21 傭兵、迷子になる
心配をされていることなど知りもしない二人は、案の定道に迷っていた。
いや、道にというより、扉に迷っていたという方が正しいか。
「あれ? また違う!?」
違う扉の鍵穴に自分達の部屋の鍵を刺して今ので既に五回目だ。
あまりにたどり着けないので、カレナにいたっては涙目になってしまっている。
流石に次でみつけないと、エクシブはそんなことを考えながら次の扉に手をかけ、鍵が閉まっていることを確認する。二人とも精神的に疲れてしまっているが、カレナはそろそろ限界だ。
回りの扉全てが同じものに見える。いや、同じだ! 同じものがひたすら続いている。
場所の目星はついていたもののどうにも頭を悩ませる。
通常口側ならばもっとわかりやすい装飾などもあるのだが、何せ裏口。防犯を考え護衛どころか部屋番の板すらない。
「頼むぞ」
誰にでもなく祈り、エクシブは鍵穴に差し込む。ここまではすんなりといく、問題は回るかだ。
二人はごくりと喉を鳴らし、エクシブはゆっくりと鍵を回す。
ガチャ、と細かな金属の打音と共に鍵が回りきる。
「エクシブさん!」
カレナは涙を浮かべながらも嬉しそうに笑う。
エクシブもため息一つ吐き扉を開けようとしたが。
「っ! カレナ、静かに後ろに下がるんだ」
突然のことに一瞬固まってしまったが、腕に装着する短刀に手を伸ばし扉を睨み付けるエクシブの姿を見ると、静かに頷き一歩ずつ下がる。
安全と思われるところまでカレナが下がったことを確認すると、一気に扉を開けて短刀を持つ腕を横一文字に振った。
「ちっ!」
瞬間その腕をかわすように黒い影が自分の横を転がり抜けるのを見たエクシブは舌打ちする。
影は、反対側にある扉に身体が当たると同時に何やら光る物を投げつけてきた。が、エクシブは危険を察知しており、とっさに片手剣を抜いて顔の前で止めて構えていた。
「あまい!」
瞬間、金属同士がぶつかる甲高い音が響き弾かれる。
弾き返されたのは短刀で、真っ直ぐに床に向かい刺さる。
「くっ──」
小さくうめくが、とっさに影はカレナに目標を変えて走り出した。
が、とすっという音と同時にエクシブの短刀が顔の前をかすりながら壁に刺さる。
避ける様に身体の止まった相手にエクシブは悲しげに問う。
「まだ終わってなかったんだな」
そんなエクシブの言葉に笑いながら返す。
「ならばこんな場所にはいませんよ。しかし、狂神様ともあろう方が船で見世物とは世も末」
エクシブは剣闘技を思い出す。
「あの時の視線はお前か!」
「鈍ってるとは言え、そのくらいは気付いたようですね。一度は船を降り少しは楽になると思いましたが、まさか戻ってくるとは」
言葉を終えたと同時に立ち上がり構えようとした相手だったが――。
「オレの護衛者に手を出すなら──」
言葉と同時にエクシブの相手を見る目は明らかに変わる。
エクシブに対して視線は外さず、警戒しながらも、妙な身体の違和感に、すっ、と覆面に手を入れ抜く影。
ねとりと嫌に絡みつく異常な汗。
「死ぬか、逃げるか。よく考えろ?」
エクシブは鋭い眼光で睨み付け、剣を構えなおして呟く。
「次はない」
片手は剣だがもう片手には暗黒剣の柄を握る。エクシブを知る者ならその姿で気づく。
容赦無き一刀両断。
「狂神! 我らに敵対する意味をよく考えることですね!」
吐き捨てるよう言うと、ふわりと後ろに跳び、影はまるで風のように逃げ去っていった。
「エクシブ……さん……」
ふらふらと立ち上がり、声をかけるカレナ。
いつもの表情に戻ったエクシブは笑顔でこたえた。
「驚かせたな……大丈夫、危険は去ったよ」
その言葉に、カレナはエクシブに駆け寄り抱きついた。
身体が震えている。
あんなことが目の前で行われ、なおかつ犯人は自分のいた部屋から出てきたのだ、恐怖を感じても仕方がない。
エクシブは剣を鞘に戻しカレナの頭を軽く撫でる。
「安心しろ。きっちり守るからな」
エクシブの言葉に、ひたすらうなづき離れないカレナ。
エクシブはもう一度軽く頭を撫でてやり、落ち着くまで待っていることにした。
ふと、足元に突き刺さる短刀に目が行く。
形が特殊で、すらっと伸びた刃と束の無い短刀。
その形から投てきを目的にした武器であることがわかる。
「あれは──」
エクシブはその短刀の柄に付いている小さく白い布に注目して呟く。
「白か……、まずいかもしれないな」
その後、身体を離し少し落ち着いたカレナを部屋に誘導する。
自分の短刀と影の忘れ物を回収した後、エクシブも部屋に入っていった。
「エクシブさん」
「うんっ? どうした?」
部屋に入った後、知らぬ者が居たこともあり、中をあらかた確認していたエクシブにカレナが問いかけた。
「私たちの部屋にあんな人が居た、と言うことは、お父様やお姉様も──」
「それは……、多分大丈夫だ」
と、カレナへと振り返らず部屋を調べながらこたえる。
あまりにも動じないエクシブにカレナは思わず更に問う。
「なぜですか?」
「よし、大丈夫だな」
立ち上がりながら呟き部屋の確認を終えたエクシブはカレナが座るテーブルのまで行き、ゆっくりと答えた。
「ココが言うには、勝手に強い護衛がついているそうだ。それに──」
「それに?」
勝手についてくる強い護衛も気になったが、カレナはそれにの後の言葉の方が興味を引かれた。
問うカレナに、エクシブはにやりと笑い答えた。
「女となめていたら、痛い目みるのは敵の方だ。オレの相棒は伊達じゃない」
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エクシブたちが襲撃されていたとはまったく知らないテランとココは、あいかわらず二人を心配しながら船長室を目指していた。無論、心配はたどり着けたかどうかである。
一度は考え無いようにしていたのだが、この数日間食事の帰りのたびに違う部屋のノブに手をかけ続けていた二人を見ている。
そんな様子を当時は大笑いしながら見ていたものだが、今それを想像すると洒落にならない。
「考えないようにすればするほど──」
ぽつりと呟くテラン。
「ふむ、ウチも頭から外そうとは思っているんだがよ」
はぁと、二人揃って大きなため息をはく。
「……ため息はリンの独壇場だと思っていたんだがよ」
「いや、それは──」
流石にそこまでは賛同できなかったようでテランは苦笑いを浮かべた。
ココは再びため息をつき呟く。
「さっさと用事を済ませて、見に行かねば安心も出来ぬとはよ」
「うむ、そうだな。少し急ごう」




