34 傭兵、絡まれる
前回の事件で負傷し、更に違反がバレてしまったエクシブ。傭兵としての依頼の更新と帯刀を禁じられ、街からの外出も制限された。
まあ、それは怪我しても動き回るエクシブを気遣ってのギルド長ダグラスと商人テランの優しさでもある。
その間、二人はテランの店で世話になっていたのだが、それならちょうど良いと、ココはそこで商人として働き知識と経験を積むこととなった。
馬車や船等、大量の交易品をやり取りする本店と、ちょっとした物のやり取りをする商店があり、二人は後者にいる。
エクシブは店の待ち合いの端に座り本を読むちょっとした用心棒のようになっており、ココは見目の良さからあっという間に評判の看板娘となっていた。
狐の耳を三角斤で隠し、ラフェスト一家から貰った町娘が着るような上着にロングスカート、長く履いていても疲れない柔らかい革のブーツ。
最初に着ていたローブの姿とはうってかわり、店番でもしていなければいいとこのお嬢様だ。
用事も無いのに、ココに会いに来る客は多い。
ならエクシブは? と、言えば、いつも暇を持て余しており、基本的にココが店番をしているときは読書に勤しんでいたりする。
剣がよく似合う傭兵のエクシブからは想像が難しいが、意外とおとぎ話や伝説ものが好きなようで、店に数冊しかなかった棚に、いつのまにやらそれらの本が増えていた。
いつものように読書にふけるエクシブ。読み終えた本を片付け、違うものを取ろうと立ち上がったときココに声をかけられる。
「リン、交代ついでに師匠のとこで補充品を取りに行くから手伝ってくれんかの」
「わかった。荷台はいるか?」
「いや、二人がかりなら手持ちで充分よ」
すると、商店の代表を任されている女将が言う。
「ココちゃん、会長のとこに行ったらそのままあがっちゃっていいわよ。今日はもう、ちゃんとしたお客さんは来ないでしょうし、店も早めに閉めちゃうから、荷物は明日の朝一に持ってきてくれればいいからね」
女将はやたらとココに甘い。
まさに猫可愛がりだが、ココの本性は狐だったりする。
「うん、お言葉に甘えさせてもらうの。お疲れよ」
店を出た二人はテランの本店に向かう。
「まだ明るいから裏通りで近道して行くか」
「ふむ、折角早く終わりになったのだから、用事も早く終わらせたいしの」
夕方を過ぎれば暗くなりあまり治安の良くない裏通りだが、明るいうちなら大通りを抜けるより断然早い近道だ。
まあ、絡まれたとこでその辺のチンピラなんぞ敵ではないのだが。
問題は治安の善し悪しよりも、違反による停職処分中のエクシブがいざこざに巻き込まれることである。
だったら最初から通るな、と言いたいところではあるが、そんな代償を入れても魅力的な距離なのだ。
しかし──。
エクシブは後悔した。時間なんぞ気にせず、従来の道を通っておけば良かったのだ。
裏通りに入って真ん中あたりまで来たとき二人は囲まれていた。
気付いてはいたが、まさか自分達を獲物にする輩がいるとは思ってもみなかった。
「いよう、あんた女連れでここを通るって、どういうことかわかってるのかい?」
下品な笑い声をあげて囲い小さくしていく。
前後合わせて三人。
「リン、どうするかの?」
この場合のどうするかは、やるかやらないかだ。
「ギルドに訴えられたら困るな」
エクシブの回答はやった後の話。
二人してまったく相手にしていないともとれるやり取りをする中、気配で一人増えたことに気付く。
「そこのお二人さん、お困りかい?」
囲う三人のうち、リーダー格の後ろに立つ少年。
赤い頭髪に女性ともとれる中性的な顔立ちに切れ長な目と首に枷を付けた風貌。
彼はにやりと笑ってエクシブたちに告げた。
「こいつら、片付けてやるから俺を護衛に雇ってくれよ」
少年の言葉に頭にきたのか、チンピラたちの矛先はそちらへと向けられる。
「先にこの生意気なガキからやっちまえ!」
「約束だぜ?」
少年はエクシブたちにそう言うと、三人の相手を始めた。が、勝負はあっという間についてしまう。
彼は鎖鎌のような特殊な武器で相手をいなし、まるで狼か何かの獣のように俊敏に動いては一人、また一人と倒し、気付けば最後の一人となっていたのだ。
強い──。
倒された二人もただの当て身だったらしく、弱々しく立ち上がってはいるが、すでに逃げ腰になっている。
目の前の赤毛の少年は両手をはたき、逃げていくチンピラたちを一瞥して振り返った。
「運が良かったな。俺がここを通ってなけりゃ、あんたら今頃どうなってたか」
エクシブは苦笑いをし、ココは小さくうずくまり震えている。恐らく声を噛み殺しながら笑っているのだろう。人がいなければ今頃大爆笑だ。
「裏通りは、がらの悪いやつらが多い。そんなとこを女連れて歩いていたら襲ってくれって言ってるようなもんだ」
どうやら彼は傭兵の端くれらしい。
確かに身のこなしは軽く腕もたつようだが、
「まあ、わかっただろうからいいか。それじゃ約束通り俺を雇ってくれよ」
勿論約束したつもりはない。
彼は勝手に約束し、勝手に追い払ったのだ。
「さて、どうしたもんだか」
すると、いつの間にか隣に立っていたココは涙を指で拭き取りつつ赤髪の少年に答えた。
「ぬしは見所があるの。ウチの試験に合格したら雇ってもよいかの」
にやりと笑う狐娘。
エクシブは狐の考えがわかりため息をつくのだった。
「で、どこに行くんだ?」
ココに連れられ赤髪の少年は聞いた。
名前はジャンク。
着くまでに色々と話を聞くと、どうやら元々は盗賊らしく、今は蒼き狼という傭兵団に所属しているようだ。
「ふむ、ぬしもよく知っているとこよ。まあ、黙ってついてくるがよいよ」
にやにやしながら先導するココと、さっきからため息ばかりついているエクシブを見てジャンクはいぶかしげに首をかしげていたが、着いた場所を見て驚く。
「ギルド?」
着いた場所は、カトレアにある傭兵ギルドだった。




