帰省(?) ⒈
とうとうブックマークが200になったぞー!ドンドンパフパフ(*≧∀≦*)
皆さんほんとにありがとうございます!今からやっと物語が大きく動き出すのでこれからもよろしくお願いします!!
第1話を改稿しました。物語に支障はありませんが、結構変わってます。時間があるときに見てもらえると嬉しいです。
ガタゴトと乗り合い馬車揺られながら、そっと外に目をやる。久しぶりに見るレンガ舗装の地面。寒色系で統一された町並み。行き交う人々は顔立ちも服装もケリドウェンとたいして変わらない。けれどケリドウェンでは当たり前のように目にしていた魔法具は、どこにも見当たらない。本当に違うんだな……。
そんな違いに気付いても、今の私では何もできないのでどうしようもない。小さく息を吐いて視線を外から外し俯く。そうして昨日のことに思いをはせた。
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セルシュヴィーン様が倒れた原因を、ジルベルトは日頃の疲労が祟った、ということにした。実際、セルシュヴィーン様は今現在他国に留学中のユーフレヒト第一王子の政務もこなしていたのが、不幸中の幸いと言ったところか。王宮医師はすぐに納得してくれた。
起きる気配のないセルシュヴィーン様は私室で療養することになり、護衛である私たちはセルシュヴィーン様の私室で護衛をすることに。でも、中に入れるのは筆頭専属護衛騎士であるジルベルトの指示によって、私とジルベルトだけとなった。
「メルスティアは休暇を取ったほうがいいだろう」
セルシュヴィーン様が倒れた次の日、ジルベルトからそう告げられた。正直なぜなのか理解できなかったため、理由を聞いてみた。すると、似ているからとの答えが返ってきた。
「例の部屋で殿下が『色や魔力は違うが似ている』といったことをこぼしていただろう」
それを言われて納得がいった。もしセルシュヴィーン様が目覚めて私しかいなかった場合、私をクリスティーナと錯覚する可能性があるのだ。最悪の場合、私をクリスティーナに重ねて生きていて良かった、などと言い出しかねない、と。うん。私はいないほうがいい気がしてきたぞ。
ということで私は休暇を申請し、実家を訪れるこたにしたのだ。実家を訪れると言っても、私が公爵領に持っている温室で育てていた薬草や毒草たちを取りに行くだけ。それに私はメルスティアとして行くし、今『私はクリスティーナです』なんて言って出ていってごらんよ。亡霊だー!ってなるでしょ。
そして今薬草たちを取りに行くのには理由がある。領地の公爵邸でメイド長をしているヒリスに、とあることをずっと言い続けていたからだ。
『もし私に万が一のことが、もしくは私が嫁ぐことになったら、黒髪のメルスティアという友達が薬草たちを引き取ってくれる』
これを学院に入ってからずっと言い続けていたのだ。私が私の死を耳にした今、私は薬草たちを取りに行くことができるのだ。だから今、私はフォルセティ公爵領に来ている。
ところで、セルシュヴィーン様の元に届いたあの紙切れの走り書きについて、一つ疑問があるのだ。
────なぜ病死なのか。
これに尽きる。これは見る人が見れば非常におかしな内容なのだ。フォルセティ公爵家の人間が病死するなんて。そもそも、フォルセティ公爵家の人間は病気にかからない特殊体質なのだから。このことを知っているのはクヴァシルでもほんの一握り。皇族でも知っている人と知らない人がいる。でも、エドルグリード様は知っているはずだ。あの人が知らないはずがない。もし忘れていたとしても、病死と公表するときにお父様たちが反対したはずだ。
一体何が起きたのだろう。まあ、大体想像つくけどね。大方あのアストレアが絡んでいるんだろう。魅了を使われて思考があやふやにでもなったんじゃないかな。主にエドルグリード様が。あの人のことは婚約者として、男性としては好きになれなかったけど、兄のように慕っていた。昔はエド兄と呼んでいたぐらいだ。魔法を使われているとは言え、落ちるとこまで落ちたな、と思う。ちょっと悲しいな。男尊女卑国の皇子であることを抜くと尊敬できる人だったのに。
もし、このまま放置しておくと、これからクヴァシル皇国はどうなるだろう。少なくとも今の皇族は没落するだろうね。アストレアによって。国は崩壊の一途を辿るだろうか。もしそうなったら、ケリドウェンが困るかな。
ここまで考えて、私がもうクヴァシルを大切に思えていないことを悟る。家族がいるけれど、今の私はケリドウェンの方が大事だ。でも、もし家族が、特に弟のロイが困ることになったら私は手を差し伸べるだう。ロイことローランドはクリスティーナとして生きていたころの唯一の癒しだった。ついでに男尊女卑男にならないよう、小さいころから言い聞かせてたしね。久し振りに顔見たいかも。どうせ王都の公爵邸にいるから見れないだろうけど。
