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36 狐と傭兵、頼まれる

 手合わせを終え、テランのいる本店に着くと空はいつの間にやら赤みを帯びていた。


「すっかり遅くなってしまったの」


 苦笑いするココに、エクシブはやはり苦笑いで返す。


「まさに急がば回れ、だな」


 その言葉に感心したような表情を浮かべるココ。


「ぬしもなかなか上手いこというの」


 エクシブは、ふっと笑う。


「まっ、たまにはな」

「本当にたまにだがの」


 すぐに返され顔をひきつらせてココを見ると、そんなエクシブを無視して、すたすたと中へと入っていく。


「おっ。お嬢じゃないですかい。皆、お嬢が来たぞ!」


 ココの姿に、荷運びをしていた者たちが集まってくる。

 ここの皆、何故かココをお嬢と呼んでいる。

 中でも一番がたいのよい男がココの前にやってきて質問した。


「お嬢、今日はどうしたんです? なんか不足しましたか?」


 ココは満足そうな顔をして口を開いた。


「調味料が無くなってしまっての。元々高価な物だから少しで良いのだがよ、補充したいんよ」

「わかりました。それじゃすぐに持ってきますよ」

「ああ、急がんでも良いよ」


 ココは男を制止して続ける。


「たまには師匠に顔を出さぬといかんからの。出入り口に二瓶用意しといてくれれば良いよ」

「なるほど、わかりました。じゃああちらに用意して置いておきますんで」


 そう言うと軽く頭を下げ奥へと入っていった。


「なかなか、真面目にやってるみたいだな」


 エクシブが呟くと、ココはクフフ、と笑っていう。


「まあ、それもウチの器のデカさ故だがの」


 先程の男たちの殆んどは、前回の誘拐事件に関わっていたならず者たちだ。

 傭兵ギルドに捕えられた者たちはココの正体も怖さも知っている。

 最初はココへの恐怖故に嫌々働いていたのだが、ちゃんと一人の仕事人として扱うテランとココに、気付けば皆、真面目に働きだしていた。


「元々は行き場が無い者たちだからな。それに比べればここは忙しいが居心地は良いはずだ」


 ならず者の烙印を押された者には傭兵の仕事は回らない。

 行く末は、裏の仕事や、盗賊など、やればやるほど表には戻れず、命すら狙われる。


 二人はテランに挨拶するべく奥へと進んでいく。

この三ヶ月間で何度も足を運んだが、何時来ても皆忙しなく働いている。

 三階建ての広大な建物、大型の船を停泊させる港に、数十台もの馬車を収容する納屋倉庫。

 更には働き手や客として来た者や、行商人に船員など、多くの者たちの為に簡易宿や酒場まであるのだからその広さとラフェスト商会の大きさがわかる。

 正直な話、エクシブはココがいなければ今でも迷ってしまう。

 最初の一ヶ月は、エクシブが迷うたびに、元ならず者たちは見回りに来ていると、びくついていたものだ。


「リン! 何をボケっとしとるんかよ。おいてくからの」


 故にこんなことを言われれば慌てざるをえない。


「す、すまない。おいていくのだけは勘弁してくれ」


 さっさと行ってしまうココを早足で追いかける。

 建物は大きいが、テランの部屋は遠くはない。辿り着いた扉を軽く叩き、乾いた音を響かせてココは声をだす。


「師匠、挨拶に来たんだがよ。入っても良いかの?」


 すると、扉の奥から声が返る。


「おお、ココか。入りなさい」


 返ってきたテランの声に従い扉を開け部屋に入る二人。

 広い部屋の中心に大きな机と壁際にある書類が山となった机に沢山の書籍が並んだ本棚。

 テランが座る椅子の後ろには夕日に光る綺麗な海の光景が広がっていた。

 だが、そんないつもの部屋に違いがある。


「ああっ、すまんの師匠。まさか客人がおるとは思わなかったからよ」


 テランの机の前に立つ、スラッとした長身の人物。

 長い髪に端正な顔だち。誰が見ても美人とわかるその人物は長い旅をしている者なのだろう。

 見目より性能と耐久性に優れた感じの皮の服にどんな雨風も太刀打ちできそうなローブを羽織っていた。

