39 狐、女将に打ち明ける
「で、このあとどうするんだ?」
パン屋で買い物を済ませ、歩きながら食事をしていたエクシブは、同じくパンにかぶりついているココに問う。
「ウチは店に戻って、女将と打ち合わせをせねばよ。ぬしはどうするんよ?」
「オレもついていくが、テランさんからの遣いが来たらギルドに行くつもりだ」
ココはふむ、と呟いて手に残るパンを一気に食べ尽くしてから言う。
「それにはウチもついていくからよ。護衛の面子は早めに確認しておきたいからの」
ふと、考えてエクシブは言う。
「それじゃあ、店に戻って打ち合わせした後、ギルドへ行くでいいか?」
「うん」
満面の笑みをうかべて頷くココに頭をかきエクシブは言う。
「聞くまでもなかった、って感じか」
「今更かよ」
即答され苦笑いをする。
「さっさと行かんと店が開いてしまうがよ」
さっきまで沈んでいたとは思えない姿に、エクシブはため息を吐きつつ、ふっと笑い先を行くココの後をゆっくりと進むのだった。
店の前で開店準備をしていた女将は、辿り着いた二人の姿をみつけ声をかけた。
「あらココちゃん、いつもより遅かったわね。エクシブさんも」
「うん、遅れてすまんの。ちょっとヤボ用での。あっ、頼まれた物はちゃんと持ってきたからよ」
苦笑いですまなそうな顔をするココに、女将は笑顔でこたえる。
「いいのよ気にしなくても。ちゃんと開店前に来てるのだから」
相変わらずココにはあまい。
そんな二人のやりとりを黙って見ていたエクシブは無言のままココを肘で小突く。
「わ、わかっとるよ」
小声で返す。
言いにくいことはエクシブにもわかってはいるが、ココの口から言わなくては意味がない。
決心したのか、一呼吸おきココは女将を真っ直ぐ見て言う。
「女将、大事な話があるんよ」
その視線にただ事ではないと察したのか、女将は店の中へと促した。
中の待ち合い用のテーブルにつき、ココはゆっくりと口を開いた。
「ウチは近々、街を出ることになったんよ」
ココの言葉に驚いた女将であったが、詳細を聞いていくうちに納得したようだ。
気付けばいつもの温和な笑顔でココの話を聞いている。
話が終わり目を閉じて「そうなの」と呟いた後、女将は話始めた。
「ココちゃんは元々行商の修行でここにいるのだものね。いつかは行ってしまうとわかってはいたけど、やっぱり辛いものね」
「よくしてくれていたのによ。突然ですまんの」
悲しげな笑みを浮かべ、と呟くように言うココに女将はゆっくりと顔を横に振る。
「いいのよ。もう会えないというわけじゃないのだから。……あっ、そうだ」
突然何かを閃いた女将は、奥の方から一つの木箱を運んできた。
「これから旅に出るココちゃんに餞別」
「餞別?」
繰り返し問うココに笑顔で頷く。
その様子を見て、ココは静かに木箱の蓋を開ける。
中身は──。
「空……の、ようだがよ?」
空の木箱を前に、不思議そうな表情を浮かべるココ。
女将は大きく頷きこたえた。
「確かに今は空箱ね。そこにはあなたが戻ってきたときに、この店で売れるものでいっぱいにしてちょうだい」
「これを……、いっぱいに」
木箱を見つめたまま呟くココ。
「でも、元手がないと商売はできないわ。だから──」
大きく手をひろげる。
「この店にある商品を持っていくといいわ」
「えっ!?」
驚き顔をあげるココに意地悪そうな笑顔で言う。
「でも、何でも持っていけば良いわけじゃないわよ? 保存期間に価値、特に価値は土地によっては数十倍になることもあるし、逆にただ同然になってしまう場合もあるの」
「ふむ、それはわかりよ」
ココの言葉に満足げに頷き更に続ける。
「すぐに行くわけではないのだから、それまでに順路、途中で寄る町、それと目的地の情報を集めて最適な物を持っていくようにね」
「何から何まで……、すまんの」
女将に頭を深く下げ礼を言うココ。
「いいのよ。そのかわりちゃんと稼いでくるのよ? じゃないと修行の意味がなくなっちゃうわ」
その後、旅に出るまでの間にすることや、常連客の引き継ぎなどココと女将が話しあった。
三ヶ月ほどしかいなかったココに、引き継ぐほど常連客がついていたのかとも思われた。
が、帳簿で確認すると意外にも多く、ココが来てから新規で増えた客は店の常連の五分の一もいたのだから驚きである。
二人のやり取りが終わるのを待っていたエクシブだったが、持て余していた暇を潰す為、先にギルドへと向かうことにするのだった。




