白黒つけましょう!(?)
皆様お久しぶりです。Neisheliaです!
なんと一年ぶりでございます。長らくお待たせして申し訳ありませんでした。
文体が変わってしまったせいで色々と葛藤がありましたが、連載再開と致します。どうぞ暖かい目でお見守りくださいませm(_ _)m
サロンの奥で、ジルベルトが長椅子に足まで上げてクッションを枕にしていた。普段は縛っている水色がかった銀髪をほどいて寝ている。そして手前の椅子に長い足を組んで座っているセルシュヴィーン様はそれを気にすることなく優雅に紅茶を楽しみながら本を読んでいた。
暖色で統一されたサロンは魔法で室温が調整されているのか暖かい。セルシュヴィーン様の紅茶から漂ってくる香りもリラックスさせられる。
「えっと……」
言葉に詰まった私に、セルシュヴィーン様は静かに、と自分の薄い唇の前に指を立てた。顔を動かすことなくちらりと目だけを寄越されたので、すごく色気がだだもれている気がする。
私は困惑しながらもなんとか頷き、セルシュヴィーン様に手招きされるまま近付いた。
「ジルは普段あまり寝てないようでね。こっちでは私が声をかけた時以外は基本的に休暇扱いだ。ジルも最初のころは渋っていたけれど、今では、ね。メルスティアはどうする?」
いつも……。すごく衝撃的な内容を聞いたところで、私が同じように寝るわけにはいかない。今は貴族でなくても一応うら若き乙女ですし? 妙齢の女性が男性の前で寝るなんてありえませんから? まあ、セルシュヴィーン様たちは変なことしないって分かってるんだけどね。
「寝るわけにはいきませんから……。そうですね、セルシュヴィーン様は読書をなさいますか?」
「いや、何かあるなら相手するけど? チェスでもする? ジルが寝ているから暇なんだ」
どうやら読書はジルベルトが寝てしまったため、私が来るまでの暇潰しだったみたい。本に目をやるとまだ数ページしか読まれていない。
「では、オセロ……いえ、リバーシのお相手を願えますでしょうか」
一度やってみたかったんだよね。こっちの世界でリバーシ。クリスティーナ時代はエドルグリード様がやってくれそうになかったし、女性はこういうのに興味なかったから、相手をしてくれる人がいなかった。せっかく作ったはいいものの、使う機会がなかったせいでずっと亜空間の中に置き去り状態だったのだ。
亜空間からリバーシの盤と石を取り出し、セルシュヴィーン様に見せる。興味を惹かれたのか、セルシュヴィーン様はまじまじとリバーシの道具を見つめる。
「早く置いて、座って。なんだか楽しそうだ」
わくわくしているらしいセルシュヴィーン様に急かされて、向かいに座り、テーブルに道具を広げた。8×8マスの盤と白い石と黒い石を加工した64個の石。それらしいものは作れても、完全なものは作れなかった。
簡単にルールを説明すると、セルシュヴィーン様はすぐに理解してしまう。なんか悔しい……。この人の頭の回転が早いのは分かっていたけど、ここまでとは。
「……降参です。少しは手加減してくださってもいいと思います」
思わず本音が漏れてしまった。これリバーシだよね? おかしくない? なんで私置けなくなってるの?
一、二戦目は良かった。三戦目から枚数差がギリギリになって、五戦目は一枚差で負けたと思ったら、この六戦目で置ける場所なくなったんですけど。セルシュヴィーン様は澄ました顔で優雅に紅茶を楽しんでいる。
「手加減だなんて。私は初めてだよ?」
知ってます。なのに強いってどうかと思います。恨みがましく中性的な顔を見ていると、視界の端にいたジルベルトが動き出した。
「うぅん……」
え? 今のジルベルトの声だよね。
ぎょっとしてジルベルトの方を見ると、身体を半分起こして目を擦っていた。さらさらした髪が肩にかかっている。小さく開いた口とトロンとまだ眠たそうな切れ長の目が、目に毒だ。
「ジルは寝起きに弱いんだ。かわいいと思わない?」
「エミリーに見せたいですね」
かわいいかどうかは置いといて、これをエミリーではなく私が見てていいのか、ちょっと申し訳なくなってくる。分かると言いたげにセルシュヴィーン様はコクコクと頷いた。セルシュヴィーン様によると、三人は幼馴染みで、エミリーとジルベルトは二人とも初恋で両片想いらしい。小さいころから二人を見守ってきた身としてはそろそろくっついてほしいとか。出会ってまだ数ヶ月の私でもそう思う。
「ジルおはよう。起きたなら私の相手をしてくれない? これ面白いんだ」
まだ寝ぼけ眼のジルベルトがセルシュヴィーン様に呼ばれてポテポテと歩いてきた。やばい。笑いそう。あの無表情聖騎士がポテポテ歩いてる!
