28 狐と傭兵、合流す
「まったく。まだあんなところにいるとはよ」
待てど来ないエクシブにしびれをきらし、壁をぶち壊して外の様子を見たココは、まだ廃墟にすら辿り着けていない相棒を見つけそれに向かって吠えた。
相棒には通じただろう。
『さっさと来い!』
もう一人見知らぬ連れがいるようだったが、ココにはどうでもよかった。
エクシブは自分に損となる者は連れてはこない。まだ数日の付き合いだが、ココは確信できる。
「お姉さま、エクシブさんは来ていましたか?」
カレナはココに服を渡しながら聞くと、ありがとのと、受け取りながらこたえた。
「いることにはいるんだがよ、まだこの建物には着いてはいないの。しかし、リンの奴は何をぐずぐずしとるのかよ!」
頬を膨らませ、地団駄をふむココを見てくすくすと笑うカレナ。
「カレナ。随分余裕ができたの」
先程までおびえていた少女はまだ助かったわけでもないのにまるで家にいるかのように落ち着いている。
「だって、お姉さまがいれば何も怖くないですから」
言葉と同時にギュッとココを抱きしめるカレナに胸を張ってこたえた。
「まあ、その辺の若造ごときウチの敵ではないからの」
ふふん、と鼻を鳴らし自慢気にしているココにカレナは聞く。
「これからどうするんですか?」
「ふむ、先ずはリンとの合流だがよ──」
ココはにやりと笑いこたえた。
「まあ、その後はここにいる者たちに後悔というものを教えてやらんとよ」
すでにココの姿を見た数名の男たちは廃墟から逃げ出していたりするが、どうやらまだ足りないらしい。
舌なめずりしてクフフと笑うココはまさに獣だ。
顔は笑っていても、内心はらわた煮えくりかえっているのだろう。
「さて、リンを迎えに行ってやるとするかの」
本来ならば、エクシブが迎えに来るのが正解なのだが。カレナは思わず苦笑いしてしまう。逃げ出す気など皆無のようだ。
やる気満々のココに比べ、エクシブは少々疲れた顔をしていた。
やっと着いた廃墟だが、ここからが本番となる。ココと合流し、さっさと立ち去りたいのが本音だが、そうもいかないようだ。
複雑な表情を浮かべるエクシブにキックスは訝しげに見るが、彼女には彼の心は読めない。
深いため息一つ。
「行くか!」
気合いを入れ廃墟の表門をゆっくりと押す。
細かい錆やほこりが舞い、ぎしぎしと嫌な音をたてながらエクシブの両手にあわせて中へと畳まれる。開ききった瞬間、エクシブは固まった。
目の前には、胸の前で腕を組み、仁王立ちしている相棒がいたからだ。
「随分待たせるの」
牙をちらつかせにやにや笑うココ。
「待たずに、さっさと行動にでた奴が言うことか?」
片手で頭をかきながら、これでもかと疲れた顔を見せるエクシブ。
ココはふん、と鼻を鳴らしこたえる。
「警告を無視してうちを怒らせたやつらが悪いんよ」
付き合いは浅いが、相手のことがお互いに手に取るようにわかっている。
自らの手を下すまで許せないココと、正直疲れてさっさと帰りたいエクシブ。しかし、意見が割れることなく決まる。
今日一番の重いため息をはいた後、エクシブは言った。
「行くか」
「うむ、ウチらを巻き込んだ代償を払わせてやらんとの。ところでリンよ」
んっ? と首を傾げて聞くエクシブにココは続ける。
「ぬしの連れてきた、この娘は何者よ」
エクシブはココに言われ、ああ忘れてた、と呟いた後ココに紹介した。
「こいつはキックス。暁のとこに所属する仲間でな、同じ孤児院の家族みたいなもんだ」
特に言葉は発さずに軽く礼をするキックスにエクシブはココを紹介した。
「キックス、こいつがオレの相棒のココ。今は子供にしか見えない娘だが、正体は……、まあさっき見たとおりだ。で、となりにいるのが──」
