32 狐と傭兵、外に出る
「これからどうするの?」
ゆっくりとカレナを抱き起こしながら言うキックスの問いに、エクシブはこたえる。
「そろそろ、ギルドに行かせたガゼールがこっちに向かっていてもおかしくないだろう。早馬なら時間もかからずに来れるし、帰りはそれに乗せてもらおう」
「もう、着いてますよ」
男の声に入り口をみると、数人の騎士と傭兵を引き連れたガゼールの姿があった。
「とは言え、遅かったようですね」
広間をゆっくりと見回しつつ、苦笑いをする。
そんなことはないと返す笑みを浮べたエクシブと腕にしがみつくココを見るとガゼールは真っ赤に染まった腕とココに気が付き急いで近づいた。
「グラン=エクシブ! 怪我を! しかもこんなに深く。おいっ、薬と布を!」
声をかけられ部下と思われる騎士が荷物から言われた物を取りだし走り寄ってきた。
直ぐ様それを受け取りエクシブの腕を応急措置する。
「戻ったら直ぐに医者に診せないと、さあ、早く行きましょう!」
急かすガゼールにエクシブは慌ててそれを制し、カレナを指差し言う。
「オレよりもカレナを診てやってくれ。傷は浅いが何かあったら大変だ。……それと」
エクシブは床に倒れている男を睨み付け伝える。
「あれが黒幕だ。奴を必ず確保してギルドに連れてきてくれ」
ガゼールは頷きこたえる。
「わかりました。後のことは私に任せ貴方は早く戻って医者に行きなさい」
エクシブは苦笑いですまない、と呟き、廃墟から出ることにした。
二人とは逆方向に走っていく傭兵たちを後目に、いつまでもしがみついたままでいるココが、エクシブに聞く。
「ぬしはなぜ止めたんよ」
エクシブはその言葉を予測していたのか、直ぐにこたえを返した。
「あいつはキックスの獲物だからな。お前の苛立ちもわかるが、横から奪っては駄目だ」
「……それだけかよ?」
「んっ?」
ココの返しに首を捻り聞く。
「止めるにも身体をはる必要はないんじゃないかよ?」
「ああでもしなかったら止まらなかったろ?」
不思議そうな顔をするエクシブに、ココは怒りをあらわにして言う。
「あそこでウチが止まらねば、ぬしの腕なんて簡単にへし折れてるのがわからなかったとは言わせぬからの!」
しかし、エクシブはきょとんとした表情で返す。
「剣じゃ怪我するだろ?」
「なっ!?」
あまりにもおかしなこたえに、今度はココが不思議そうな顔をする番だった。
自分の身体は何にも考えていないくせに、相手のことを心配しているのだ。
「なぁ、ぬしよ」
「んっ?」
「ぬしは死ぬことが怖くない口かよ?」
ココの問いにいぶかしげにこたえる。
「いや、死ぬのは怖いだろ」
「リン……ウチにはぬしが命を粗末にしているとしか思えんよ」
悲しげな表情でエクシブを見上げるココに首を傾げる。
「腕が無くなっても、生きてれば十分じゃないか」
これがエクシブの感覚。
幼少より戦場にいた者にとって、命は重いが身体は軽い。
さも、当たり前のように言うエクシブにココは一瞬暗い顔をしたが、何かを決断したらしく、瞳に力を入れてエクシブに言う。
「ぬしが間違ってるとは言わんがよ、ウチが考えを改めさせるからよ!」
力強く言うココにエクシブは固まるが、直ぐに優しい表情に変え「わかった」と、頷いた。
ココは純粋だ。だからこそ、エクシブは力づくで止めたのだ。
誰にでも怒りはある。しかし、それを理由に相手を傷つければ、いずれ自分のような狂気を見い出すきっかけになる。ココが本能から敵を認識するならばそれは自然の摂理だが、理性からの憎しみは違う。
エクシブは改めてココに言う。
「これからよろしくな? 相棒」
エクシブの真意を知ってか知らずか、ココはにやりと笑って答えた。
「まあ、よろしくしてやるかの」
廃墟を出た二人は、昇り始めた日の出に迎えられたのだった。




