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13 狐と傭兵、食事にありつく

 共に笑顔の二人とは違い、何やら異様な気配の一人が声をかける。


「ところでよ」


 困った顔で苦笑いをするココ。


「そろそろ行かんかよ? 本気で飢えてきた……」


 本気で飢える。

 不可思議な言葉だが、エクシブは先刻の話を思いだし、本気という言葉に反応する。


「急ごう。こんな所で暴れられても困る」

「ふむ、そんなつもりは無いが、如何せん本能には逆らえないからよ」


 不思議なやり取りをしている二人を見ながら呆然とするカレナに気付き笑顔で手を伸ばすココ。


「連れていってくれるんがよ?」

「はい、ココ姉様!」


 満面の笑顔を浮かべその手をとるカレナ。


「行きましょう!」

「うん」


 カレナはココを引っ張り階段を駆け上がっていく。

 その姿にエクシブは思わず声をかける。


「そっちは逆じゃ──」

「近道ですよ」


 カレナは嬉しそうに返すとまた走り出した。

 ココは辛そうに笑うと、なすがままに引っ張られていく。

 良く見れば、尻尾がだらしなく床に引き摺られているのか、先っぽだけローブからはみ出ている。

 エクシブはその姿を見て鼻を鳴らすように笑い、二人を追い掛けるように歩き出した。


カレナの言う近道がどうしてもわからなかったが、着いてみて納得する。


「特別船室の専用通路か」


 エクシブたちのいる船室とは違う高級船室。

 どうやらカレナは貴族か何かの娘らしい。

 扉を開けココは信じられないものを見たような顔でエクシブに聞く。


「リン……。なんか、ウチらの部屋とは雲泥の差なんだがよ」

「……この部屋は特別でな。オレたち二人の全財産を合わせても良くて二、三日しか泊まれないだろうな」


 二人の全財産はその辺の船客よりも多い。

 ココに金の価値は話してある。恐らく頭の中で計算したのだろう、半眼になって呟く。


「そんなにかよ?」

「そんなにだ」


 カレナはなんの躊躇いもなく部屋を抜け奥の扉を開けて二人を呼んでいる。

 お互いにひきつった顔をしながら進みつつココが口を開く。


「もしかして、カレナはどこぞの姫かよ?」

「姫とは違うが、まぁ似たようなものだ」


 自分たちの部屋が小屋に見えてしまう特別船室をカレナに先導されながら抜けて専用通路に出た。


「はあー……」


 専用通路を歩きながら溜め息を吐くココ。相変わらずカレナに引っ張られている。


「敢えて聞かないからな」

「ちっ」


 舌打ちするココを無視する。

 すると嫌味ったらしい顔をしながら文句を言ってきた。

 目がすわっている。


「リン! ただでさえ腹が減って辛い状態でよ、気を紛らわそうとぬしをからかおうとしておるのに──……」


 腹が減って苛ついているようで、くどくどと説教を始めた。

 カレナはクスクスと笑っている。第三者からすれば痴話喧嘩のようで、見ていて面白く感じるのだろう。流しながら歩くエクシブ。


「……だいたい、折角の振りを無視するどころか遮るなんてよ! 前にも言ったが、少しは返してもらわんと、つま……らん…………よ?」


 ココの語尾がおかしい。

 顔を見ると、瞳が潤み恍惚とした表情で鼻を鳴らしている。

 恐らくは。



「……カレナ。後どのくらいだ?」」

「もう少しですよ」


 間違いない。ココは獣の嗅覚ですでに捕えているのだろう。


 大好物のあれを──。

 ローブの下は大暴れで、しまいにはカレナを引っ張りながら進みだした。

 カレナは驚きながらもココに合わせ駆け出す。呆気にとられているエクシブに叫ぶココ。


「は、早く! い、いいい、急がねばよ! リ、リン! 何をとろとろ歩いとるんよ!」


 ココの瞳が怖い。ある意味獣になるよりたちが悪い。最早ろれつが回らないほどに取り乱すココにエクシブは苦笑いをしながら言う。


「ココ、獲物ではないのだから料理は逃げない。だからカレナを引っ張り回すな」


 少し速度を落とし気まずそうな顔で答える。


「い、言われんでもわかってるがよ」

「ココ」


 口を指差し伝えるエクシブ。


「むうぅ」


 エクシブに唸り、ココは袖口でそれを乱暴に拭うと、また進みだした。

 暫く進むと、左右に曲がれる別れ道にぶつかる。

 ここまで来ると人間でもその匂いがわかる。


「あそこを右に曲がった先ですよ」

「うん!」


 最早徒歩ではなく、走っている。

 カレナがいるので全力とはいかないが、そこそこ早い。

 別れ道を右に曲がると大きく立派な扉が現れた。


「あの扉ですよ」

「やっと着いたか」


 ココのこともあるので、エクシブは着くと同時に、休むことなく扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 こっちの入り口は特別客用なのだろう。 エクシブたちは怪訝な表情で迎えられたが、カレナの顔を見るなり察してくれたようで、すぐに席へと案内してくれた。

