プロローグ
ブックマークありがとうございます!
ようやく«第二王子の専属護衛騎士»に突入しました!やっと(恋愛面での)物語が大きく動いていきます!どうぞこれからも宜しくお願い致します!!
クヴァシル皇国
「本当にこれで全てか?」
一人の令息が大量の紙束を手に周りを見渡す。そこにいる誰もが真剣な顔をして大きく頷いた。
「問題ないわ。私が何度も検査したもの」
「勿論僕も携わりましたから抜かりありません」
一際凜とした雰囲気を持つ令嬢と令息がはっきりと言葉にした。その言葉を聞いた藍の髪を持つ令息はまるで国の使命を背負って重大な任務に向かう軍人のような顔で宣言する。
「では今から我らが麗しのあのお方の情報を、この命に替えてでも届けてまいる。全ては麗しのお方のために!」
士気を高めるように突き上げた拳に他の者たちも拳を突き上げる。貴族令息として、ましてや令嬢では断じてあってはならないような行為だが、彼らには関係ない。自らよりも大切な一人の人のための行為なのだ。そのあのお方の姿が見えないと言えど、自分たちの行動は変わらない。全てはあのお方のために。あのお方の幸せのために。
藍の令息が紙束を大切に大切に抱えながら目的地へ向かっていると、一人の令息が駆けてきた。
「待つんだ!今最新情報を掴んできた!これから発表されることだが、あり得ないことが起きたぞ!」
紅い髪を振り乱しながら駆けてきた令息はその場で懐からノートを取り出すと、万年筆で走り書きをする。今にも泣き出しそうな顔でありながら、その目は怒り狂っていた。
「これだ!これだけは何に替えても絶対に届けてくれ。あの人ならあのお方のことを何とかしてくださるはずだ」
突き出されたノートの切れ端に書かれた言葉を見た藍の令息は、その飴色の目を溢れんばかりに見開いた。
「なっ……!バカなことがあり得てたまるかっ!あんのクソ──がっ!」
受け取った紙を睨み付けてワナワナと怒りに震える藍の令息は、紅の令息を見て力強く宣言する。
「絶対に届けてみせる。俺たちには何もできないが、あの人ならできるはずだ!」
「ああ。頼んだぞ、我が同士よ!」
それだけ言葉を交わすと藍の令息は踵を返して目的地へと急いだ。そこには待ち人……いや、待ち猫が既に到着していた。
「どうかこれを。何がなんでも届けてくれ……!」
白猫にそう言い聞かせながらその首輪についた魔法具に次々と紙束をしまっていく。全てをしまい終えると、白猫は琥珀の目で藍の令息をじっと見上げてくる。藍の令息は心得たように懐から鰹の叩きが入った袋を取り出した。
「これでお願いします。絶対にあの人に……!」
袋の中身をペロリと食べ終えた白猫は優雅に尻尾を揺らしながら藍の令息が来た方向とは反対の方向へと消えていった。
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ガルディス帝国
「陛下、今ケリドウェン担当の呪術師が息絶えました」
「やはりバレたか」
厳かな雰囲気の玉座にふんぞり返っているガルディス帝は、その長い立派な顎髭を撫でながら悠長に返す。まるでそれが当たり前だと言わんばかりの態度だ。
「戦争でしょうか」
少々腰の引けた大臣が上目遣いでガルディス帝を窺う。するとガルディス帝は嘲笑うように声を上げた。
「戯けが。クヴァシルと分断しているケリドウェンが我々に楯突くことができるとでも?国力が下がっていて敗北が決定している戦争を仕掛けてくるほど愚かではないだろう。我々が何をしようがあちらは手を出せないのだよ。ああ、愉快愉快」
側に侍らせた女性の肩を抱きながら豪快に笑う。給使に持ってこさせたワインを一口煽って大臣を指差した。
「次を送り込め。次を。呪術師などいくらでもいるのだからな。いっそ呪術師そのものを送り込むか。いいな。そうしよう」
突然の命令に大臣は怯えたように肩を震わせる。
「畏まりました。早速準備して参ります……!」
逃げるようにガルディス帝の前から去っていく大臣。それを憐れむような目で見送る女が一人。その女は自身の淡い桜色の髪を弄りながらそっと溜め息をついた。それに気が付いたガルディス帝が下卑た笑みを女に向ける。
「どうした我が女神よ。憂いごとでもあったか?ん?」
