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24 狐と傭兵、改めて受ける

 ヴァルファーレといえば、閉鎖王ガルーラが治める大陸最北端の巨大な領土を誇る、一年中白銀に包まれた閉ざされた国だ。他を頼らず数百年以上前から栄えた、五大国でも歴史深い国の一つ。

 エクシブは訝しげに聞く。


「……そこの宰相が何故貴方の娘、カレナを付け狙うのです?  ヴァルファーレはどことも交流をもたない唯一の国じゃないですか」


 すると、ゆっくりとエクシブの質問に答える。


「理由はまさにそこなんです。交流をもたないことが原因なのです」


 思わず首を傾げる。

 エクシブにはまったく理解ができない。ココにいたっては興味がないのか、あくびまでしている始末。

 時折睨むその目は、要点だけを言え!、と声が聞こえてきそうだ。

 テランは意を決して話す。


「ベル・バイア、奴の本当の目的は革命です」


 突然の単語に二人は耳を疑う。


「革命……いや、反乱か」


 あまりに突拍子もない話なので簡単に信じることはできない。

 二人の表情から察したのかテランは話を続けた。


「五大国の中でも栄華を極め、どこにも干渉されずにきた巨大国家でしたが……」


 エクシブの眉がぴくりと動き、テランに聞く。

 ヴァルファーレの強大さは並みの国家では歯がたたない。

 五大国の同盟も一切干渉しないことを約束に加盟したほどだ。

 その国が──。


「崩れるというのですか?」

「私もにわかに信じ難いのですが、数年前よりヴァルファーレの使いが来ていまして、国とは内密に宰相と取引をしろと──」


 話からするとかなり前からテランは狙われていたということになる。

 内密に商いをする。干渉しないことが規約の同盟は外国の商いすら許さない。

テランが応じない理由もわかる。代償が大きすぎる上に、殆んど未知の国。

 報酬がそれにみあうものか読めない。


「妻に先立たれた私の身内はカレナ一人、弟たちは商人ではなく貴族や騎士を生業にしていますから、脅しをかける人質にはカレナしかいないのです」

「一国の宰相が、誘拐をするとは……解せぬの」

「いや、それしかできないのだろう」


 ココの言葉にエクシブは即答する。


「ヴァルファーレは干渉できない国。もし、宰相が外に働きかけていることがわかれば、他の国が黙っちゃいない」

「ふむ……つまり誘拐が限界ってことかの」


 エクシブは頷き続ける。


「黒蜥蜴の目的はうまく宰相に取り入ってヴァルファーレに逃げ込むつもりなんだろう。永久国民の許可さえ手に入れれば、誰も追いかけられないし、あの国では指名手配されていたって関係無いからな」


 敵の利害は一致している。だが、まだ何かある。

 数多くいる商人の中でラフェスト商会を選ぶ理由。

 だが、その答えは簡単に出た。

 テランの本拠地はカトレア、帝国の恩恵を受けた街でヴァルファーレを覗き、すべての国の中継地点となる場所、いわばテランはそこの主だ。手に入らないものは無い。

 エクシブはテランに聞く。


「宰相ベルは、いったい何を手に入れたがっているんですか?」

「やつが求めているのは、帝国の上流兵団が所有する龍砲です」

「なっ、龍砲!」


 龍砲、ココは聞きなれない単語が出た為か、なんだそれ? といった顔をしている。

 そんな相棒にエクシブが答えた。


「龍砲というのは、帝国だけが所有する飛び道具の一つでな、目では追えない速度で龍が飛ぶように鉛の弾を飛ばす筒状の武器だ」

「ほお、そんな物があるのかよ」


 ココは素直に驚くが、いまいちわかっていないようだ。

 エクシブが説明を終えたことを確認しテランは口を開いた。


「龍砲の卸売りは我がラフェスト商会のみが五大国の許可を得て行なっているのですが……」

「そこを狙われた、ということですね」


 テランは黙ってうなづいた。


「この船に乗ったのも支店の様子見を口実に奴等から逃れるためだったのです」

「黒蜥蜴はいつから?」


 エクシブが気になるのはそこだ。

 テランは前から狙われているようなことをほのめかしていた。

 カトレアという特殊な街だからこそ難を逃れていたというのは納得できるが、黒蜥蜴は世界で指名手配されている大犯罪者。

 そんな者がテラン率いるラフェスト商会につきまとっているのであれば、暁部隊が動いてもおかしくない。

 エクシブの質問にテランは答えた。


「カトレアで狙われていたのは一年半前からでしょうか。ヴァルファーレの遣いが来るより前からでした。船に乗ってから黒蜥蜴である可能性があると聞かされ慌てて護衛の者を雇ったのですが……」

「まだ不安だった師匠はリンを見つけた、ということだがよ?」


 ココに話の続きを言われ、黙ってうなづくテラン。

 かなりややこしい上に、正直な話あまりにも厄介事が大きすぎる。

 エクシブはふぅ、とため息をつき頭を軽く掻いて考えた。

 この依頼をエクシブは断る権利がある。ココの件で二重依頼の罪があるが、ここで断ればなかったことにできる。

 黒蜥蜴が絡んだ事件であることを知ってしまったエクシブだが、断った場合ココ一人の護衛となる。つまり、断るなら今しかないのだ。

 敵はこちらが正体に気付き動いていることには既に対応している。

 暁がエクシブに警告をかけたのもそのためである。

 そうじゃなければわざわざ危険を冒してまでエクシブのまわりを襲わない。

 全傭兵から指名されているが、主軸は暁。今ならまだ間にあう。

 腕組みをし悩むエクシブをココは半眼でつまらなそうな顔をしつつ覗いていた。


「……何だよ」


 ココの視線に気が付きエクシブは聞く。その表情の理由はなんとなく察してはいる。ココと言えばいちいち聞くなと、言わんばかりに睨みつけてくる。

 はぁ、とため息をつきエクシブはココに呟く。


「責任持てよ……」


 ココはにやりと笑い牙をちらつかせて答えた。


「クフフ。まあ、まかせときよ」


 ローブの後ろをばたつかせ実に嬉しそうに言う狐娘に改めてため息をはき、エクシブはテランに視線を伝えた。


「受けましょう。依頼を」

「あ、ありが……」

「ただし!」


 テランが表情を明るくし礼を言おうとしたが、エクシブは途中で言葉を止めた。

 急に遮られたテランは怯み言葉が出ず、エクシブの言葉を待つかたちとなった。テランの様子にゆっくりと口を開く。


「例え何があっても俺たちを信じると約束して下さい」

「……何があっても」


 テランはその言葉に一瞬躊躇したが、頭をふって、真っ直ぐエクシブを見て答えた。


「わかりました。信じます。私たちを護っていただきたい」


 エクシブはちらりとココを一瞥した後、テランの言葉に強く頷くのだった。

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