ、エクシブの口が開いた。
「みな、よく聞け。二日後にはこの街を発つ。今夜ラフェスト商会の酒場にて一つ目の立ち寄り地点までの計画を決めるので集まるように! 以上、解散!」
まるで今までのことがなかったかのように散々となる傭兵たちと、熱気冷めないのか、はたまた、まだ何かがあると思っているのか、ちらほらと残っている街の住人。
やはり疲れがあるのか、エクシブはふっ、とため息をつき、ギルドに戻っていく。
次いでダグラスにグルーも入っていくので、外で待っていた三人娘とジャンクも追いかけるようにギルドへと入っていくのだった。




