3日目を迎える
3日目の朝が来た。
ぐっすり眠れたためか、早くから目が覚めた。
東の空に日が昇り始めた。数日前まで見かけた夜明けと変わりはなく、暖かい。
清々しい大気と、兵糧隊が朝食を仕掛ける匂いが漂ってくる。
静かだ。
今日は兵たちに暇を与えないように動かす方策と、食料の調達を皆で話し合おう。兵糧隊の備蓄は3か月。
隣のテントからユキ姫が起きてきた。
「おはようございます。シン様。」
「うぉん」 ポチはいつも元気だ。ユキ姫の命名だそうだ。
「おはよう。ユキ姫。今日もいい天気だ。」
兵糧隊が用意した朝飯を食べた兵士たちは、水を求めて川沿いに移動を開始した。5大隊は1000Mごとに川岸を占拠させた。一方、兵糧隊と救援隊が北側に、その間に女性居住区を設けた。
本部から海に向かって、シンおよび親衛隊、女性居住区、兵糧隊、救援隊、広場、1Km先からオルバ隊、エルンギ隊、マサカツ隊、ブルグ隊、ササキ隊、となった。
移動が済んで、ひと時が過ぎてから、各隊から自主訓練の案を持ってきた。
「シン様、斯様に考えますが、如何でしょうか? 」と親衛隊長のムルベから説明を受ける。
「うん、体術を中心にやろうというのだな! これで当面様子を見てくれ。」
引き続き5大隊長から計画を受けた。概ね無理がないようなので了解した。
「それから、ムルベよ、各隊の指導を頼む。」とマサムネ。
午後一番に各隊長を集めた。
「今日は、食糧調達について議論したい。持ってきた兵糧も向こう3か月で枯渇する。恒常的に食糧の調達ができなければ、いずれ餓死することになる。各隊の特色を生かして、食糧調達を提案してくれないか? 」。
シンは各隊に考えさせ、自主的に動いてもらう。
本部の天幕で各隊長から、調達案を聞いた。
「オルバでございます。我が陣営は漁村の出が多いこともあり、魚や貝類など海岸を主に調達を考えます。」
「エルンギでございます。我が陣営は農家が多ございます。よって、作物になりそうなものの調査と育成を考えます。」
「ササキでございます。我が陣営はエルンギ様と同様に農家が多いございます。エルンギ様と手分けしてまいります。」
「ブルグです。我が陣営は牧畜が盛んでした。牛、ヤギ、にわとりなど家畜に類するものを探してまいります。」
「マサカツです。我が陣営には鍛冶が多く、鉄や銅の類の調査と、鍛冶をします。」
「兵糧隊のユメです。各隊から持ち込まれる食材の鑑定を行います。」
「救援隊のアランです。病気や怪我に備えて、薬草の探索に行ってまいります。」
「あい、わかった。各隊その方向で頼む。有益に行動するように。また相互の情報交換も滞りなく行うように。」
「参謀のユキよりお願いがあります。各隊の報告は私が受けますので、よろしくお願いします。合わせて、必要な情報は各隊に知らせます。遅滞なくよろしく頼みます。それから、女子集の体制を整えました。元締めのナズナを紹介します。」
「ナズナです。よろしくお願いします。」とナズナは挨拶した。
それから、しばらく雑談と情報交換があった。
「西のほうにある廃墟を見に行ったが、確かに誰かが住んでいたようだ。そうだな、あの崩れ具合だと数百年は経ってそうだ。どのような人が住んでいたのだか? 生活道具などは朽ちて無かった。」
「廃墟の裏には、お墓があったよ。石を積んだだけの簡素なもの。荼毘にしたのか埋葬したのかはわからん。」
「耕作跡も結構あったな。水田もあったし、意外と我々と同じ人間が住んでいたとか? 」
「木立の中には、花が咲いていたものもあって、果物もありそうだ。」
「いつまで、この状況なのかわからんが、どうしたものか?? 」
「そうそう、りっぱな大根を見たわ。」
「ところで、ナズナ殿は確かカラサワ領主様の姪御に当たられる方では? 」
