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49 狐、手合わせを見る

「何がわかったってんだよ!」


 馬鹿にされているとでも思ったのか、怒りに声を震わせるジャンク。

 キックスは腰に付けていた黒い革手袋を両手に嵌めるとジャンクに言う。


「貴方には座学より実体験が一番と言うことね」

「上等!」


 傭兵は私闘は禁じられている。

 本来なら許されざるものだが……。


「ジャンク、ヌシを雇うかはキックスとの立ち回りで決めるからよ。キックスもそのつもりで相手をしてやってくれの?」


 この言葉だけで私闘ではなくなる。

 しかもココは立回りと言った。簡単に言えば寸止めである。


「了解しました」


 ココの言葉にこたえ、キックスはゆっくりと腰を落としてかまえた。


「女だからって手加減しねえからな! 泣いて謝らせてやる」


 今のジャンクには何を言っても挑発的に聞こえるのだろう。キックスはぽつりと言う。


「弱い犬ほど、って言葉を知ってる?」


 それが合図になったのか、ジャンクは物凄い勢いでキックスに飛びかかった。

 勿論、ただ飛びかかる訳ではない。身のこなしが元盗賊と言うだけあって軽く、常にキックスの死角を狙う様に動き攻撃を繰り出した。


「言うだけはあるってとこね」


 キックスは慌てることなく、すっ、と息を吸うと、ゆっくりと吐きながら襲い来るジャンクの攻撃を避け、常にジャンクを正面に向かう様に動く。

 ジャンクは上段、中段、下段を順不同に三連撃を放っては離れ、の繰返しで相手を翻弄しようとするが、ひらりひらりと簡単に避けては流され、更には死角にすら打てない。


「くそっ!」


 悪態をつくジャンクだが、冷静さを取り戻しつつあるのか、大雑把だった動きが小さく正確になっていく。

 少しづつキックスも避けから受け流しへと代わると、ジャンクは更に三連撃の速度を上げていく。


 途端にキックスにも変化が現れる。

 三撃離脱を繰り返すジャンクに正面を合わせていたキックスだったが──。


「あ、あれっ?」


 急にジャンクのリズムがズレ、動きの流れが淀み始めてきた。

 まわりで見ていた者も首をひねり出す。ジャンクがキックスに当てていたはずなのに音は無く、何故かキックスの身体が薄くなっている様にも見えるのだ。


「くっそ! 何で当たってるのに!」


 視覚では確実に捉えているにも関わらず、手応えがない。

 まるで煙でも相手をしているかの様な感覚に落ちいてしまったジャンクは、中段での回し蹴りで、それを一蹴すべく真一文字に放つ。

 今まで小刻みに攻撃を仕掛けていたジャンクのいきなり大降りに反応出来なかったのか、まともに横からくらってしまい、くの字に身体が歪むキックス。


「よっし!」


 誰から見てもジャンクの一撃はキックスを倒すには充分のものに見え、ジャンクも手応えがあったのか思わず勝ちを宣言するかのように片腕と声を上げる。


「詰めが甘過ぎ」


 ぽつりと耳元に来た言葉に、目の前でくの字に歪んでいる者が人ではないことに気付いたが、時、既に遅し。

 いつの間にやら足元にいたキックスはくるりと足払いをし、ジャンクは片腕を上げているその姿のまま倒れていった。


「くっ!?」

「終わり」


 立ち上がろうとしたジャンクだったが、胸に片膝を付かれ、その面前には寸止めされたキックスの拳。


「……まいった」

「はい、お疲れさま」


 すくっ、と立ち上がりジャンクに手を伸ばすと、悔しいのか、はたまた照れているのか、目線をずらしてその手を借りて起こされると、回りからは拍手が響き渡った。

「こんな感じでどうですか?」


 キックスに問われると、ココは満足気に頷いた。


「……いったい何の騒ぎだ?」


 誰にでもなく問うダグラス。どうやらエクシブの選別も終わったらしく、出てみれば何やら人だかりが出来ているため、問うたのだ。

 よく見れば中心にキックスとジャンク、で満足気に笑う相方を見付けたエクシブは、何となく事の次第に気付き、重いため息をついた。

 ジャンクとキックスの手合わせと同時に終了したエクシブの選別。


「どうするんだ? これ」


 グルーが問う。

 雇う身となればさい先不安になるのも無理はない。最早小さな祭りである。


「……始めてくれ」


 言葉を返すのも面倒になったのか、エクシブはまた軽くため息をつき、ダグラスに指示すると、そこに居るすべての者に聞こえるように声をあげた。


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