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一万人の転移  作者: 藤村 次郎
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ここはどこだ

ここは、イキア国とタマロ国の戦の場。ダークプラトーの戦い。

イキア国は20万、タマロ国はわずか5万の兵を対峙させて、今や戦いの火ぶたを切ろうとしている。

早朝の空には暗雲が立ち込め、時に稲妻が天空を駆け抜ける。

田畑であったところは、無残にも兵の足で踏まれ、ぬかるんだ大地となっていた。

そして、この先、多くの骸は容赦なく泥の中に没するのであろう。

タマロ国側は1万を先頭に、続いて1万を後ろに、そして左右に1万、その後方に1万の楔形。救援隊1000人、兵糧隊1000人で臨んだ戦いである。高らかに進軍ラッパが鳴り響いた。

後方隊の隊長も進軍の合図を送る。

そして、“ざっ”と足音がしたと同時に、後方の指揮官シンが率いる12000人だけがその場から消えた。


「ここは、どこだ? 」前にいたはずの軍が見えず、うろたえる兵士たちを、副官のマサムネは茫然自失で眺めていた。先ほどまで暗雲が立ち込めた戦場ではなく、どこまでも青い空と、緑の大地、遠くには森が見え、前には大海原が広がっている。目を凝らしても敵がいない。


「ここはどこだ! 」俺は、今まで電車に乗っていた。確かに視界が白くなって、ふわふわしたところで、子供に声をかけられた。何を言っていたのか今は思い出せない。


「シン様、まずは体制を整えましょう! 」と横から声がかかる。

ゲームに出てくる、中世ヨーロッパの騎士のような、ひげ男が横にいた。

おれは「ああ・。そうしてくれ! 」とやっと声を絞り出した。


「大隊長は、ここに集まれ! 」と、副官のマサムネはすごく大きな声で呼ばわって、2000人を括る大隊長の5人を呼び集める。大隊は5つの中隊で構成され、さらに中隊は5つの小隊でなっている。最小の小隊は80人である。

オルバ隊長、エルンギ隊長、マサカツ隊長、ブルグ隊長、ササキ隊長の5名がすぐに集まってきた。

「良くわからんが、異常な事態だ、至急、兵を整列させよ! 」とマサムネ。

各隊長は、隊に戻って全員に整列の号令をかける。人員点呼を行い、その場に座らせた。


「エルンギ隊集合! 」

「各中隊長は、小隊を4列で並ばせろ! 」

「中隊長は人員、機材を報告せよ! 」

「ヨシキ中隊、403人 傷病なく全員揃いました。」

次々と中隊の報告があった。

各隊も、エルンギ隊と同様に点呼を行った。

5大隊が揃うのを待って、マサムネは指示を伝えた。

「皆の者、よく聞け!。この状況は、よくわからん。

いつ戦いの場にならんとも計り知れない。だから、しばらくはそのまま待機せよ! 」

5隊で約1万人のようだ。


「シン様が、あのようにおっしゃられるのだから、まずは落ち着くべ。」

「いやー、まいった。どうなってんだ。敵はいないし、先陣の隊もいない。まったく見たこともないところだ。太陽がまぶしい。」

「まあ、きれいなところだあ!。」

兵たちは、口々にこの状況を吐き出し、同様の色を呈していた。


俺は、まだ呆然とこの状況を眺めていた。

「シン様、しっかりしてくだされ!? 」とマサムネが小声で話しかけてくる。


お・俺は “シン“という名の、指揮官らしい。12000人の兵を統率している。その兵隊は、俺の知識では中世のヨーロッパの姿に近いようだ。しかし、なんでこんなにうろたえているのだ?。それに俺は、顔を撫でるとふさふさの髭が手にあたり、身体が軽く力が漲っている。この身体は何だ!!

