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23 狐と傭兵、更なる裏を知る

 偉そうに椅子の上でふんぞり返るココ。エクシブはその姿にくすりと笑い、声をかけた。


「お疲れさん、そっちはうまくいったのか?」

「リンよ、ぬしはウチが失敗するとでも思っていたのかよ?」


 不満そうな顔をするココにエクシブはにやりと笑い返す。


「万が一、という言葉もあるんだよ」

「ふむ」


 ふと、ベッドで眠りにつくカレナに気付きココは聞く。


「そっちは問題なかったのかよ?」


 本来なら問題無いと答えるところだが、エクシブは真剣な表情になり口を開いた。


「問題なしと言いたいところだが、実は……」


 エクシブは足元の袋から白い布が付いた短刀を取り出し続けた。


「少々厄介なことになった」

「厄介ごと?」


 エクシブは静かに頷き、話し始めた。


「この短刀は暁部隊が伝令に使う物でな、傭兵なら皆が知っている特殊な物なんだ」


 ふむ、と呟いたあと、ココは短刀を持ち光にあてたり遠目で見たりしている。

 一頻り調べたココは、視線だけをエクシブに向け、話の続きを促す。


「その布が表す言葉は、警告」

「警告?」


 訝しげに聞くココに、大きく頷いて続けた。


「そう、警告だ。白い布の結び方と、特殊な塗料で個人にしか伝わらないようにするものなんだが、これがオレの前に出るということは恐らく黒蜥蜴本人が乗っている、もしくは関わっていると考えて間違いない」


 世界中から指名手配された者がこの船に乗っている。しかも、狙いはカレナ。確かに厄介だが、そんなことはすでに知っていると言っても過言ではない。寧ろ、黒蜥蜴が首謀者の場合で考えてきたのだ。

 ココはエクシブに疑問をぶつける。


「それが、厄介なことなんかよ?」


 ゆっくりと首を振りエクシブは答えた。


「黒蜥蜴より、そいつらの方が問題なんだ」


 と、例の短刀を指差す。

 ココは布の部分を持ちながらぶらぶらさせて少し考えた後口を開く。


「ぬしが言うのならよっぽどだの……それでよ、対策ぐらいは考えてあるんがよ?」


 その言葉に腕組みをしてエクシブは考えこんでしまっていたが、ゆっくりと口を開いた。


「兎は穴を出た。本来なら当面はこのままで良いが」


 ちらりとカレナを一瞥し、続ける。


「最悪の場合、ココ、お前に頼ることになるかもしれない」

「ふむ」


 テランは奥の部屋で色々と準備している。

 前後の扉は騎士団の護衛。この船で一番安全な場所といっても過言ではない。それでも、エクシブは最悪の場合、と言っているのだ。


「まあ、その時になれば動かざるえまいよ」

「悪い」


 謝ろうとするエクシブにココは椅子から立ち上がり、横まで来ると、びしっと、人差し指をエクシブの眉間に指し、意地悪そうな笑顔で答える。


「もしもの分は、きちんと支払ってもらうからよ」


 まるで母親が子供に言い付ける様な仕草に苦笑いしつつ、「敵わないな」 と、呟く。

 その様子に満足したのか、ココはエクシブの額を指で小突き、楽しそうに元の椅子に戻ると、にやりと笑って口を開く。


「それじゃよ、何が厄介なのか詳しく聞かせてもらうがよ」


 エクシブはこくりとうなづき、話始めた。


「手っ取り早く言うと、その短刀は、くないという投げ専用の武器なんだが、それは暁部隊が好んで使う物なんだ」

「くない……んっ? 暁……」


 エクシブはうなづき続ける。


「黒蜥蜴が所属していた傭兵団だ」

「しかし、黒蜥蜴はその暁とやらに追われて…………ふむ、その部隊確か」


 はっ、とエクシブの顔を見るココ、少ない言葉で察したようだ。

 いかにも面倒くさいといった表情で続ける。


「追ってきたわけだがよ? 厄介なことに、カレナを狙ってる最中の黒蜥蜴を見付けての」

「その通りだ。オレたちは、ココが手下を穴蔵から引っ張り出すことにより、警告してやり過ごすつもりだった。しかし……」

「奴等の介入でそうもいかなくなったということだがよ?」


 細かいことを説明せずとも理解をするココ。

 エクシブは話を続ける。


「恐らく、暁の者がこの部屋に潜伏していたのも」

「蜥蜴を釣るための餌を捕えるため、というわけだがよ」


 言うまでもなく、餌とはカレナのことだ。

 本人はそんなことを話されているとは知らず可愛い寝息をたてている。

「しかし、解せぬの」


 疑問ができたようでぽつりと呟くココ。

 エクシブは目でその先を促す。


「何故これほどまでに、カレナに固執するのかの」


 そこはエクシブも疑問ではあった。確かに大商人の娘だが、貴族の娘ではない。

 奴隷商に売るにしてもその者たちが付ける価値は、恐らく町娘と変わらない。

 ココは更に続ける。


「剣闘技でぬしが本物であることを示し、更にラフェスト一家の護衛になったことを公言しとるがよ? 同じ傭兵なら、リンを相手にしたら大体の者が返り討ちになることも知っているはずだがよ。カレナを狙うには代償が大きすぎるの」

「理由はわかっている……」


 急に後ろから声が上がり、二人が視線を向けると、いつの間にいたのか、テランが立っていた。


「そちらにお座り下さい」


 エクシブはテランを空いてる席に座らせた。

 ココは座るのを確認すると、少し苛立ちながら単刀直入に問う。


「その理由、ちゃんと聞かせてもらうからの」


 最初の契約でテランはことのすべてをエクシブたちに話したはずなのに、一番重要なことを隠していたのだ。

 いや、隠していたことは二人にもわかってはいたのだが、何故隠す必要があったかがわからない。

 テランは二人に見詰められ、少し縮こまりながらもゆっくりと口を開いた。


「……うちの娘、カレナを狙っている黒幕はあまりにも強大で、伝えれば断られてしまうと思ったのです」

「強大……」


 エクシブは淡々と語る。


「もし、それが本当ならば契約の時点で聞いてはいないので、テランさん、貴方は法規を破ったことになりますね」


 エクシブの言葉に黙ってしまうテラン、いつもと違う雰囲気にココも口を出さない。

 はあ、とため息をつき、エクシブはテランに話しかける。


「ココに行商の術を与えるという報酬はすでにいただいてしまってますからね。とりあえず聞きますので、判断はそれからにさせていただきます」


 テランはゆっくりうなづき話始めた。


「……黒幕なんですが、相手は五大国の一つ、ヴァルファーレの宰相ベル=バイアという者です」

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