30 狐、本性を現す
ダーインの片眉がピクリと動き、ゆっくりと背凭れから上体を離すと歪んだ笑い顔で問う。
「格下だぁ? 試してみるか?」
言葉と同時に玉座に立て掛けていた大剣の柄を握り、エクシブへと斬りかかった。
その軌跡に合わせるかの様に暗黒剣が横一文字に振られる。
「と、頭領!?」
悲痛な叫びが響く。誰もがあの恐ろしい黒刀により、二つへとわけられたダーインを想像した、が──。
無音で振り抜かれるはずのそれは、激しい金属の打音と一本の大剣により阻止された。
「おいおい、元、とは言え、八団の団員にそんな生っちょろい剣が防げないとでも思ってるのかよ?」
ダーインのそれは暗黒剣の根元である柄の部分にぶつかっていた。
「暗黒剣とグラン=エクシブに斬れないもの何ぞ存在しねえ」
くっくっく、と低く笑い続ける。
「なら斬らさなけりゃいいんだよな? 団長さん?」
エクシブは低く舌打ちをし相手を睨み付け、眼光と共に腕に力を入れなおした。
互いの力により剣同士がせめぎ合い、ぎちぎちと鳴く。
片手で耐えるエクシブに対し両手持ちのダーイン、当然のように後者が押し始めエクシブの劣勢に見えた。
「悲しいぜ。狂神とまで謳われたあんたがこんなもんだとはなぁ」
「……飽きた」
「はあ? 何をそんな余裕でっ──!?」
瞬間、何か光るものが二人の間を通り抜けていった。
すると暗黒剣は抵抗無く本来の方向に振り抜かれ、同時にダーインは後ろへと遠く跳んで避ける。
自らの胸当てを確認するとすっぱりと斬られ、手に血が滲む。
「くそ、かすったか。油断も隙もねえ。その剣、気になっちゃあいたが、まさかまだ持っていたとはなぁ」
一拍おきその名を告げる。
「魔女の片翼」
鷲の片翼のレリーフを付けた片手剣を見ながら続ける。
「その重みは羽根の如く、その鋭さ鷹鷲の爪の如く。白い魔女の片翼ってなあ。暗黒剣じゃ飽き足らず、それ欲しさに相方の片腕をぶった斬ったんだもんなぁ? そこまですりゃ手離さないか」
「黙れ」
「相方の……、片腕?」
二人の話にココはありえない、と言った表情でぽつりと呟く。
エクシブはダーインから目を離さず、剣を構え直し言う。
「ココ、後で話す。今はカレナを」
「し、しかしぬしよ」
明らかに動揺しているココとそれを気にして集中できなくなっているエクシブのやりとりを見て、にやあと厭らしく笑いダーインはこたえる。
「何だ嬢ちゃん、相棒と公言してたのに聞いてないのか? なら恥ずかしがり屋な団長に代わって──」
「残念だけど、お話は終わり。あなた……まわりに対して油断しすぎよ」
いつのまにやらダーインの後ろに立ち、短刀を首筋にあてるキックス。
「久々だなぁ。ちょいとお前の通り名借りてたぜ」
「別にいいわ。あなたこれで終わりですもの」
キックスの言葉に、ダーインはにやにやと下品な笑顔をして告げる。
「いやぁ、まだ終わらないんだわ」
ダーインの言葉と同時に三人の黒装束の者がキックスを囲む。
「あ、あなたたちは!?」
その三人はダーインの元に潜入していたはずの暁団員。
驚き信じられないと言った表情をするキックスに視線だけを向けて言う。
「悪いが、あんたにでしゃばられたらこっちも困るんだよ。なんせ罪を背負ってもらわなきゃいけないからね」
「くっ、裏切り者」
キックスのもらす呟きを敢えて無視して、三人のうちの二人に顎で示す。
狙いは……。
「ココ!」
エクシブが叫ぶと同時にココはカレナを抱きながら構えるが、気付けば二人に囲まれている。
「抱きついてる小娘だけさらえ!」
ダーインの命令に黒装束はカレナを狙う。
「ぬしら、カレナに近付けばどうなるかわかっとるのかよ?」
ココは静かに言う。
エクシブとはまた違う、獣のような威嚇。瞳は紅く妖しく光る。
ただならぬ気配に黒装束は両手に短刀を持って構え、ちらりとダーインを見る。
ダーインは表情を変えず、一言呟いた。
「生きてりゃ問題ない。やれ!」
ダーインの言葉にエクシブは咄嗟に走り出そうとしたが、キックスの小さい悲鳴が響く。
「団長ぉ。人質がいることを忘れちゃいけないなぁ」
ダーインはにやついてエクシブを見ながら、指を鳴らすと、キックスを抑えていた黒装束は躊躇いなく彼女の腕を違う方向へとゆっくり曲げていく。
「ううっ!?」
「キックス!」
まわりのならず者たちはそれを見て好機と知ると、にやつきながらエクシブへと近づいていく。
「天下の狂神も人質がいりゃ、ただの人か」
エクシブは舌打ちをしながらも剣を持つ手に力を入れ直し、近づく者を睨み付ける。
眼光鋭いエクシブに、にやついていた者たちは怯む。
本性は狂気をはらんだ男。人質を棄て、鮮血に酔いしれる狂神になる可能性もある。
ココの方も黒装束は様子を伺いながら動いている。
そんな様子にしびれをきらしてダーインは叫んだ。
「さっさとさらえ!」
その声と同時に複数の短刀がココたちに向かい投げられた。俊敏な動きを見せるココ。しかし、
「ちっ!」
流石にカレナを抱いたままではうまく避けることは出来ず腕を切られ血が滲みだす。
「ううっ」
瞬間カレナが呻き崩れる。背中に短刀がかすっていたようだ。切られた部分の服がはらりとまくれ、うっすらと血が流れ出した。
ココは小さく呟く。
「人ごときが──」
崩れて、気絶するカレナを支えながらその場に座らせ、エクシブに伝えた。
「ウチはこやつらが許せんよ。だが、空腹も近い」
「ココ、お前、まさか!?」
ふわりとエクシブに笑顔を見せ言う。
「カレナは任せるの」
そんなやりとりを隙と見たのか、黒装束は二人まとめてココに迫るが……。
壁に何かが当たったのか轟音が響く。
音の発信元はココに向かっていった黒装束。
恐ろしい力で壁へと叩きつけられ、どさりと床に落ちた。
『貴様ら、生きてここから出れるとは思うなよ?』




