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22 狐、護衛を手にいれる

 二人は少し歩く速度を早め目的の場所へと向かった。距離は意外とある。正体が狐であるココは問題ないが、進めば進むほど、あまり運動などしないテランは少々息が荒くなる。

 ココは速度をゆるめることはなく、じと目でテランを見て呟く。


「師匠、こんなことで疲れていてはこれから先大変よ?」


 痛いところを突かれテランは苦笑いする。


「行商をしていた若い頃は、このくらい何でもなかったんだがな」


 と、荒い息をしながら言い訳をする。

 ココはやれやれと肩をすくませながらもどんどん進んでいく。付いていけなくなったのか、少し遅れるテランにココは一言。


「休むのは許さんからの?」

「うっ!? うむ、わかっている」


 弟子の割に偉そうなココだが、素で居るように言ったのはテラン。故に言葉遣いに対しては何か言うつもりはないのだが……、いくらココが若いとは言え、小娘に置いていかれるわけにはいかない。

 テランにも男の意地がある。

 しかし、彼は知らない。ココが数百年の生を歩んだ大先輩であることを……しかも正体は巨大な狐だ。

 ココはふと、歩みを止めずにちらりと後ろを覗く。

 すると、二人と似た速度で尾行してくる者がいる。だが、動じることもテランに報告することもない。

 ココはすでに獣の嗅覚でそれが敵か味方かはわかっている。今のところココの計画通りに上手く進んでいる。

 まあ若干、心配事はあるが──。


「気にし過ぎるのもいかんの」


 ぽつりと一人言を呟く。

 それから何とかテランも休まずに最後の通路までたどりつくことができた。


「あの、突き当たり…………だな」

「ふむ、でかすぎる船も考えものよ──」


 流石のココも人の姿での行動では辛いのか少々息が切れており、テランに至っては足を止めたら動かなくなるのでは? というほど憔悴しきってしまっている。


「師匠、少し速度を落とすから息を整えとくれの?」

「わかった。話すことができなければ、私のいる意味が無いからな」


 ココは笑顔で頷き歩く速度を落とした。

 目的地は突き当たりを曲がった先だ。

 二人が通る道は船員用の船室が並ぶ通路……今は夜だが、部屋に居るのは恐らく半分くらいの人数だろう。

 昼間より、何も見えない夜の方が座礁などの可能性もあるため、出払う人数は多い。だが、ココはこの先の扉に違和感のある匂いに気付く。

 海の者には似つかわしい、錆びた鉄に近い……。


「師匠、少し休むかの」

「えっ、もう目の前……」


 しかし、テランはココの顔を見て言い直す。


「そうだな、ただでさえ……夜に行くのだから……こんなに、息を、切らしていては、いかんな」


 わざとらしく息を切れ切れ肯定するが、理由は十分だ。

 ココはテランの耳元でこそりと話す。


「三つ先の左の扉と、四つ先の右の扉に潜んでいるんよ」


 無駄に口を開いて気付かれてはまずい。テランは深呼吸をしながら視線で話の続きをうながす。すると、ココは笑顔で頷き、敢えて声を響かせて話始めた。


「師匠、あまり遅くなっては船長にも悪いがよ、ウチが先に行って挨拶してくるがよ」


 テランは相変わらず大袈裟に深呼吸をし、


「すまないな、ではお前に頼もう」


 と、やはり大きな声で返した。

 ココはクフフ、と笑い一言呟く。


「師匠、ここから先のこと、何が起きても冷静に対処してくれの?」


 意味が分からず、怪訝な表情を浮かべるテランだったが、意を決したのか大きく頷きこたえた。


「天下の大商人とまで言われた私だ、先のことはまかせなさい。お前はお前のやることをすれば良い」


 ココはにやりと笑い、テランに、「では、先に行ってるがよ」 と、一人船長室を目指した。

 ローブの下で耳を立て、鼻をすんすんと鳴らす。

 息を潜めているが、ココにはごまかすことはできない。

 テランに注意を促した扉だけ妙な違和感を発している。ゆっくりと近づくココだが、二つ目の扉を越えた瞬間に走り出した。

 意表をつかれ、扉の裏で控えていた者たちが慌てて扉を開けようとするが、ココはその勢いのまま扉に飛び蹴りをあびせると裏で小さな悲鳴をあげ倒れる音が響きわたる。

 蹴りの反動を使い片足で着地した後、更に駆け出したココはもう一つの扉も狙っていった。

 音に気付き船室が騒がしくなるが、ココは気にせず奥の開きだした扉に狙いをさだめ、同じような蹴りを浴びせた。


「うわぁっ!」


 速度と重さをかけたココのいきなりの攻撃に扉はもの凄い勢いで閉められ、ばたばたと大きな異音。

 中の者たちはその反動で後ろの方へ倒れてしまったようだ。

 すぐに行動できないようで、予想以上に上手く行ったのが心地好く、ココは例のふくみ笑いをし、嬉しそうな表情を浮かべながらくるりとテランの方を向き大声で叫ぶ。


「ガゼール殿、師匠の護衛を頼むの!」


 そしてまた反転すると船長室に向かって走り抜けて行った。

 置いて行かれたテランは呆然と立ち尽くしココの行動を見届けていたが、突然出たこの場にいるはずがない男の名にゆっくりと後ろへ振り返ると、苦笑いをしながらのそりと一人の騎士が姿を現した。

 剣闘技でエクシブと一騎討ちをした男、聖アストレア国の派遣騎士、ガゼールだ。


「……ガゼール殿、一体いつから?」


 すると、ばつの悪そうな顔をしながら答える。


「実は、食堂でココさんがグラン=エクシブと別れてから……」

「そ、そうですか」


 テランは苦笑いをしてガゼールに返しながらココの獣並みの感覚に感心しつつ、何があっても冷静にという言葉の意味を理解した。


「あの、ガゼール殿」

「えっ? はい、なんでしょう?」


 急に声をかけられ慌てるガゼールにテランはゆっくりと笑顔を見せる。

 せっかくココが用意してくれた護衛、ここで手放すわけにはいかない。


「これから、船長室にココを迎えに行くのですが、良かったらご一緒しませんか?」

「えと……私とですか?」


 いきなりの申し出に少々考え込むが、テランはだめ押しをする。


「貴方が来れば、きっとココも喜ぶことでしょう」

「是非、お供させていただきます」


 テランの目論み通り、ガゼールの返事は早かった。

 その後、テランと合流したココは船長との話しも上手くいった。

 知恵者のココと大商人のテラン二人がかりでの説得は、ガゼール曰くなかなかの見どころある話し合いだったらしい。

 計画通りことが進み、ひょんなことからガゼール率いる騎士団まで引き込むことができたココは、意気揚々と自室へと戻ってきた。

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