私はそそくさとその場から離れた。リバーシはセルシュヴィーン様に取られたので、一人でできることを考える。正直二人のゲーム見てても暇だしね。
二人から少し離れたソファーに座ると、バネが入っていないため、座ったところが沈みこむ。
「ふわぁ!」
クリスティーナ時代以来の感覚に、思わず気の抜けた声が出た。そしてそれが聞こえていたらしい二人に笑われる。ジルベルトは小さく口角を上げるだけだけど、すごく馬鹿にされてる気がした。さっきまで寝ぼけてたくせに。
ムッとしながらも手元で魔法を発動する。参考にするのは3Dプリンター。原料にどんなものを使うといいのかなんて専門知識はないので、取り敢えず色んな固さを試してみることにした。試作品1号がころりと掌に転がる。銀色のワイヤーが渦巻き状になったもの。いわゆるバネだ。
この世界──と言っても私はクヴァシルとケリドウェンしか知らないけど──にはバネの概念がない。そのせいでベッドは固いし、馬車は酔うし、ソファーも低反発どころか反発ゼロ。とにかく不便なわけよ。前々から作ろうと思ってた。アリス様にバネ入りのベッド上げたいなって思ってから作ろうとはしてたんだけど、まあ、なんだ。時間がなかったんだよね。今なら暇だからいくらでも作れるってわけ。
1号は固い。反発力が強すぎる。ボツ。
ぽいっ、と亜空間に放り投げて2号の制作にかかった。2号もだめ。3号もだめ。失敗作がどんどん亜空間に放りこまれていく。かれこれ57号目を放りこんだところで、手元が暗くなった。
「どうかしましたか?」
見上げるとセルシュヴィーン様たちが立っていた。いいから早く、と急かされて58号目に取りかかる。コツをつかんだお陰で一瞬にして出来上がったバネは、いい感じの反発力だ。これを量産するかな。あ、いつか見たベッドのCMで言ってたけど、固さの違うスプリングを一緒に使うと寝心地が良くなるんだっけ。
「複製生成」
亜空間から32号を取り出し、58号と一緒に複製を量産。次から次へと同じものが倍増していく。みるみるうちにバネが床の一部を陣取った。
「なんでそうほいほいと独自魔法を使うのかな……」
なぜか呆れ混じりのセルシュヴィーン様。確かにこれは独自魔法だけど、たいして難しくないと思うし、そこまですごくない。無機物のコピーはできても、有機物は無理なんだよね。面白いのは、薬草のコピーはできないけど、それから抽出した成分のコピーはできるところ。なんかそそるよね。1回抽出に成功したら、また成功するまでリトライ、なんてことにならないのは素晴らしいと思う。
「えー……と、散らかしすぎたので片付けますね」
あたりに散らばったバネを一瞬で全て亜空間に取り込む。一気に片付いた。前世でもこの魔法があったら、親に部屋を片付けなさいなんて口酸っぱく言われなくて済んだのに。トホホ……。
「リバーシも終わったし、カードゲームでもしないかい?」
これ以上の追求は諦めたらしいセルシュヴィーン様が、何やら素敵な笑顔で提案してきた。この顔は十中八九、何か企んでる。企んでないわけがない。
「今回も罰ゲームですか? いいでしょう。やりましょう」
うん? なぜそんなに乗り気なんだね、ジルベルト君。私には理解できないよ?
顔が引き攣りそうになるのを堪えながら、とりあえず微笑んでおく。セルシュヴィーン様は私の表情を都合よく解釈したのか、メルスティアも乗り気だし、といそいそとトランプを取り出してきた。絶対に私が乗り気じゃないの理解してるよこの人……。
為す術もなく、カードゲームが始まることになってしまった。
カードゲームには罰ゲームが付きものですよね?!私は皿洗いを賭けたカードゲームをよくしておりました。
バネの量産に成功したメルスティア。ベッドの上でトランポリンもそう遠くないはず?!
次回はカードゲームです。いやはやどうなるのでしょうか。ちなみに私はババ抜きよりも豚のしっぽが好きです。




