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40 傭兵、相談する

 長い期間滞在していたが、一人で街中を歩くことは滅多になかったエクシブは、ふと隣にいつもいる筈の相棒の影を見て思わず苦笑する。


 この街に来てからと言うもの、ココは余程のことがない限り一人で行動することはない。

 群れをなさない狐がその正体ではあるが、長い年月の孤独を体験したココにとって、独りでいることは恐怖にも近いことなのだろう。

 エクシブは一度、ココを部屋で留守番させたことがあったが、思いのほか遅くなり、帰った後に泣きたくなるほど説教されたことがあった。

 街に来た当初、エクシブは特に何も感じていなかった一人行動だったが、今では横を吹く風に寂しさを感じてしまう。


「いかんな」


 ふと、苦笑いのまま呟くエクシブであったが、悪い気はしなかったのも確かだ。

 日が丁度頭の天辺に上がったころ、エクシブはギルドの入り口へと辿り着いていた。

 がやがやと騒がしい声が外まで響くギルド。

 その大きな扉をゆっくりと開く。

 一瞬静まる室内、突然の来客に注目をする傭兵一同。


「旦那、どうしたんだ? 暇潰しですかい?」


 ダグラスは依頼書を捌きながら扉の前に立っているエクシブの方を見ることもなく問う。

 エクシブは暇になるとちょくちょくギルドへと足を運ぶ。

 だが、今日は遊びに来たわけではない。


「いや、そろそろ職場復帰しようかと思ってね」

「職場復帰?」


 その言葉にじろりと睨むようにエクシブへと視線を向けるダグラスだったが、いつもと何かが違うことに気付く。


「あれ? お嬢は一緒じゃないんですかい?」


 どうやら、いつの間にか二人で来るのが当たり前という認識になっていたようだ。

 エクシブは、じと目でダグラスに返す。

「後から来るが、オレ一人じゃ不満か?」


 すると、はははと笑いこたえる。


「当たり前じゃないですか。最近は、お嬢見たさにここへと集まる馬鹿すらいるんですぜ? 旦那一人じゃ役不足だ」


 その言葉にあわせてか、数人の傭兵がガッカリしたように肩を落としてみせるので、エクシブは顔をひきつらせる。

 どうやら、このギルドはココの支配下にあるらしい。

 大きくため息をついたかと思うと、苦笑いをしながら返す。


「悪かったな。どうせ仕事もできない丸腰の違反者だよ」


 その言葉にギルド中が笑いだす。

 片手をふらふらと頭上で振りながら、「もう好きにしてくれ」と呟きダグラスの前へと座る。


「くっくっく、天下の八団グランもお嬢の人気にゃ勝てませんな」

「怒るぞ?」


 まるで怒る気配すら見せずに言うエクシブにくすくすと笑いながら口を開く。


「おっと、怖い怖い。──ところで、職場復帰とか言ってましたが、どういうことです」


 エクシブは話題がやっと本筋にきたので、真面目な表情となりテランからの依頼の内容を話し始めた。


「しかし、流石と言うかなんと言うか。復帰戦が、あのベルレット一族のキャラバンの護衛ですかい」

「うんっ? その含みからいくと何かあるのか?」


 エクシブの問いに、ダグラスは棚から昔の依頼書を引っ張り出してきた。


「無いっちゃ無いが、あると言えばある」

「なんだそれ、どっちなん──、なるほど、そういうことか」


 怪訝な表情で聞こうとしたエクシブだったが、書類をみて納得がいった。


「前回の警護要請人数が二十人、馬車数二十五か。確かにキツいな」


 通常であれば馬車程の大きさになると、一台に一人警護につく。

 しかも隊ともなれば馬車の大きさもまちまちで、積み荷の種類や乗り手によっては警護人数も変わってしまう。

 キャラバンともなれば本来なら馬車の台数に加算した人数を雇うのだが。


