18 狐、弟子入りする
ココがテランの弟子について、気が付けば数日がたっていた。
エクシブとココは契約を交わしてから、特別船室に寝泊まりをしている。
最初、エクシブは二人分の宿泊費が追加になってしまうことを気にしていたのだが、今は何も悩むことはなく行商の心得を頭に叩き込むココを見ながら一日の大半を過ごしている。
テランが言うには、この船とは輸出入に関して契約を交わしているそうで、船を使うことによる儲けの売上の一部を渡すことにより、自由に使える特別船室を一室だけ用意してもらっているらしい。
どおりでエクシブとココが転がり込んでも、涼しい顔をしていられるわけだ。
ココの横ではカレナもテランの講義を聞き、共に学んでいる。
万能たる知恵を持つ白狐のココだが、わからないことがあればテランにだけではなく、カレナに聞くこともあるのだ。
一日目からそんな様子なので、エクシブは食事の時、ココに一度聞いてみたことがあった。
「お前ほどの知恵者がカレナに質問するのは、何か理由があるのか?」
すると、特に気にした様子でもなくココは答えた。
「ウチも知らんものは知らんからよ。ならば、知るカレナに聞くのは道理だがよ」
「そうか、てっきり何か裏があると勘ぐっていたんだが──」
予想外にも狐は素直に自分の無知を公言した。
エクシブの返しに察したのか、軽く笑いながらココは口を開いた。
「確かにウチは長く生きその辺の者よりも遥かに経験はあるがの。しかし、自らを全知全能と語るほど愚かではないつもりだがよ?」
そう答えると、悪戯っぽく笑い続けた。
「知恵と知識は同じではないんよ。人は誇りや、自尊心の持ち方をたまに間違える。しかし、それが悪いとは言わんよ。気付くことによる成長もあるからの。それにウチだって、間違うことはあるからよ」
間違い。
エクシブには心当たりがある。恐らくはリハンに封印されていたことを言っているのだろう。
自ら望んだことではないが、頼られたからやった──いや、見捨てられなかったのだろう。
まだ出逢って数日、ココはエクシブをお人好しとからかうが、ココの方がよっぽどお人好しだ。
普段は生意気な口調でエクシブを翻弄するが、心根はいいやつなのだ。
エクシブはそんなことを考えながらテランたちを見ていた。
「さて、前半はここまでにしよう。カレナ、ココ、後程通貨と関所に関しての問題を出すからな。よく復習しておくように」
どうやら、講義が終わったようだ。
「はい、お父様」
「はい、師匠」
返事をすると二人は席を離れ、カレナは父親の元へ、そしてココは楽しそうな顔をしてエクシブの元に寄って来た。
「お疲れさん」
「ふむ、なかなか有意義な講義だったがよ」
しかし、ただ来るだけではない。
「早々で悪いが、回りはどうだ」
エクシブの問いに、渋い顔をしてココは答えた。
「日に日にこの近くに増えとるよ。動き出す日も近い……と、いうことかの」
講義を受けながらココは獣の嗅覚と聴覚で敵のおおよその動きを調べている。
相手は船員や護衛、更には一般客にまで混ざっているようでエクシブには特定が出来ない。
「そうか。悪いな、こんな仕事を押し付けてしまって、集中できないだろ?」
すると、ココはくすりと笑いエクシブに返す。
「ぬしは変なところで気をつかうの」
言われて困った顔をするエクシブ。
「まったく仕方がないの」
そう呟くと、片手を自分の腰にあて、もう片手でエクシブを指差して続けた。
「ぬしはぬし、ウチはウチの仕事がある。お互い自分のやることをなせば良いがよ」
返事を待たず、ココは口を尖らせ不満そうにエクシブに言う。
「ウチはぬしの相棒だろうがよ? ちっとは信用してほしいの」
そこまで言われたらもう何も言うまいと、苦笑いを浮かべつつエクシブは両手を上げて降参を示した。
その様子に満足したのか、フフンと鼻を鳴らし、腕組みしながら胸を張るココ。
そんなココの頭の上に手を置き、乱暴に撫でる。
「悪かったな。先手を打つにはお前の力がいる。頼んだぞ。相棒!」
満面の笑みを浮かべて言うエクシブにココは顔が少し紅くなる。
目が合わせづらいのか、エクシブの顔から視線をそらして答えた。
「ま、まあ、ぬしの頼みは断れんからよ」
恥ずかしげにエクシブの手を掴んで頭からどかし、ココは苦笑いをした。
「ぬしもなかなか、こずるい手を使うの」
急に照れだしたココにエクシブはどぎまぎしてしまう。
「えっ? あ、いや、その」
言葉も繋がらず動揺する。
「やはり、ぬしはそうでなくてはの」
すると、ココはいつもの様にクフフと笑った。
「お前なあ──」




