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33 狐と傭兵、疲れを癒す

 廃墟のまわりには逃げそこなったならず者たちと、それを捕らえた傭兵。

 そんな者の中にいたテランがエクシブたちをみつけ、走り寄る。


「エ、エクシブさん! 怪我を!? 娘は! カレナは──」

「大丈夫、ちゃんと無事ですよ」


 後ろから騎士団の一人がカレナを抱いてやってきた。


「色々あったようで気絶してますが、大丈夫。背中の傷も浅いので直ぐに消えるでしょう」


 騎士に言われ、テランはカレナの背中を覗くと布をまかれ、応急措置をされている。


「良かった……、良かった……」


 ぼろぼろと涙を流しカレナを受けとり抱き抱えるテラン。

 エクシブとココはそれを見て微笑む。


 二人は馬車の御者に誘導され、共に乗り込んだ。

 馬車の前で、テランは二人に頭を下げる。


「お二方、カレナを救っていただき、本当にありがとうございました」


 あまりに深々と頭を下げるので、エクシブは頭を上げて下さいと言うが、テランは涙ながらに何度も頭を下げ続けていた。

 命と同等の宝。

 テランはカレナのことをそう言っていたが、大商人である彼がこんなにも感謝をするのを見て、例えではなく、言葉通りなのだろうと、二人は思っていた。

 馬車に揺られ地面より離れた太陽を静かに眺めていた二人。ふと、思い出したココはエクシブに問う。


「狂神に魔女の片翼とはなんよ」


 後で話すと言ったのはエクシブ。故に特に驚いた様子を見せることなく振り向いた。ココが返答を待っていると、ゆっくりと口を開く。


「十兵団の団長には西の国に伝わる十人の神々の名が与えられる。オレは八人目の神である、狂神グラン」


 絶対神から別れた十の精神から生まれし神話は西の国では有名だ。

 詩人が語る英雄端が神格化されたものとされているが、詳細はエクシブもわからない。

 エクシブはココの目から視線を外し語りだした。


「狂神の再来、と呼ばれたのは十歳くらいの頃か。初めて出た戦場で、オレは暗黒剣の力を全力で使った」


 斬れぬ物無き剣の力。ココが全力を目撃したのは一回。

 どんな刃も通さぬはずの依り代の大樹を小枝でも切るように軽々とこなして見せたのだ。


「オレは相棒の暗黒剣と子供のころから戦い続けてきた。赤ん坊の頃から一緒でな、死に掛けた母親が孤児院に預けていったらしい。だから、なのかはわからないがオレは物心つく前からこいつの力を知ってたんだ」


 相変わらず視線を外に向けたまま言う。


「向かい来る者、狙い来る者。気付けば動く者は全てが斬る対象。人、物、馬。斬ること絶つことがオレを狂わせた。そして……」


 両手で頭を覆い震える声。


「オレを正気に戻すため、止めようとしたあいつに――」

「ぬしよ」


 冷静さを無くし始めたエクシブに、ココは呼びかけるが。


「オレは! オレはっ!!」

「リン!! もう良い!」


 ダーインから聞いた話からこの先は予想がついた。

 だからこそ、ココはそれ以上は聞きたくはなかった。エクシブを止めた。

 ゆっくりと両手を面前に下ろすエクシブ。


「……すまない」


 そっと、心配そうな表情で覗くココ。だが、どうやら余計な心配だったようだ。

 その表情はいつものため息ばかり吐いている優しい傭兵だった。

 ココは安堵のため息をつきエクシブに寄りかかるように座りなおすと、ゆっくりと大きな欠伸をして言う。


「リンよ、ウチは化けたり廃墟をうろつかされたり、イラつく者を仕留めることも出来ず疲れとるんよ。ぬしの話は長すぎるの。それに、それより先はまだまだ長そうだからよ、また今度にするとしようかの。ウチは眠いから着くまで寝かせてもらうからよ」