舐め回すような厭らしい視線に僅かに眉をひそめるが、すぐに妖艶な笑みを浮かべて女はガルディス帝の方を向く。
「ありませんわ。だって私には関係ありませんから」
「そうか?いずれはお前の母国も巻き込まれるやもしれないのだぞ?」
挑発するような言い方にイラッとしそうになった女はガルディス帝に見えないところできつく拳を握りしめる。が、それを悟らせない笑みを浮かべて気丈にガルディス帝に返す。
「私は母国に恨みはあれど何も未練はありませんわ。ご存知でしょう?」
まるで本心を悟られるないようにいい募る女に気付いているのか気付いていないのか、ガルディス帝はフッと口の端を上げる。
「ああそうだったな。では女神よ、今夜また会おうではないか」
言外に退出を命ずる発言をされ、女はすごすごとガルディス帝の前から去っていった。その後ろ姿を実に愉快そうに見ているガルディス帝に気付くことはなかった。
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ケリドウェン王国
セルシュには新しい聖騎士が付いたから問題ありませんわね。ユーフレヒトお兄様は……、生きているかしら?留学という名で無一文で放り出されているのですけれど。まあ、あのお兄様ですもの。心配無用ですわね。そして私は……。今はお兄様の代わりに出せるだけ膿を絞り出しておこうかしら。あとは城下町の様子も見ておかなければなりませんわね。いつ行こうかしら。そういえばメルスティアの所属がはっきりとしましたわ。これでつれ回すことは可能ですわね。あとは……。
「リオン」
「お呼びでしょうか」
扉の向こうで控えていたリオナールを呼ぶと、すぐに入ってきてくれました。流石、優秀ですわね。こんなに優秀な人材を嫁ぎ先に連れていけないのが残念ですわ。どうにかして連れていけるようにしようかしら。
「私、新しい我儘を考え付きましたの。聞いてくださる?」
ウフッと声を漏らして笑うと、リオンは軽く目を見開いた後優しく微笑んでくれます。流石は私の筆頭執事ですわ。何も言わなくても私がしたいことを分かってくれるのですもの。
「勿論でございます。ガルディス帝国の案件でございますね」
「そうですわ。私、新しい玩具が欲しいと思っていますの。身元の確かで全く疑いを持つ必要のない優秀な人材がね。そろそろそういう人間が入ってきてもおかしくないと思いますわ。ついでに魔法でなくても何かに秀でている者なら尚歓迎いたしますわよ?」
私の言葉を楽しそうに聞いているリオンの頭の中では、既に沢山の事柄のパズルが始まっているのでしょう。きっと私の期待以上の仕事をしてきてくれるでしょうね。私が望むのは不自然すぎるほど身元が確かで全く疑いを持つ必要のない優秀な人材、かつ魔法ではなく呪術が使えるガルディス帝国からの間者。私の言わんとすることを余すことなく理解したリオンは、無駄だと分かっているのでしょうけれど難色を示しました。
「レイリーン殿下の御身が危うくなりますがよろしいのでしょうか?」
全く心配していない顔で心配するような声を出すだなんて演技派ですわね。ますます連れて行きたくなりますわ。決めましたわ。リオンは嫁ぎ先にも連れていくことにしましょう。まずは次のパーティーの時にでも丸め込もうかしら。
「そんなことは心配ありませんわ。貴方たちが守ってくださるのでしょう?」
「当然のことでございます。杞憂でございましたね。では手配して参ります」
「ええ。期待しているわ」
リオンは礼をすると人事の部署へと足を向けました。これでガルディス帝国方面の厄介事は私が抱えることになりましたわね。お兄様がいらっしゃらないうちに色々終わらせておかなくてはなりませんし、またセルシュにガルディス帝国からの者を付けるわけにはいきませんものね。あの子は完璧なように見えて案外心の弱いところがありますから。弟の弱みは姉である私が支えてあげなければなりませんものね。どうやって遊ぼうかしら?楽しみですわ……!
クヴァシル皇国ちょっと危ない……?いえいえこれは必要不可欠なことですから。いずれまたどこかで出てきますのでそれまでお楽しみに!私は早く彼らのことを書きたいです(笑)
次話は専属護衛騎士としての初出勤です。そしてあの噂の真実が……?!