エピローグ(セルシュヴィーン視点)
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今回も長いです。流血表現、及び残酷な描写があります。
「ご自由にどうぞ?俺は命令に従ったまでだ。対象にばれた以上しょうがない。……っ!!」
コーヤッツがそう言うと、コーヤッツたちが苦しみ出した。まるで身体の内側から蝕まれているようなその光景に、まさかと思いながら声を荒げる。
「ジル!メルスティア!コーヤッツだけでも死なせるな!」
すぐに反応したメルスティアがコーヤッツに治癒系統の魔法を放った。しかしそれは牢にかけられた結界によって弾かれてしまう。
「メルスティア頼む!」
すかさずジルベルトが牢の扉を開け、メルスティアは私とジルベルトの間をすり抜けて中に入り、コーヤッツに結構な魔力を込めて魔法を放った。
バシッ
メルスティアの放った魔法はコーヤッツから跳ね返った。
クソッ……!何でこんなときに予想が当たるんだ!
跳ね返ってきたメルスティアの魔法は治癒から攻撃に変わっており、それを真正面からもろに受けたメルスティアはふらりと後ろに倒れる。
間に合えっ!
牢の扉を押さえているジルベルトを飛び越えてメルスティアの元へ走り込む。ズザザザッと服が擦れる音がしたが致し方ない。今は緊急事態だ。
何とかメルスティアが地面に打ち付けられる前に間に合うと、倒れてきた身体を抱き止めた。と同時に頭から生温いドロリとした液体を被る。どす黒い赤のそれはコーヤッツの血だった。身体のあらゆるところから血を吹き出して絶命したらしい。もう手遅れだ。
「メルスティア、聞こえるか」
あまり大きく揺さぶりすぎると身体に負担がかかってしまうため、小さく肩を揺するが反応がない。
「気絶している」
だらりと力の抜けたメルスティアを抱き上げて牢から出る。辺りは酷い光景になっていた。コーヤッツの仲間と思われるやつらから吹き出した赤が元々じめじめとした地下牢を余計じめじめさせ、血生臭い臭いが漂っている。流石にこれ以上ここにいると気がおかしくなりそうだ。
「殿下、後は他の者に任せて、我々はここから離れましょう」
牢の扉を閉めたジルベルトがやって来てそう告げる。そのジルベルトもコーヤッツの血を浴びてしまったようで、いつもの白い服は赤黒く染まっている。横抱きにしているメルスティアもあの至近距離で浴びていたため、ポタポタと赤い雫を垂らしている。かく言う私も頭から被ってしまったので同じようなものだろう。
「そうですね。行きましょうか」
地上からわらわらと人がやって来たので言葉遣いを改めて答えると、転移を発動する。城内では王族もしくは王族に許可された者しか大規模な魔法を使うことはできない。私が発動させた魔法が私とメルスティア、ジルベルトを包み込み、医務室へと転移した。
突然現れた血塗れの私たち驚いた医師が慌てて駆け寄ってきた。
「一人気絶しているのでベッドを貸していただいても?」
腕の中にいるメルスティアを軽く持ち上げるとすぐに空いているベッドに案内してくれた。このままではベッドを汚れてしまうので水魔法で浄化する。ついでに自分とジルベルトの分も浄化すると、不快な血生臭さと湿った服が身体に吸い付く感覚が無くなった。
「殿下、ありがたく存じます」
ジルベルトのお礼に気にしないでいいと返し、医師に向き直る。医師は連絡の魔法具を手に取ろうとしていたが、それを制す。
「メルスティアは気絶していますが、血は全て返り血です。三人とも無傷ですからご心配なく。それとメルスティアが目覚めるまでここで看ておいてもらえますか?彼女は私の専属護衛騎士になりますので」
ニッコリと笑って告げる。本当から了承を得ていないが、先に外堀を埋めておくに越したことはない。彼女の性格からして、何の準備もせず馬鹿正直に専属護衛になるように頼んでも命令しても簡単に躱されるだろう。今回の件にも関わった上に、腕も確かで頭も切れる彼女を野放しにしておくわけにはいかない。丁度専属護衛騎士が一人抜けてしまったところだ、ということも理由にいれておけばいいだろう。元々メルスティアへの疑いが晴れたときから専属にほしいと思っていたからこの機会を逃す気はない。
「畏まりました」
「ありがとうございます。ではよろしくお願い致しますね」
メルスティアを医師に託し、メルスティアが起きる前に外堀を埋めに行く。
「殿下、先程のことは本気ですか?」
父上への面会依頼の手紙を用意するために執務室へ向かっていると、ジルベルトが尋ねてきた。普段はあまりジルベルトから声をかけてくることは少ないのだが、やはり気になるのだろう。
「本気ですよ。前々から言っていたでしょう?メルスティアを専属にほしいと」
振り返ることなく答えると、ジルベルトは思案するように静かになった。同僚としてどう対応するかでも考えているのだろう。
奥に見える角から、何やら声が聞こえる。聞き覚えのある声に嫌な予感がする。しかしそこを避けては通れない。諦め半分でそこを通ることにした。
「そうですのよ。その上そのお店は……って、弟ですわ。セルシュに話がありますので抜けてもよろしいかしら」
「ええ。勿論ですわ王女殿下。ご姉弟の時間を邪魔するなんて無粋な真似はできませんもの。それではごきげんよう」
嫌な予感は的中。本当に姉上がいた。どうやら友人のご令嬢と話をしていたらしい。中断などしなくていいというのに。
ご令嬢は私と姉上に深く礼をすると去っていってしまった。
