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一万人の転移  作者: 藤村 次郎
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お見合い作戦

 3月20日。初夏の模様になってきた。じわっと暑い日が忍び寄ってくる。

建国日に宣伝していたお見合いが10日後に迫った。

まず、その前に住民の調査を行う。調査隊として王領の救援隊から5チームを作り、各隊に向かわせた。

順次一人づつ整列させて、記帳してゆく。名前、性別、年齢、伴侶の有無とこの地に来ているか。恋人の有無と一緒にこの地に来ているのか。職業、特技、この地に来ている家族の有無などヒヤリングしてゆく。各領とも2000人ぐらいなので、5列に並ばせて、約4時間で終わった。

調査に来ないものには配給ができないと広めているので、円滑に登録が済んだ。それでも当日登録に来れなかったものは、王領のユキ姫のところに来るよう隊長に伝えた。


 初めての人口調査の結果、総勢12013人の登録が終わった。男性が11180人、女性が833人で、すでに婚姻関係か予定の女性は130人。703人が見合い候補の女性となる。

この調査は戸籍として管理されてゆく。そして、これから毎年整合性を取ってゆくことになる。

婚姻関係か予定や2人以上の家族には優先して家屋が割り当てられるよう、シン王は指導した。


さて、見合い作戦まであと3日。

「ひょっとしたら、おらも嫁がもらえるだか?」

「ははは その顔じゃ無理だっぺ。」

「そら、やってみにゃわからん。」


 元の世界では、小作は一生独り身っていうのが当たり前。今回は平等に見合いして、気が合えば結婚ということになる。これはシン王の画期的な計らいである。

放置しておくと、力のあるものが女を囲うことになり、力こそ正義の世界になってしまう。

シンは戦いで血を見るのは嫌いだ。軍人はいつも戦うことを前提に話を組み立てる。

この土地は神からの授かりものだ。血で地を汚すことはしたくない。すなわち、力が支配するようなことになれば、我々の未来は無いと。そのためには、一夫一妻を掲げて、まず伴侶を平等を選べることから始めることにした。


 見合い作戦の計画は、ユキ姫が組み立てた。

700人の女性を獲得するために見合い作戦を行った結果、130組がめでたく夫婦となった。

まあ、前の夫を忘れられないのも人の心である。相性もある。

これからも自然な中から夫婦が誕生するだろう。焦ることはない。

伴侶を得た2人は、夫婦は家族居住区に優先して住むことになった。

これは、伴侶を得なかったもののやっかみやトラブルを避けるためである。

また、子供ができたら互いに面倒を見合い、健やかな子育てができるようにとのシン王の配慮である。

また、家族で兵役に加わった者たちも家族居住区があてがわれた。


 その夜、ポチに子犬が産まれた。

3月21日の朝、ユキ姫が犬小屋を覗くと、2匹の真っ白な、ふかふかの塊がコロコロしていた。

「かわいい!!」

ポチも疲れているようなので、メイドに世話を任せて、皆には数日近寄らないように言い渡した。

しばらくして、ポチは子犬を引き連れて、あっちこっちで見られるようになった。

まあ、かわいい行進である。


 はて、女性居住区から、歌声が聞こえてくる。

足を向けると、そこにはアマルガが椅子に座って、ギターを弾きながら歌っていた。

透き通る様な声。軽やかなギターの爪弾き。

子供たちが、前に座って身体をゆすっている。

アマルガの故郷の歌なのか、言葉も意味もわからないが。なぜか、心が和む。

女性陣も、うっとりと聞いている。


と、若者が笛を持って、乱入してきた。

音節のながーい音を、高みに上るような力強い音が響く。

そして、大合唱が始まった。


「えっ、えっ。 なんだ。なんだ。 」俺はユキ姫の方を向いて、答えを待った。

「これはね。古くからカラサワ領で歌われている領歌です。皆は田んぼで山で仕事場で親しく歌われています。」

「ほおう。 これはびっくりした。」

アマルガのギターも旋律を確かめながら、入ってくる。

小一時間、飽きることなく繰り返し大合唱だった。


歌詞の内容は、朝に起きて、田畑に出て、昼寝をして、午後も仕事に精を出して、夜は皆でご飯を囲み、八百万の神々に感謝して寝るまでを歌っている。単純である。しかし、愚直な農民の生活に根差したもので、じーんと来るものがある。

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