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3 傭兵、森へ行く

 眩しい、だが朝の明るさにしては妙に優しくも感じる陽射しに目を開ける。

 西側の窓からの光ということは、恐らく昼を既に周り、朝日では無く夕日なのだろう。


「うう……」


 気だるさを感じ、呻き声をあげながらベッドを降りるエクシブ。

 頭を振り酒場からベッドまでの行程を思い出そうとするが、まるで覚えていないらしく苦笑いを浮かべる。

 しかし、酒場でのことは鮮明に覚えていた。

 部屋にある樽の水で顔を洗い寝惚けた頭を覚ます。


「……ふう。よしっ! 目は冴えた」


 荷物の中の服と軽装鎧に着替え、苗木を入れる袋を持つ。

 部屋には特に貴重品は無い。金は宿屋の店主に預けてある。だが、預けてあるのは金だけではない。


「流石に持っていかないとな」


 そう呟き、エクシブは部屋を出る。


「おや、もう大丈夫なんですか?」


 一階の受付に行くと宿屋の主人が苦笑いしながらも心配そうに聞いてきた。

 おそらく帰路にかなりの醜態を晒していたのだろう。エクシブは笑顔でこたえる。


「久々に揺れないところで寝られたからな。二日酔いしないで済んだ」


 この言葉が強がりではないことがわかったのか、「それは良かった」と笑顔で答えてくれた。

 しかし、エクシブがなかなか動かないので、店主は挨拶だけではないと察したのか、次の言葉を待っていた。

 軽く咳払いをして、用件を伝える。


「実は、預けていた三姉妹を受け取りたい」


 エクシブの言う三姉妹というのは、傭兵が好んで使う武器の呼び方である。

 一つなら相棒、二つなら兄弟、三つなら三姉妹という訳だ。

 普通なら武器を持って何をする気かと、怪しまれるところだが、相手は傭兵、武器を持って初めて成り立つ。

 店主は「わかりました」と言うと奥に入って行った。

 独り待っていると、店主と共に四人の使いが三姉妹を携えてやってきた。

 一人が短刀と細身の片手剣、そしてもう一つの大剣を三人がかりで持っている。


「お待たせ致しました」


 店主の言葉に笑顔で応え、一つずつ受け取る。

 短刀を右腕のホルダーに止め、片手剣の鞘を左腰にあるベルトの止め金に合わせた。

 最後の大剣を軽々と片手で持つと信じられないといった目で見られたが、気にせず鞘のベルトを右肩と左腰に回し、背負う形で止める。

 慣れた手付きで装備する様子を羨望の眼差しで見ていた別部屋の客人たちに、エクシブは少し得意気になりながら、店主に感謝を告げて外に出た。







「遅かったですね。来ないかと思いましたよ」


 ナターシャは酒場に来たエクシブを見つけると、頬を膨らませ、開口一番にそう言ってきた。

 本当に怒っているわけではないようで、エクシブも軽く謝る。


「すまない。夕べは深酒だったらしく、朝日ではなく夕日に起こされた」


 眉間に手を当てて首を振る。

 その様子がおかしかったのか笑顔を見せてくれた。


「あははっ、それじゃ仕方ないですね。今持ってきますけど……食べてから行きます?」


 時間的には夕食が近い時間だ。エクシブは少し悩んだが、早く行きたいという誘惑の方が食欲に勝った。


「歩きながら食える適当なものを幾つか見繕ってくれるか? 支払いは後で宿屋に預けてある分から引いてくれ」

「はーい、ちょっと待っててくださいね」


 すると、ナターシャは奥の厨房へと消えたが、両手一杯に色々な物を抱えすぐに戻ってきた。

 干し肉と炒った豆が入った袋にナターシャの両手を塞いでいた例の物から受け取ると、エクシブは不思議なことに気付いた。


「これは?」


 皮袋を塞いだ紐に器が二つ付いてる。

 それに対しくすくす笑いながらこたえた。


「神様用とあなた用」

「そうか、ありがとう」


 素直に感謝を告げる。


「会えると良いですね」

「ああ、そうだな」


 その言葉に笑顔でこたえると、ナターシャは機嫌良さそうに店へと戻って行った。


「さて」


 準備も整ったので、気合いを入れ直し森に向かう。


「もうすぐ夜になるな。まぁ、問題無いだろう」


 空を見上げ薄く出始めた月を見つけ、エクシブは独り呟き歩き出した。



 酒場の裏手にあたる村の外れまで行くと、森が口を開けて待っていた。

 夜の森はなかなかの雰囲気を漂わせているが、恐怖は無く、むしろ好奇心をくすぐられたエクシブは、探検ごっこをする子供のような目で森へと入って行く。


 森は深いが月明かりが消えるほどではないようで、特に灯り等も持つ必要は無い様だ。

 袋に入っていた干し肉をかじりつつ、ある程度深いところまで来たエクシブは、妙な違和感を覚える。こんなにも広く立派な森なのに静か過ぎるのだ。森に住むであろう獣の気配がまるでない。


「おかしい……だが」


 違和感の分だけエクシブは確信しはじめた。


「ひょっとすると、ひょっとするかも知れない」


 期待に胸を高鳴らせ、さらに進む。

 どれだけ歩いただろうか、突然、妙に開けた草原のような場所に出る。

 月明かりに照らされ、他の木とは比べようがないほどの巨木が立っていた。

 例の御神木なのだろう。

 月明かりに照らされた巨木は妙に神秘的で、呆然と立ち尽くして魅入ってしまう。


「よしっ」


 エクシブは何かを覚悟したかのように気合いを入れると、御神木の枝を片手剣で切り落とした。

 静まり返っていたはずの森が急にざわつき始める。

 瞬間、森の獣の気配を感じたが一斉に御神木から離れて行った。


「出るか?」


 エクシブは御神木と距離を取り待った。しかしどれだけ待ってもそれ以上は何も起こらない。


「……ふぅ」


 ため息を吐いたあと、もと来た道に戻ろうとしたそのとき、恐ろしい威圧を感じた。

 振り返えると、御神木の上に白いものがこちらを睨むように佇んでいた。

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