 呆気にとられるエクシブ。しかし疲れていたと言うのは本当だったようで、あっ、と言う間に可愛い寝息を立て始めた。

 何やら捲くし立てられ呆然としてしまったエクシブだったが、くすりと笑いゆっくりと相棒の髪を撫でた。


「ココ、ありがとうな」


 相変わらず変な気を遣うココ。

 エクシブはまた、馬車に揺られ地面より離れた太陽を静かに眺めて小さく呟いた。


「枷を外したのはオレじゃなくて、こいつの方だったのかもな」


 災いの神を名乗ったココに悪鬼羅刹の傭兵エクシブの長い夜は終わりを告げ、新たなる朝を迎えていた。

 疲れていたのはエクシブも同様。

 馬車の揺れが妙に心地良く睡魔に襲われていたが、ラルバターレからカトレアは近い、あっという間に街へ入り、寝ぼけ眼のエクシブは医者が待機している傭兵ギルドに馬車がつけられると、直ぐに治療を受けさせられた。

 肘から手首にかけての一本傷。

 ぱっくりと開いた傷を縫われ、三ヶ月の安静を命じられる。

 腕の腱はなんとか無事らしく、開いた傷さえくっつけば剣を振るのに支障はないらしい。

 ほっ、と安堵の溜め息をつく二人だったが、エクシブだけはそれで終わらない。

 その後、カレナが同じ場所で治療を受けていると知ったエクシブは、テランと合流し、それが終わるのを待っていた。

 すると、妙にがたいの良い中年の男が近付き声をかけてくる。


「旦那、久し振りですな」

「なっ、ダグラス!?」

「んっ? 何者よ」


 ココは怪訝な表情でエクシブに聞くと再会を喜びながら説明した。


「こいつは……と、今はギルド長だったな。この人は昔、オレの八団にいたリガル・ダグラス。仲間だ」

「ほう、ぬしの仲間かよ」


 ココに一礼し、ダグラスは自己紹介した。


「カトレアのギルドを任されている代表、ダグラスと申します。それで、失礼だが、そちらは──」

「ああ、リハンで合流したテランさんの兄弟の娘でな」

「ココというんよ。よろしく頼むの」


 するとダグラスはにやりと笑い、エクシブに聞く。


「ほう、テラン殿のねぇ」


 あまりに含んだ言い方にエクシブはいぶかしげに首を捻ると、ダグラスは続けた。


「さっき、テラン殿が白状しましてねぇ。旦那、嘘をついちゃいけませんぜ?」

「なっ!?」


 その言葉に驚くエクシブ。

 ダグラスの後ろの方ではすまなそうに苦笑いをして頭を下げるテランの姿があった。

 なぜバラしたのか。

 エクシブが困惑した顔でダグラスとテランを交互に見ている。

 そんなエクシブにダグラスはゆっくりと言った。


「旦那はそちらの娘さんココと、テラン殿親子の二重契約をしましたね? これは立派な違反だ。違反には罰を受けにゃならない」


 にやつくダグラスと苦笑いするテランに、ココは真意に気付いたらしく、笑顔でエクシブを諭す。


「ぬしは違反をしたのだからしかたあるまいの? ゆっくり罰を受けねばよ」

「ココ、お前まで!?」


 更に困惑するエクシブにダグラスは裁きを下した。


「十兵団、リン=グラン=エクシブは今日より三ヶ月の契約禁止と、帯刀禁止、更にカトレアよりの外出を禁止とする」


 所謂停職処分。

 それを聞いていたまわりの傭兵たちが、あっという間にエクシブから武器を奪うと、ギルド長の机の後ろへと運んでいった。

 武器の回収を確認したダグラスは、次にテランに向かって言った。


「違反と知りながら契約を結ばせた貴方は、その傭兵を三ヶ月監視し、違反をしないように見張る仕事を与える。これは罪のひとつなので、彼らの生活はテラン殿、貴方が養わなければなりません」


 ダグラスの言葉にテランは深く頭を下げてこたえた。


「はい、慎んでお受けいたします」


 さすがのエクシブもここまできたらわからないわけがない。


「やられた……」


 元々エクシブを近くで見てきたダグラスは、深い傷があろうと平気でどこぞへと行ってしまう性格を知っていた。

 そして、そのことを依頼者のテランに相談したところ、今の話が出来上がったのだ。


「ぬしは寧ろ、あれらに感謝せねばの」


 ココの言葉に深い溜め息をはき、エクシブは罪を認め罰を受けることとなった。


「まあ、人生は長いからよ。たまには休憩せねばの?」


 ココの言葉に苦笑いしつつ「まあ、たまにはいいか」そう呟き、エクシブは旅の休憩に入るのだった。

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