ロイのことを考えているうちに、公爵邸の近くに着いた。銀貨を払って馬車を降りる。ゆっくりと体を伸ばすと、ゴキゴキッと物凄い音がした。凝りすぎでしょ……。
公爵邸へ向かって歩きながら辺りを見回す。クリスティーナだったころ、屋敷を抜け出しては下町に遊びに来ていた。そのときの記憶にある様子と比べると、いささか活気がない。父親としてはどうかと思うけど、領地を経営する貴族としては素晴らしいお父様に何かあったのだろうか。
公爵邸の裏手に回り、使用人受付の場所に辿り着く。改めて自分の服装を確認する。おかしなところはないはずだ。今日来てきたのは夏の魔物討伐後にフィーとアミュと一緒に下町で買った、平民にしては少々上等なボレロ服コーデだ。
「ケリドウェン王国から来ました、メルスティア・カルファと申します。メイド長のヒリスに薬草を取りに来たと伝えてもらえますか」
受付にいたメイドに騎士団の身分証と国境の通行証を見せてヒリスに繋いでもらう。私の身分証を見たメイドは、聖騎士という言葉を見ても驚くことなく了承すると中に入っていく。これが文化の違いと言ったところかな……。女性が他国の情報に疎い。隣国のことでさえも知らないのだ。悲しいね。
ヒリスはすぐにやって来た。深緑の髪をひっつめ、シニヨンでまとめているの姿は変わらない。少し痩せたかな?私の知っているヒリスはもう少し頬がふっくらとしていた。今のヒリスは何と言うか、そう。やつれている。
「ようこそいらっしゃいませ、メルスティア様。そろそろいらっしゃるかと思っていましたよ」
それでも変わらぬ笑顔を浮かべるヒリスは、私の知っているヒリスだ。
「初めてまして、ヒリスさん。私は敬称をつけてもらえるような人間ではありません。どうかメルスティアとお呼びください」
軽く頭を下げると、ヒリスはクスクスと笑った。まるで子供の可愛いわがままを笑うような笑いだ。なんだろう。すごく生暖かい目で見られているような気がする。
「そうは仰いましても、メルスティア様はお嬢様のご友人ですから。そればかりは受け付けられません。ところで、お着きになられたばかりですよね。先にお茶でもいただいてくださいな」
むぅ……。やはりだめか。ヒリスは昔から一度決めたら曲げないところがある。よく言えばまっすぐだけど、今の状況だと頑固としか言いようがない。
スタスタと前を歩くヒリスに着いていくと、案内されたのは何故か私の部屋だった。最後に見たのは学院を抜け出す前の帰省のときかな。ざっくり計算して一年ほど前。
白塗りの扉に金の取っ手。何度も、それも毎日のように見ていたそれがすごく懐かしく感じる。
「こちらはお嬢様のお部屋でごさいます。お嬢様がお隠れになられた今でも、旦那様がそのまま保存しておくようにと仰ったのですよ」
そう言いながらヒリスが開いた扉の奥には、ヒリスが言う通り全てが当時のままの部屋が見える。しかし何より驚いたのは旦那様、つまり私のお父様の言葉だ。父親として最低どクズなあの人が、私の部屋を保存って。一体何が起きたというのだ。天変地異でも起きたのか?
中に入ると、テーブルに案内される。3つある椅子のうち、かつて私の定位置だった椅子に腰かける。私がよく使用人たちと小さなお茶会をしていたときの定位置だ。私が席につくと、ヒリスもあの時のように私の左前の席につく。あの頃は貴族らしくない行為だと最初は断られ続けたけど、私が諦めないことを悟ったヒリスが折れてくれてた。その日から毎日いろんなメイドや執事たちと話を楽しんでいたのだ。
思い出に浸りながら銀と白と青で統一されている華美ではないが上品な造りの部屋を見回す。窓際の白い机はいつも何かしらの資料が乗っていたけれど、今は何も置いていない。銀の天幕に囲まれたザ・お嬢様なベッドにはどこからどう見てもフカフカにしか見えない水色の掛け布団が。枕元にはかわいらしいぬいぐるみが四体。左からアル、イル、ウル、エルだ。ネーミングセンスは……うん。問わないでほしい。藍と白のストライプの長椅子に置いてあるクッションには、私が縫った刺繍が。我ながら上手いと思う。
いつの間にか紅茶とお菓子が運ばれてきて、小さな円卓に並べられていく。
「これらはお嬢様が大層お気に召していらしたものです。お口に合えばいいのですが」
「……!ありがとうございます。ありがたくいただきますね」
ヒリスの言う通り出されたのは私の大好物だ。ロータスティーにシフォンケーキ。香りとアッサリした味が好きなのだ。
久々の味を堪能してから、私たちはお目当ての温室へと向かった。
落ちるとこまで落ちた(笑)自分で書いておいてなんだが、結構辛辣なこと言うな、メル。
次話は温室ですね。願わくばあの人たちが登場できますよーに!