「テラン・ラフェストの娘、カレナ・ラフェストと申します。しがない商人の一人ですが、以後お見知りおきを」
すっと挨拶を交わすカレナ。
「なあ」
不意にエクシブはココにたずねる。
「カレナはどうする?」
攻め込むのはいいが、カレナまで巻き込むわけにはいかない。
しかし、ココはそこまで考えてはいなかったようで、ふむ、と考え込んでしまった。するとカレナが口を開く。
「連れていってください。わたしをさらった犯人を知りたいんです」
そうは言われても簡単には返事できるわけもない……はずなのだが。
「ふむ、では一緒に来ればよいよ」
ココはあっさりと承諾した。慌ててエクシブが聞き直す。
「お前なあ、簡単に承諾するのはいいが、何かあったら大変なことに──」
エクシブの訴えをココは手で制して途中で区切るとにやりと笑って口を開く。
「ならば聞くがよ? リン=グラン=エクシブ様ともあろう者が、娘の一人や二人護衛できないて言うんかよ?」
ココの言葉に苦々しげに顔を歪めて返す。
「自分から火に飛び込む者まで護衛なんてできないだろ」
その言葉にココはつまらなそうな顔をしてそっぽを向いて言う。
「それなら、そこで待つがよいよ。ウチら二人だけ──」
「だがな」
ココが言い終わる前にエクシブは口を挟む。にやりと笑い続けた。
「相棒を愚弄した者をそのままにしておくつもりはない」
振り向かない。
カレナはそんなココを覗き込む。もの凄く嬉しそうな顔をしているのを見たカレナ。ココはそんなカレナを抱き締め、そのままくるりと身体ごと振り向き言う。
「行くならさっさとしないと逃げられてしまうがよ」
「わかってる。さあ、行くか」
背負っていた暗黒剣を片手に携え、エクシブとキックスはココの元へと向かう。
「ぬしは、何か用事でもあるのかの?」
ココに問われキックスは軽く頷いてこたえる。
「我ら暁は裏切り者を許さない。もし、本当に黒蜥蜴ならば始末しないと」
「違ったらどうするんよ?」
ココの疑問に躊躇いなく告げる。
「くだらない面倒をかける輩も始末する」
ココはふむ、と呟いた後「物騒な娘だの」と、エクシブに言うと困った顔で、根はいい奴なんだ、と言った。
正面から堂々と入って行く四人は、ココを先頭に進んでいく。
下っぱはすでに逃げているのか不思議と誰にも会わない。
一番後ろのキックスは訝しげに前にいるエクシブに聞く。
「ねえ、本当にこの道であっているの? 誰も出てこない」
「まあ、あいつに任せておけ。オレらが歩き回って探すより断然に確実だ」
そんな会話が聞こえていたのか、急に立ち止まるココ。
しまった、機嫌をそこねたか、そんなことを思うエクシブにココは静かに告げる。
「リン、ぬしは少し鈍くなったんではないかの?」
そう言うと顎で先の曲がり角を示す。
気配は小さいが誰かがいる。しかもあまり良いものではない。明らかに殺気だ。
エクシブは暗黒剣を握り直し、無言で曲がり角の壁に向かい振りきる。黒い刀身が触れると、まるで吸い込まれていくかのように刃が入っていき、そのまま抜け、壁の一部にに大きな斬り傷を残す。
とたんに幾つかの小さな悲鳴が上がり、ばたばたと逃げていくのが音でわかった。
「すまんな」
振り向かずに言うと、特に気にした様子もなく、ふむ、と頷きココは進みだした。
「逃げていったお陰で、随分わかりやすくなったの」
どうやら先程の数人は敵のたまり場に逃げていったようだ。
「近いか?」
エクシブが問う。
「そんなには距離はないが──」
「ないが?」
ココは鼻をすんすんと鳴らし少し間をあけてからこたえる。
「人は多いの」




