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一万人の転移  作者: 藤村 次郎
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回りの探索

 兵たちが徐々に整列して、整ったところから座ってゆく。落ち着かせるには座らせた方が良い。大隊長たちも、なかなか人心を掌握しているようだ。

ここでは、朝日が昇って5時間ぐらい経った頃だろうか、ちょっと冷たい風が吹いてくる。浅黄色の森を見るに今は春と思われる。そして太陽が海の上の方に見える。正面には海が広がり、後ろは高い山が連なっている。左右には草原と森が広がっている。兵たちもなんとか落ち着いてきたようだ。

俺は、本部の椅子に座って、指揮官らしくしていた。決してキョロキョロしてたわけじゃない。回りの調査だ。


エルンギ大隊長が報告に来た。

「人員機材とも問題なく揃っております。」順次同様の報告であった。

とりあえずそのまま並ばせておくか。


「シン様、海に向かって右方向に川があるようです。兵糧隊を行かせて水が飲めるか調査してきます。」とユキ姫。サクヤと兵糧隊員を向かわせた。

そして、川の水は飲み水として問題なく、魚も多数いたとの報告があった。


1万2千人の飲み水。一人1日少なくとも2リットルを必要とすると、24トン。兵糧隊に運ばせるにしても、入れ物もなければ、運搬手段もない。直接飲ませるしかないな。明日川辺に移動させよう。

「わかった。ユメ隊長 兵糧は、何日持ちそうか?」

「戦いがないので、節約が可能です。3か月は持つかと思います。」


しかし、この状況が夢で、また一瞬先に戦場が広がっていたらとマサムネは疑心暗鬼に囚われる。


索敵隊がもどってきた。

「アヤノです。海に向いて右側の方には1KM先に幅100Mの川があり、その先は湿地と平原が続き、10Kmほどからは遠くに森が見えます。川の淵に親衛隊の馬らしきものが50頭ほどたむろしていました。」


「サクラです。海に向いて左の方行ってまいりました。500Mほど先は幅200Mの川があり、それを渡ると平原と湿地が続いており、3Km先では小高い丘陵地で2Kmほど続きます。そして6Km先には幅1Kmほどの大きな川があり、渡ることができず引き返しました。川のはるか向こうには森が見えました。」


「ガンです。海の反対側は、2Kmほど先で草原が途切れ、森や岩山がところどころにあります。5Kmほど奥に入りましたが、少しづつ登り坂になっていました。ここから見える山に続いています。猛獣の類には遭遇しませんでした。途中、ヤギの群れをみました。」


「カンジです。海沿いに右側へは2KMほどで河口にでました。その先は行けません。左側も3Km先が河口になっています。白い砂浜が続いています。」


 敵の姿や人そのものが一切見えないと、どの索敵チームからも報告があった。

「ご苦労。休憩したら、日が暮れてから同じルートを探ってくれ! 」とユキ姫。

夜の様子も知っておきたい。

サクヤたちは、周囲の探索とは別に、兵たちの動向を探る任が与えられた。


 西と思われる方に太陽が近づくころには、とりあえず事態が収拾した。

「日が沈みかけている。適当に食事を与える用意をするように」とシンは指示を出す。

兵糧隊は、10か所に配給所を設け、各隊に並ばせ順次支給していった。

あっちこちで「いただきます。」と暫くして「ごちそうさま。」の声があがった。

そして、兵たちも何がどうなっているのか、釈然としないまま、腹7分目でテントを張って就寝させられた。

テントの無いのものは仕方ない。野営は進軍の常識、背嚢から厚手の布をかけて、背嚢を枕に寝る。それが普通。そして、遅くまでひそひそ話が続いた。


 一方、本部では夜遅くまで、シンとユキ姫とマサムネの3人と各大隊長は情報の収集と解析を行った。

なにせ、1万2千人の衣食住を満たしていかなくてはならない。優先して、食べることと治安を優先して考えねばなるまい。救援隊と兵糧隊にいる女性 約800人の保護は大変だ。先が見えなくなると種族保存の本能に駆られて、男は見境なく女を襲うことになると言う。

まあ、今日は誰もが思考錯乱になっているので、余計なことは考えず静かに寝るだろうってマサムネが言っていた。俺も状況の把握で精いっぱいだった。


シン様に覇気がない。お疲れのようだ。確かにこの変化は誰もが受け入れがたいものがある。しかし、戦いが無いということは、喜ぶべきことなのか。とマサムネはつぶやく。


 最大の目標である戦いが無い今、1万2千人の統率を如何に行うか?。ユキ姫は考えをめぐらせた。

多くは、民兵。農家や牧畜、商人やまちびとなど様々での集合だ。騎士は親衛隊が200人と各隊付けの250人、合わせて450人である。親衛隊と各隊の騎士は治安を担わせる。

それにしても、シン様の様子がおかしい。全く別人のようだ。でも、統率力には問題ない。


 シンは夜空を見ながら、今日一日を振り返ってみた。

空を見ると月が2か所に見える。星も昨日まで見ていたものとは異なる。そのことでも、ここが東京や日本、もっとも地球でもないようだ。あの白い光に包まれてから、周囲が一変した。そして、シンという指揮官に転移した。って、やはりライトノベルに出てくる“異世界転移”ってやつなのか?

それにしても、マサムネとユキ姫は、一日で混乱を鎮め体制を整えるとは、大したものだ。俺もなんだか悪乗りしたような気もする。

で、本物のシンはどこへ行ったのか??。


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