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41 狐、準備を始める

「なんよ、随分とご機嫌なようだの?」


 ココに言われて自分が笑っていることに気付く。懐かしさに思わず顔が緩んでしまったようだ。


「ま、まぁ、気にするな。ほら、旅の順路の情報を集めるんだろ?」


 見られたくなかった姿なのか、妙に照れるエクシブにくふふと笑う。


「なんだよ」


 不満げに聞くエクシブにココは言う。


「言った方が良いかの?」

「ぐっ」

「くふふ、ウチを相手にするにはまだまだだの」


 牙をちらつかせ笑うココに、エクシブは無言で降参した。

 その姿に満足げに頷くココに問う。


「先ずはどこに行く?」


 聞かれてココは人差し指を顎にあて、考え始めた。


「ふむ、そうだの」

「順路はさっきの依頼書にあったから良しとして、ギルドじゃどんな場所かはわかっても、品物相場の詳細なんてわからないからなあ」


 テランや女将に聞けばすぐにでも手に入りそうな情報だが、それでは意味がない。

 これから先は細かい交易情報を自らの手で集めなければならない。

 始まりから頼っている様では、これから先の旅が不安である。


「定石だがよ、酒場に行くとするかの」

「まあ、確かに定石だな」


 エクシブが納得するのも無理はない。この街の酒場はラフェスト商会の土地の中にある。

 商人としての情報を集めるにはこれほど適したところはない。

 更にココは行く先を追加する。


「その前に、服屋に行こうかの」

「服屋?」


 首を傾げ聞き直すエクシブ。


「クフフ。まぁ、行けばわかるからよ」


 こたえをもらえず、頭をひねり続けながらエクシブはココに連れられ服屋へと向かった。

 辿り着いた店の表にある籠にはボロボロの布束や長さがまちまちの紐。金の無い下働きや、汚れる仕事が多い者、その他服としてではなく、違う利用をする者などが買う。

 夏が終わり始めた今は、寒い冬を越える為に今から買い集めている者までいる。

 故に見た目とは違い、一番の売れ筋でもある。

 しかし、ココは興味なさげに店へと入っていった。どうやら目的はこれではないようだ。

 エクシブも追って入るが、中には店員の影すらない。

 ココはふむと一言呟いた後、口の左右に手を広げて奥に響くように大きな声で店員を呼ぶ。


「誰かいるかの?」


 店の奥に問うココの声に「はいーっ、すみませんー。いらっしゃいませー」と、何やらやたらと語尾が伸びる、のんびりとした声が返ってきた。


 出てきたのは、声だけではなく見た目ものんびりした印象の娘。

 開いているのか閉じているのかわからない細いタレ目に、袋をそのまま上から被ったような服装。髪は栗色のふわっと柔らかそうに波打つ長いもので、ちょこんと首を傾げる度にふわふわ揺れる。


「プリウ、ぬしが店番だったとは丁度良いよ」

「わあー、ココさーん。私をお呼びってことはー、もしかして──」


 大きく頷いて返す。


「うん、遂にぬしに頼む時がきたんよ」


 妙に盛り上がる二人だが、エクシブは完全に置いてきぼりである。

 何の話をしているのかさっぱりわからない。

 それに気付いたのか、ココはエクシブに振り向く。


「すまんの、ぬしのことを忘れてたよ。この娘はの──」

「プリウだろ。それは知ってる」


 ラフェスト商会で付き合いのある店の一つで店長の娘。

 今着ているココの服を作ったのは彼女だ。

 他にもカレナのドレスなどを手掛ける女性に人気の服職人である。

 ココの着付けで何度か足を運んでいたため、エクシブとプリウは顔見知りだ。


「オレが聞きたいのは頼みやら何やらってとこだ」


 ココは納得し、説明を始めた。


「まぁ簡単に言えば新しく旅用の服を作ってもらうんよ」

「旅用?」


 エクシブが聞き返すと、頷き続ける。


「ふむ、今のこの服は悪くないんだがよ、山や海やと色々な場所を歩くには不便なんよ。それに」

「それに?」

「ぬしも知っとるがよ。ウチはこの服以外はあのボロ服とローブしかないことをよ」

「ああ、そうか」


 納得したエクシブ。

 ココはリハンから出る際に着た服しか元々所持していなかった。

 その頃は服を着る必要すらなかったので問題なかったのだが、今は勝手が違う。


「そんなわけでウチはここで服を選ぶからよ。ぬしは少し時間を潰してくるがよいよ」

「邪魔者扱いした挙げ句、迎えに来いと……」


 半眼で呟くエクシブに、はっと気付いたと言う感じにわざとらしく口を開く。


「そうかよ。ぬしも色気付いてきたと言うことだの。そんなにウチの着替えが──」


「夕方には迎えに来る」


 明らかにからかい始めたココに気付き早々に退散するエクシブ。

 後ろから舌打ちが聞こえるが気にしない。

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