小康状態
今日は10日目だ。
太陽が、海に向かって左側から登り、右側に沈む。太陽が3つ。巴になってゆっくりと回転している。影はくっきりしておらず、ちょっとぼやけている。
10日前の戦いの場に戻ることは無さそうだ。
兵たちも若干小競り合いのようなものはあるが、概ね鎮静された状況にある。
各隊からは、有効な発見は随時報告がきている。
ブルグ隊からは、ヤギを50頭ほど捕まえて、囲いの中で飼育していると報告があった。食肉には供さず、子ヤギや乳を得るよう努力しているとのこと。イノシシらしきものを森のそばで見かけたが取り逃がした。罠を仕掛けるそうだ。また、エルンギとササキ隊は、米、小麦、大豆など穀類の類似種を見つけたそうだ。種が取れる時期まで様子見とのこと。食べられそうな草や木の実などの採取も行っている。
朝のうちは訓練。午後は、それぞれ野山に食糧調達に向かう。
この領域には、以前誰かが住んでいた形跡があるようだ。途切れた石畳の道。耕作の跡。木立の中に朽ちた家。
水路など。でも誰も人らしきものを見ていない。なぜ、いないのか?、居なくなったのか?、それはどのくらい前なのか?。興味深い。今度パラレルワールド管理局のキーに聞いてみよう。
兵糧隊からは、3か月の維持期間が4か月に伸びた模様と言ってきた。ところで、冬はいつ来るのだろうか?。もし、来るのならばそれまでに、保存食糧と寒さをしのぐ小屋が必要になってくる。
指揮官たる者、先先に憂慮を推し量っておき、対策を練っておかねばならない。
今日は、親衛隊を伴って、各隊の見回りを行った。ポチも元気に俺の後をついてくる。
あれ! ユキ姫の警護はどうしたんだ?
「うぉん。こっちのほうが面白そうだから。」
おいおい良いのかよ!。
各隊の騎士は、体術の稽古に力を入れており、木刀やこん棒を以て模擬戦も取り入れていた。もともと各隊には、騎士が50人ほどいて兵を先導する役割であった。今は各隊の治安を担っている。
ブルグ隊は、こん棒を使った訓練が行われており、その目的の一つは、イノシシやクマなどに対応している。
マサカツ隊は、オルバ隊からの依頼で、釣り針やモリなど漁に必要なものを作っていた。また、包丁や鍋などの修理を女たちから頼まれて、鼻の下を長くしながら対応していた。
「ウーー うぉんうぉん。気を付けろよ。噛み切るぞ!。」 ってポチが唸る。物騒な。
女性居住区に行くと、「シンさまー」と黄色い声の嵐。おっと、これはちょっと盛りすぎたか!。
「あれ!! 」赤子の鳴き声がする。
「ユキ姫、これはどういうことなのかな? 」戦場に子供が居るわけないのである。
と、赤子を抱いた一人の女性が走ってきて、膝まづいた。
「あーーっ。すみません。どうかこの子にお咎めなきようお願いします。私をこの場で罰してください。」
「かなり動揺しているようだな。ユキ姫、後で事情をよく聞いて報告してくれ。」
ここで、騒動になるのは避けるべしで、軽く見ただけに留めて、あとは女性同士で話し合ってもらおう。
「これ、そこのものたち、彼女を落ち着かせるのじゃ、名は何という? 」とユキ姫。
「アズサ村のアヤと申します。」とアヤを支える女が応えた。
夕方、ユキ姫から報告があった。
そうか、難しい判断をしたのだな。村に置いても育たないかもしれない。いっそ自分と同じ境遇にと。
どちらにも、死が先に見えたのであろう。しかし、この状況は吉と出たのかな?。
しかし、小さな子が7人とは・・・・・。
「ユキ姫。将来を担う子供たちが健やかに育つよう便宜を図ってくれ。」
ということで、女性居住区には子供の歓声が聞こえるようになった。
「シン様、女子集から、この3人は見覚えがないと言うのですが? 」
あ・ 確かに電車の中で左の方から俺を見ていた子だ。キイに聞いてみないと
もう一人は、誰?
「そうだな、だれが面倒を見ているのかな? 」
「言葉が通じないので、まとめ役のナズナが見ています。」
「我々が、あの戦場から移動してきたように、この子らのどこか見知らぬところから来たのかもしれんな。子供ゆえに辛い思いをしていると思う。注意してやってくれ。」
「ポチやーい」とポチを呼ぶ。
びゅーっとポチがやってきた。
「キイを呼んでくれるかな?。明日で良いから。」よしよし。
10日目が終わった。