「はい、おうせの通りです。救援隊の副隊長も仰せつかっています。」
とりとめのない話の流れで、そろそろ解散しようか。
「じゃあ、みなのもの解散! 」
マサムネは思った。何のための戦だったのか?。およそ小競り合いの末の戦いであったことは否めない。国境で迷い込んだ牧童を誤って殺害したのがきっかけらしい。小さな村同士の言い争いに、武器を持ち込んだ商人とここで武勲をと励んだ地方貴族がバカの始まりであった。しかし、民意の声だと言って煽った双方の国の元老院も愚かな采配だった。そのあおりを食って領民を率いての出陣。理不尽と言えば正にこのことである。ここは実に良い。戦いがない。それも我々だけの土地で、広く肥えた土壌に豊かな海、水も豊富で故郷より過ごしやすそうだ。領民の全てではないが、2割近い数の者がここにいる。
ここで、子子孫孫、繁栄できたら本当に良いのだが。
シン様が、どうもしっくりこない。前のような勇敢なところが見えない。なよなよとしているが、適切なところをきちっと押さえてくる。不思議だ。
「ユキ姫よ。報告を頼む。」
「シン様、今日は今日とて一概には行かないものです。さて、海の幸は早速手に入ったそうです。手のひらもある大きな貝が沢山取れたので、明日のスープの具になると兵糧隊が喜んでいました。また、ジャガイモに似たものが手に入ったので、早速植えてみるとササキ隊とエルンギ隊が言っておりました。ジャガイモだと3か月で収穫可能だそうです。」
4方に散って行った捜索隊が、次々とその成果を持ち帰った。
安定した食糧供給を目指そう。
食事は生きるためだけではなく心にも栄養を与える。
幸いなのか、軍というのは食べることは基本であって、システム的に完成している。まあ、たまに現地調達や強奪を是とする国もあるが。強奪を繰り返すと進軍跡が荒れ果てて、勝利しても何も生まない領地が増えるだけである。力だけでは、国を司ることはできないといわれている。
ユキ姫は思う。
シン様は優しい。シン様の領土には、20の町とそれにそれぞれ20ぐらいの村があった。村にはおよそ200名ほどの規模なので、全体では、20*20*200=80000人と町の住人が6000人。合わせて、86000人の領民構成であった。今回そのうちの約2割が出兵してきた。大きな賭けであった。農民で働ける壮年者の半分以上が駆り出された。残ったものは大変だろうな。
この戦いに勝てば、領地を東の方に拡張可能となるし、小競り合いも少なくなるはずだ。でも、その後の状況を知るすべはない。
それより、シン様が変だ。
「マサムネ 兵たちの様子はどうかな? 」
「食糧になりそうなものの探索や、耕作ができそうなところを、競って出かけておりました。さすがに3日目となれば、腰が浮くのでしょう。」
夕食は、早速、貝のスープが出てきた。塩だけの味付けだがとてもおいしかった。
テントの前で、夜空を眺めていると、救援隊長のアランがやってきた。
「やあ、アラン。」
「シンよ。今日までの采配、うまくいっているな。でも、なぜか雰囲気が違ってきたような? 」
「まあ、こんな状況だから面喰っているだけですよ! 」
「そうか、ユキ姫とはどうかな? あの戦いで勝って帰れば祝言だったのにな。」
ユキ姫は婚約者だったのか。うーーん。まあ今更取り繕うも面倒くさいし、ユキ姫は俺に違和感を覚えているようだが、現状維持で様子見だな。まあアランもいるしね。
アランは、2つ上の兄。戦いが嫌いで、いつも訓練を逃げ回っていたらしい。それでも、人望は厚く他の隊長や部下から慕われている。で、なぜ3男坊が指揮官なの?。
しばらく、酒を片手に夜が更けた。
アランがお兄さんなのか。優しそうな人だな。
ポチはユキ姫のところか?。まあ明日でもキイに連絡してみよう。これからの助言も欲しいし。
そして、3日目が終わった。