48 狐、新たなからかい相手を見つける
エクシブに言われ疑問符ばかり頭に浮かべるジャンクは、言われた通りにココを探し始める。
外にいると言うのだからそんなに離れてはいないだろう、と歩き出したジャンクだったが、それはもう気が抜けそうなくらい簡単に──。
「……見つけた」
三人並んでいる娘。
その三人のまん中、見覚えある者が片腕を高く挙げ、来い来いと手を降り、にやにやと笑いながらジャンクを無言で呼ぶ。
何やら身の危険を感じたジャンクはエクシブの一言を思い出し、あることに気付いた。
「たぶん、色んな意味でグラン=エクシブよりツヨイ」
ジャンクはおっかなびっくり警戒しながら近付き、ココの目の前に着くと口を開く。
「あの、えと、グラン=エクシブに言われて、いや伝え? られて、来たんだけ……お、伺い? したんですけど」
エクシブの注意事項を遵守すべく、使いなれない言葉にわたわたとするジャンクに、ココはクフフと笑ってこたえた。
「態度に気を付けろとでも言われたんだがよ。ウチはそんなあやふやな言葉よりは普通に喋ってもらった方が良いんだがの」
「えっ? いいの? あっ、じゃなかった。およろしいのです、か?」
ココの言う通り、これでは録に話も出来なさそうな言葉を続けるジャンクに間髪入れずに返した。
「ふむ、ウチが良いと言うのだから良いに決まっとるよ」
すると、一気に警戒がとけたのか、ジャンクはいつも通りの話し方に戻った。
「ああよかった。堅苦しいは話し方わからんわで、正直困ってたんだ。それにしてもグラン=エクシブも人が悪いよな? 態度に気を付けないと喰われるぞー、なんて言ってさ」
「ふむふむ、奴はそんなことを言うとったがよ」
口元は笑顔だが目は笑っていない。間違いなく余計なことを言ったジャンク。思わずキックスが口をだした。
「グラン=エクシブの言う態度は、そんな片言な話し方をすることじゃないと思うわ」
「……あんたは?」
少し強めに言ったせいかあからさまに不機嫌な態度でジャンクは問う。
「暁部隊のキックス。これでも字持ちよ」
どうだ、と言わんばかりに胸を張るが、ジャンクは心底困った表情をして首を傾げた後、ばつの悪そうな顔でキックスに問うた。
「字持ちって……、なんだっけ?」
字持ちとは、いわゆるエクシブで言うところのグランの様なもので、それなりの地位を表したものである。
特有のものではあるが、名のある傭兵団であるからこそ、それだけでどの位の実力があるのかがわかるようになっている。
前にガゼールがグラン=エクシブと呼んでいたように傭兵だけではなく戦場に縁がある者からすれば謂わば一般常識。
強き者を知るのはそれだけ戦場で命を繋ぐのに重要だと言うこと。
勿論、傭兵として職務に就くジャンクが知らなくてはならないことではあるが。
故に、キックスが怒りに顔を歪めるのも無理はない、明らかに各下であるジャンクの反応は、挑発行為としか思えない。
そんな二人のやり取りに、くすくすと笑う狐。
「貴女まで侮辱するつもりですか?」
キックスはココを睨み付け、怒気を込めるが、ココは気にした様子もなくこたえた。
「この様子じゃ、ジャンクは本当にわかっとらんよ。ヌシも上からの態度をとるならもう少し余裕をもった方が良いの」
「べ、別に上からなんて思っていません! わかっていないことが問題なんです! 貴女はまだしも彼は傭兵ですよ?」
ココは一息ため息をつくと、やれやれと肩を竦めて言う。
「リンならため息一つで済ます事柄よ」
「ううっ」
自分が意固地になりかけていることに気付いたのか、キックスは唸って言葉を止めた。
「ウチが見立ててもヌシの方が実力は上と言うのはわかりよ。しかしながら、それなりの器と言うのは何も実力や肩書きだけではないんよ」
一見すると明らかに年下のココが年上のキックスを説教している様にも見えなくはないが、その正体を知る者からすればなかなか重い言葉だ。
何せ肩書きだけならば、神にすらなった存在である。
「おい、待てよ」
だが、それすら恐れない者がいる。
「誰が、誰より実力あるって?」
こうなることがわかっていたのか、ココはにやりと笑ってキックスに言う。
「ため息一つで済むことだがよ?」
「ええ、よくわかりました」
キックスとジャンクの間に吹く不穏な風を、ココは面白いものを見つけたかのように見つめるのであった。