 晩餐会のはずだが入りが遅かった為、人は疎らだ。おかげでエクシブは下手な噂で囲まれるかと覚悟していたが、どうやら回避できたようだ。

 席に向かう途中、他の席にある料理に必死で反応しないようしているココが不憫になり、エクシブは恥を承知で席に向かう途中に注文をしたが笑顔で応じてもらえた。

 内容は、とにかく早く出せる量がある鳥料理。

 一番壁際の座席に着き、だらしなく座るココを見て苦笑する。

 到着を確認するとカレナが声をかける。


「じゃあ、私はお父様のところに戻ります」

「あっ、ああ! わざわざすまなかったな」

「ううん、良いんです。楽しかったから」


 楽しそうに言うとぺこりと頭を下げて一礼すると、父親の元へと戻っていった。

 カレナを視線で見送っていると、入れ替わりで先程の案内人がこちらに料理を運んできた。

 随分と早い。


「すまないな。こんなに早く用意してもらって……これは他の客の分ではないのか?」


 静かに料理を置く男に謝罪する。


「いえ、先程あちらのお客様が注文を取り消され、余った分ですので、お気になさらずお召し上がり下さい」


 こんな高級料理を取り消すあちらの客とやらを見ると、視線に気付いた商人風の紳士が軽く会釈をし、カレナが手を振っている。ここまでされると頭が上がらない。

 エクシブも会釈で返し、蓋を開けた。鳥に香草と野菜を積めた蒸し焼き。

 ココの瞳が潤んでキラキラと輝き、壁側の尻尾が大変なことになっている。

 これ以上焦らすのは身の危険と感じたエクシブは一言伝える。


「どうぞ」

「うん!」


 短く返事すると同時に獣のように一気にかぶりついた。

 絵的には悪いが、ここまで匂いに腹を刺激されながらおあずけをさせられていたのだから仕方がないだろう。その上ココは本来狐なのだから、食べ方まで文句は言えない。

人がはけた遅い時間であったことが唯一の救いだ。


「ふうー……」


 ただ、如何せん早すぎる。既にただの骨と化した鳥をみるエクシブ。


「……オレの分は?」




 勿論眺めていたところで元に戻るわけではない。

 エクシブは仕方なく追加注文をすることにした。空腹なのはココだけではない。

 すると、それに気付いたココがとんでもない発言をした。


「あっ! ウチにもこれと同じやつをおかわりよ」

「ま、まだ食うのか」


 先程の鳥は小さくない。寧ろ大きい。

 ココの顔が充分に隠れてしまう程の大きさで、通常なら二、三人前だ。

 顔をひきつらせ半眼で見つめるエクシブに、例の約束を言い放つ。


「ぬしは、ウチをお腹いっっっっっぱいに……」


 怖いくらいにとびきりの笑顔で続ける。


「してくれるんがよ?」


 最早、呪いの言葉だ。

 エクシブは小さな抵抗をしてみた。


「小娘一人分ぐらいなら……、とも言った気がするぞ」

「クフフ、人も獣も食う量に決まりは無いがよ。なのに小娘の姿のウチの量が違うとは、これ如何に?」

「くっ」


 小さく呻くエクシブに更に追い討ちをかける。


「それに、いくら高い料理とは言え金貨一枚には届かないんじゃないかよ?」


 最早何も言えないエクシブ。してやったりとココがにやりと笑う。


「クフフ、ウチを負かすには十年早いよ。……しかし」


 言葉が続くようなので、エクシブは疲れた顔でココを見る。空腹も相まって酷い顔だ。そんなエクシブにココは愛嬌一杯の笑顔で続ける。


「ここまで言っても、決して約束を違えようとしないぬしがウチは大好きよ」


 とどめまで刺しにきた。

 事実エクシブは約束を破るつもりはない。ただ、ここまではっきりと見破られてしまうとは思ってはいなかった。

 溜め息を吐くエクシブをクフフと笑うココに苦笑しつつ、無駄な考えを捨て今日はとことん料理を味わい楽しもうと心に決めたのだった。

 結局のところココは三羽分の鳥をおかわりした。

 重ねて言うが船の上では高級料理だ。それを一切の遠慮もなく、ぺろりとたいらげた。しかもその上で、とんでもないことを口にした。


「ふむ、腹八分目にしとかんとよ」


 実に恐ろしい。

 エクシブは今更ながら後悔した。

 腹一杯になるまでなんて言わなければ良かったのだ。男に二言は無いと言うが、ここまでくると二言目が出たとてまわりは許してくれる気がする。

 今は新しく注文した葡萄酒を楽しみながら牛の乳から作られたというチーズと言う物を食べているココに、半眼になり問う。


「腹八分目じゃないのか?」

「これは、別腹」


 普通なら過食者の言い訳なのだが、エクシブは本当に別腹があるのでは? と、疑ってしまう。

 まあ、深く考えても悪い方向に行ってしまうだろうと、ひたすら飲食を楽しむココを見て苦笑するエクシブ。

 これから先長い旅となるだろう。いつか、食べることすらままならない日がくるかもしれない。ならば、今はココの好きなだけ食べさせてやろう。

 そんなことを考えながら葡萄酒をあおるエクシブだったが、ふと頭に何かがひっかかった。

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