「こんな依頼書が残るくらいだ、旦那を雇うとなると人数は更に減らすとみた」


 エクシブが含まれていれば、例え少人数を雇いたいと言われてもギルドは承諾可能と言う。

 勿論その分エクシブに入る報酬も大きい。

 傭兵エクシブの依頼承諾可能範囲はとてつもなく広いのだ。とは言え、たった一人で護るというわけではない。

 現、もしくは旧団長位の者となると、ギルドにいる者を自らが選別した一時的な傭兵団として編成できる。依頼者はその代表者のみを雇うのだ。

 この場合、その報酬を元にエクシブが自分の補佐を雇い警護に当たるかたちとなる。

 しかし、それらに対しての支払いは前払い。つまりエクシブの自腹。依頼された傭兵が報酬を持ち逃げしない為の法である。

 減らせば減らすほど稼ぎにはなるが、代償は大きい。


「それだけは勘弁願いたいね。この短い期間で編成したって統率なんてとれやしない」


 グランという立場のエクシブだが、各個撃破の戦法を好んでつかう先行突撃部隊を率いる団長だ。正直なところ指示したりは苦手な分野である。

 エクシブを戦場で見てきたダグラスはそれを知っているためか、「旦那、ご愁傷様」と、呟くのだった。

 エクシブはげんなりした顔でダグラスに返す。


「そういうことを言うなよ。まだ決まった訳じゃ──」

「残念だがよ。雇われるのは……」


 声に驚き振り返るといつの間にやら扉にいるココ。

 片手に一枚の羊皮紙をひらひらさせて言う。


「ぬし一人のようだがよ」


 ダグラスはぽつりと言う。


「旦那、ご愁傷さま」


 はぁと重いため息をはいて、頭を支えた肘をテーブルにつくと、下から覗くようにダグラスを見て口を開く。


「取り敢えず空いてる奴を教えてくれ。制限は……ココ、お前がもってる紙に書いてあるんだろ?」

「ふむ、書いてありよ」


 ココはそうこたえると、ダグラスとエクシブの間に紙を置いた。

 依頼内容は直接聞いているので流し読み、問題の報酬を見る。


「はは、こりゃなかなか厳しいですな」


 思わずダグラスは苦笑いしてしまう。

それほどに少ない。


「そんなにかよ? うちには傭兵を雇う相場がわからんのだがよ」


 確かに一人に与えられる報酬として見ればかなり多い。しかし、これを元手に編成を組むには安過ぎる。


「馬車は三十台。ともなれば人数的には更に台数分足す五、六人は欲しいとこなんですがねぇ。これでは……」

「良くて、二十人ってところか?」


 いぶかしげな表情でココは問う。


「師匠には世話になっとるんだからよ、ぬしの取り分を考えなければ──」


 しかし、エクシブはその言葉を遮り、苦笑いでこたえる。


「既に抜いてるよ。一人増やすだけで赤字だ」


 その言葉にココは最早何も言えない。


「旦那、どうする? 断るんだったら今のうちですぜ?」


 はぁ、とため息をつき言う。


「断りたいのはやまやまだが、まぁ何とかするよ」


 エクシブの言葉に、ダグラスは立ち上がり依頼内容を書かれた書類を持って言う。


「それじゃ空いてる奴を片っ端から掴まえておきまさぁ」

「悪いな」


 すると、ふっと笑い返す。


「これも仕事だ。まぁ、大船に乗ったつもりで待ってるといい」

「すまないな。今はあんたに頼るしかなさそうだ」


 くっくっ、と笑いダグラスは言う。


「グラン=ラゲルに似てきたなエクシブ」

「な、何を」


 狼狽えるエクシブにまた低く笑い告げる。


「くっくっ、たまには先輩に甘えるもんですぜ旦那?」


 エクシブは立ち上がると、ココの手を引き扉に向かい言う。


「頼りにしてるぜ、おっさん」

「任しときな、悪ガキ」


 その声を聞くと満足げに頷きエクシブはギルドの外に出ていくのだった。

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