 ココは申し訳なさそうに苦笑いをし、客人へと挨拶をする。


「話の邪魔をしてしまい申し訳ないの。ウチはテラン商会にて世話になっている者よ」


 ゆっくりと頭を下げ非礼を詫びるココ。エクシブもならい、一緒に頭を下げる。

 すると客人はにっこりと微笑んでココに返した。


「いえ、主要の話は既に終わっておりますから大丈夫です。それに……」


 くすりと笑い続ける。


「丁度あなた方お二人の話をしていたところなのですよ。ココさんにエクシブさん。お会いしてすぐにわかりましたわ」

「ウチらの話?」


 ココとエクシブは互いに顔を見合わせた後、不思議そうに首を傾げてテランをみると、微笑みながら話始めた。


「実は頼みたいことがあってな。丁度店か寝所に遣いを行かせようかと思っていたのだよ」

「頼みたいこと?」


 テランは大きく頷き、客人の紹介を始めた。


「こちらはセリア。陸路での交易で世話になっていてな。これでも行商人の馬車隊を率いてる代表だ」


 テランの言葉に遠慮がちに首を振り、苦笑いで返す。


「代表だなんて。私はセリア=アム=ベルレット。馬車隊、キャラバンの商談役をさせていただいてます。因みに、代表は父が務めておりますわ」


 姿格好に物腰の柔らかい話し方。確かにその素性に納得がいく。

 しかし、テランの言う頼み事がエクシブたちにはいまいちわからない。


「それで、オレたちに頼み事とは?」


 首を傾げて聞くエクシブにテランは頷き答える。


「実はエクシブさんにキャラバンの護衛を頼みたい。そして、ココにはそのキャラバンと共に行商での修行に出てもらおうと思う」

「修行……かの?」


 テランは真剣な表情となりココに言う。


「もともと行商としての弟子入りであるし、良い機会だからな。だが、修行と言ってもただ行商に付いていくだけじゃ駄目だ。その旅の中で新たな稼ぎとなる何か、もしくは確実に稼ぐことが出来るものを見つけることが目的となる」


 口で言うのは簡単だが、そうもうまく見つかるわけがない。それはこの場にいる者ならば皆、傭兵のエクシブですらわかること。

 ココは腕を組み何かを思考した後、テランに問う。


「いつ出発するかの? 後、期間も聞きたいだがよ」

「出来れば一週間後には出発したいですね。その頃には荷物の乗せ替えも終わるでしょう。期間はエクシブさんに護衛を依頼する関係上、砂漠の町イグナスに到着するまでですわ」


 ココの問いにセリアがこたえるとエクシブは聞きなれた町の名に気付いた。


「イグナスか、懐かしいな。ここ数年本拠地にも帰っていないし丁度いいかもな」


 ココは更に首を傾げエクシブに問う。


「イグナスに本拠地とはなんのことよ?」


 すると、エクシブは壁にかけられた地図を指差しながら説明を始めた。


「イグナスとは、カトレアから西へ行くとある、砂漠の真ん中の街なんだが、更に西へ行った先に、傭兵王バクラムの治めるステージアって国があるんだ」


 ココは地図を見てエクシブと同じように指差す。


「ふむ、ここのことかよ」


 エクシブは笑顔で頷き更に続ける。


「そのステージアこそ、オレが所属する十兵団の本拠地なんだ。傭兵は必ずどこかの団体に所属しているんだが、別にずっとその場に居なくちゃならない訳じゃない。条件はあるが意外と自由に旅ができるんだ」


 そこまで言ってエクシブは苦笑いしながら頭を掻いて言う。


「まぁ、オレの場合は自由過ぎてかれこれ数年帰っていないんだがな」


 ココは何度か頷きテランたちに向き直り口を開く。


「今すぐ即答はむずかしいからよ、明日返答する、でも良いかの?」

「お前にも常連客が付いているようだし、確かにすぐにと言うのはむずかしいだろうな。わかった。では明日の今ぐらいの時間に返答を聞くとしよう」

「すまんの師匠。では明日必ず答えるからよ」


 エクシブに帰ることを目線で知らせ、テランとセリアに一礼したココは部屋を出ていった。


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