先ほどまで、山手線に乗っていたのに、なぜこのような場所にいるのだ。パニックっていても始まらん。とにかく周囲をよく見て、適切な方向を探らねば。


マサムネは、次に救援アラン隊長、兵糧ユメ隊長を呼び、機材や食料の報告をさせた。

確かに軍を進行させるにはロジスティクスは重要であり、「必要なものを」「必要な時に」「必要な量を」「必要な場所に」供給する部隊は必須である。

現地強奪なんて手もあるが、住民の反発と領土の荒廃がついてくる。何のための戦いなのか分からなくなる。

マサムネはシンの元に、兵を整えさせ、その次にロジスティクスを確認した。


「ところで、ユキ姫。この状況をどうする? 」とマサムネ。

参謀のユキ姫は、年の頃15歳ぐらいの女性である。白の甲冑に身をまとい、真っ赤な扇子を口元に当てて、

「どうするもなにも、そうね。シン様、まずは兵たちを落ち着かせることかな。あ・それはもういいか。まあ、周囲がどうなのか知りたいですね。索敵隊に探らせましょう。」


きれいな人だ。ユキ姫か。でも気が強そうだな。


ユキ姫は、索敵隊の10名を集め指示を出す。

「見たところ、親衛隊が乗っていた馬もいないね。3名一組で、アヤノは海に向いて右側、サクラは左側、ガンは海とは反対に山の方へ。カンジは海沿いを、サクヤはここに残れ。まずは、20Kmほど行って戻ってきてね。さあ行って! 」

索敵隊員は、走れば往復で2時間もあれば戻って来るはず。

3名の訳は、伝令に1名出しても、2名で続行できる。安全な指示である。


「シン様、全く脈絡の見えない状況ですね。私も何とも言えませんが、まず、今の状態は平穏で命の危険がないことは確かなようです。敵が見えないのは一安心と言えますが? 」

「うん。俺もそう思う。まずは落ち着いてこの場を統率せねば。」


敵が見えない??。ああ、ひょっとして戦争の途中だったのか?。12000人が突如戦場から、ここに転移してきたということか。そして、俺はこの部隊の指揮官なのだ。ここはゲームの世界だと認識すればよいのだろうか?。シンという人物になりきってみるのも面白そうだ!。

合戦を模したゲームなどもちょっと齧ったことがあるので、その気になれば大丈夫だ。

兵の装備を見ると異世界転移のゲームなどによくあるヨーロッパの中世だろうか? 皮や鉄の防具を装備している。

シンは踏み台を持って来させて、その上から状態を俯瞰した。

むさい。実にむさい。髭面で、着ているものは、土色でだぼだぼ。剣を持つもの、槍をもつもの、弓を持つものなどが勢揃いしている。そして、12000人の胡乱な目が俺を見ている。

先ほどまで、死と勝利の狭間に居た男たちの目。

怖いとは感じない。なぜか逆に、愛しさがこみ上げてくる。


副官のマサムネに、各隊の様子を見させ、統率を続けるよう指示を出した。

「マサムネ、本部のテントをこの位置に立てくれぬか? 」

「おおせのままに。」

本部テントは、タマロ国カラサワ領支部と名付け、これからのまつりごとの中心とした。

ただ、皆からは“本部”と呼ばれた。


「うぉん! 」と横から。

「あれ! これ 犬だよね。 よしよし」

ユキ姫にすり寄るのは、真っ白な体長1Mほどの大きな犬?。

「あら、かわいい。でも犬なのかな? 額に角があるのだけど??? 」とユキ姫。

まあ怖い感じはしないし、ユキ姫に懐いているようだし、まあ良いか。

ゲームの世界・・世界だ。とにかく落着け!と自分に言い聞かせる。

まあ、落ち着いてお茶の時間にしよう。

マサムネとユキ姫を座らせて、黙ってお茶を飲む。


良い風だ。

こんな、清々しいのは久ぶりだ。

「この状況に、お茶ですか? シン様も豪儀ですね。」とユキ姫。

「長たるものが落ち着いておれば、皆も安心する。 」とシン。



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