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42 傭兵、思い付く

「さてと、どうするかな」


 そんな一人言を呟くエクシブだが、足が向く先は決まっている。言うまでもなくギルドだ。

 五大国の中継地となるだけあって様々な人種が行き交う街。

 ふらふらとギルドに向かうエクシブはある人物を発見した。

 黒い長い髪を後頭部で止め、それはまるで馬の尻尾の様に揺らしている女。

 街娘にしては飾り気がなく、職人にしては軽く、汚れてもいない。

 変わっていることといえば、人としての気配がやたらと薄い。

 たまたま視界に入ったから気づいたエクシブだが、そうでなければ人がいたことにすら気付かなかっただろう。

 だが、それ故に間違いない。

 確信したエクシブは名前を呼ぶ。


「キックス!」


 不意に呼ばれ振り向く女。

エクシブに気付き笑顔で近づいてきた。


「グラン=エクシブ! どうしたのです? こんなところで」


 前回の事件で主犯として名前を使われていた暁の傭兵、黒蜥蜴ことキックスである。


「これからギルドに行って時間を潰そうかと思ってな。お前こそどうしたんだ?」

「今日は暇なので散歩中です」


 傭兵の立場としてはエクシブはキックスよりかなり上位の者となる。

 とは言え、身内に平常時すら敬語を使われるのは嫌な様で、エクシブは笑顔で告げる。


「こんな街中でそんなにかたく話すこともないだろ?」


 すると、キックスは傭兵の顔から年相応の娘の顔となる。


「わかったよ、リン兄」


 キックスとエクシブは同じ孤児院で育った義理の兄妹である。故に、流れでそうなったとは言え、この前起きた事件で彼女を手助けし、共に行動していたのだ。


「ところで暇だとか言ってたが、その後の処理は終わったのか」

「なんとかね。今は仕事しながらお金稼いでる。今日は休み」


 キックスの言葉に表情を歪め聞く。


「仕事? お前、たしか停職中じゃなかったか」


 停職中の依頼はご法度だ。それを察したのか笑いながらエクシブに言う。


「仕事と言っても軽い荷物や手紙の配達とかだよ。ギルドから暁に詳細を送ってもらったのはいいけど、復帰するのに一度ステージアに戻る必要があるしね」


 キックスは苦笑いで続ける。


「さっさと帰りたいんだけど……、先立つものが、ね」

「そうか」


 エクシブも苦笑いで返した後、ふと気付く。


「キックス、ステージアにはいつ帰る?」


 急に問われ怪訝な表情で返す。


「だから旅費がまだ足りないって。急ぎたいけど当分先だと思うけど──」


 その言葉ににやりと告げる。


「条件によっては丁度良い帰りの足を紹介出来るが、どうする?」


 条件という言葉に少し引っ掛かるキックスだが少しの間の後、ゆっくりこたえる。


「リン兄が無茶なことを言うとは思えない。でも……」

「よし、ならギルドに行こう。条件はそこで説明する」

「わかった」


 まるで策略を思い付いた相棒の様ににやりと笑い、エクシブはキックスを引き連れギルドへと向かった。

 程無くギルドに辿り着いた二人だったが、先程出たばかりのエクシブを見てダグラスは苦笑いする。


「旦那、いくらなんでも早すぎるぜ」

「人数に関して良いことを思い付いたんだ」


 そんなダグラスの表情を無視し、間髪入れずに返すエクシブの言葉にダグラスは聞き返そうとしたが、その後ろにいるキックスを見て顔を歪めて言う。


「ギルドに違反を見逃せと?」

「何を言っているんだ? 違反なんかするつもりはないぞ」


 しかしダグラスは信じられないと言った顔で更に問う。


「なら、後ろの黒蜥蜴は?」


 エクシブは一度振り向きキックスを見た後、にやりと笑いダクラスに言う。


「違反はしないが策がある」


 違反はしないが。

 この言い回しに正当性を疑問視するダグラスは、無言で手招きしエクシブたちをギルド長室へと迎えた。 扉の先は壁が分厚く、窓もない小部屋。あるのは小さなテーブルが一つだけ。

 機密事項や表立って出来ない依頼を受ける場所である。


「で、何を思い付いたんです?」


 蝋に火を灯しながら問うダグラスにエクシブは言う。


「自己防衛の為の抜刀を利用出来ないかと考えてるんだ」

「防衛抜刀を? 自分に危険が訪れた場合のみ抜けるあれですか」


 通常生活時、依頼最中や訓練ではない限り傭兵は人に向けての抜刀は禁じられている。

 とは言え、そこらで戦が拡がる物騒な世の中である。危険が迫ってしまえば、そんなことを言っている場合ではない。

 故に自らの命を守る為にのみ、武器を抜くことが許される。

 それが防衛抜刀である。


「でもあれは逃亡手段をつくる為の法ですぜ。警護として使えばただの違反じゃすまなくなる」

「わかってるよ」


 あくまでも自らの命を守る為だけの法である。

 そんな偶発的なものへの対策法を自発的に関わらせようとしているのだ。


「で、どう使うんです? それによっちゃあオレは立場的に止めにゃあならない」


 ギルド長は他国にその力と存在を示す責任ある役職、何よりも法に遵守している。

 だからこそエクシブの不可解な内容をしっかりと把握しなくてはならない。

 そんなダグラスの言葉にエクシブは頷き口を開いた。


「ここにいるキックスのようにステージアに、戻りたい奴等とオレが編成する傭兵の合計二軍を編成しようと思う」


 ほう、と呟き顎に手を添えて先を促すダグラス。


「先の事件で戻りたい奴等は沢山いるはずだ。剣を抜かずに監視のみで旅費がかからず帰れるならのってくるだろう」


 しかし、ダグラスは顔を歪めて聞き返す。

「確かに数は多い。簡単に集められるでしょう。だが、襲われても役立たずじゃないですか。何度も言うようだが、警護として使えばただの違反。防衛抜刀は逃亡主軸なんですからね」


 エクシブはにやりと笑い言う。


「そう逃亡主軸。だが、それは相手しだいだろう?」

「──それは」


 まさかそんなことを! と言いたげなダグラスにエクシブは説明を続けた。

 詳細を聞いたダグラスとキックスは呆気にとられた顔をしてエクシブを見る。


「旦那、よくそんなこと思い付きましたね」


 ふっ、と笑いながらエクシブはキックスに問う。


「ココが居なければ思い付かなかった。そんなわけでかなめはお前になるわけだが……。のるか?」


 キックスは顔をひきつらせてこたえる。


「詳細を聞いてから付いて行けば良かったと、後悔してます」

「決まりだ。人集めは頼んだぞ」


 ダグラスは天井を仰ぎ見て言う。


「あーあ、こんなことなら変な老婆心出さずに、さっさと外に出しとけば良かった。怪我人だからと同情してると録なことになりゃしない」


「はいはい、悪かったよ。それじゃよろしくな。オレはそろそろ相棒を迎えに行かないと喰われかねない」


 ひらひらと、片手を振りながら部屋を出るエクシブの背中に向かって二人は「喰われてしまえ!」と言うのだった。


 ギルドを出るといつの間にやら空は紅く染まりだしていた。

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