「セルシュ、急いでるかしら?急いでいないわよね。お姉様の話に付き合う時間はあるわね。いらっしゃい」
断る隙を与えてくれない姉上に連れていかれる。本当に自由な人だ。ミルク色のふわふわした髪と翡翠のおっとりした目からは考えられない自由人っぷりには呆れを通り越して感心さえする。
強引に連れてこられた東屋で向き合うように座らせられると、どこからともなく現れたメイドが紅茶を準備していく。実に準備万端なことで。
「今回はどのようなご用件でしょうか?」
姉上が口を付けたのを見て紅茶を一口含む。ルイボスティーか。姉上の好みだ。
「メルスティア、専属護衛騎士にするつもりはないかしら?それとももうその手筈を整えているところかしらね?」
コトリとカップを置いた姉上は翡翠の瞳を細めながら言ってきた。どうやら姉上には全てがお見通しなようだ。敵わない。私はいつまでたってもこの人を出し抜ける気がしないのだ。
「ご存知でしょう?今から父上に面会依頼を書くところでございます」
「あら?私、お父様がお帰りになったらすぐにセルシュとの面会があると聞いていましてよ?」
姉上はわざとらしく頬に手を添えて困ったように首を傾げる。それは姉上が手を回しておいたからでしょう……。つくづく頭の上がらない人だ。こうなることを予測していたのだろうか。一体どんな思考回路をしていればこれが予想できるんだ。
「それはどうもありがとうございます姉上」
問いただしたいことはたくさんあるが、それを全て飲み込んで笑顔を作る。姉上をつつけばボロが出るのはこちらだ。何も聞かない方がいい。
「セルシュ。もし、万が一メルスティアが貴方の申し出を断るようなことがあれば私がいただきますわ」
姉上は私を呼び止め優雅に微笑む。口元に添えた扇のせいで面白がっているのか本気で言っているのかわからないが、これはその言葉を利用しろ、ということだろう。
「そうならないように努力する所存です。それでは」
姉上に礼をしてその場を去る。執務室に向かっても何もすることがないので、父上に報告してすぐメルスティアを専属として迎えられるように新しい身分証の発行でもさせておくか。
行き先を変え、身分証の発行元に向かう。城の通行証としても使えるそれは、魔法が込められているため発行に時間がかがるのだ。今から手配しておけば明日には出来上がっているだろう。あとは聖騎士たちにも伝えるとするか。
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昨日、父上が帰ってきてすぐに私との面会を受けてくださった。すでに姉上からメルスティアのことは聞いていたようで、あっさりと話が進みメルスティアは私の専属護衛騎士としての扱いが可能になった。ただし聖騎士である以上緊急事態は護衛対象である私よりも国の方が優先されるため、もう一人くらい専属を騎士から選ぶことも考えておくようにと釘を刺されてしまった。
まあ今すぐに考える必要はないのて追々考えることにしようと思っている。
メルスティアが倒れてから3日。未だにメルスティアが目覚める気配はない。私たちはメルスティアを受け入れる手筈は整え終わったので、コーヤッツたちの死体を宮廷魔法使いと医師たちに調べさせた。すると彼らに呪術が使われていたことが浮上。どうやら私の勘は外れていなかったらしい。どうりで何もしていないのにメルスティアの魔法が弾かれたわけだ。
しかし呪術だ。これは極秘事項とされた。かつての戦争中に失われたとされているはずのガルディス帝国の呪術。コーヤッツたちはガルディスからの刺客だったということだ。これは宣戦布告ととらえることもできるが、ケリドウェンとクヴァシルが分裂している今、戦争再開は不可能だ。よって極秘事項とされたが、これは恐らく避けては通れない問題になる気がする。私の勘がそう言っている。
「セルシュヴィーン第二王子殿下、医務室からの伝言で参りました」
死体解剖の結果を睨んでいると、執務室の扉が叩かれた。
「どうぞ」
極秘事項の文書を机の中にしまい、中に入ってもらう。恐らくメルスティアが目覚めたのだろう。
「失礼致します。ご報告致します。聖騎士メルスティア・カルファ様がそろそろお目覚めになるとのことでございます」
「そうですか。ご報告ありがとうございます。今から向かいますとお伝えしてください」
「畏まりました。御前失礼致します」
やはりそうらしい。部屋から出ていく侍従の後ろ姿を見ながら微笑む。
「殿下、怖いです」
ぬけぬけと不敬な発言をするジルベルト。笑顔が怖いとでも言いたいのだろう。仕方ない。今からいい人材を手に入れに行くのだから。
「そうか。まあいいだろう?……今回は間違った人選はしていないと思っているがどう思う?」
執務机に置いていたできたばかりのメルスティアの身分証を手に取り立ち上がる。前回の専属護衛騎士は明らかに私の人選ミスだった。今回はどうだろうか。そうではないと思っているが、不安な気持ちもある。
「間違ってなどいませんよ。それとも貴方の目は節穴ですか?」
挑発するような物言いのジルベルトに苦笑いする。この幼馴染みは不敬という言葉を知らないらしい。それが私にとってとても大切な存在ではあるのだが。
「そうだな。では行こうか。新しい仲間を迎えに」
結局女子の憧れるシチュ、お姫様抱っこやってましたね。
セルシュの姉レイリーンは切れ者姫様です。頭脳戦なら本作の中で最強かもしれません……。
やっと三章が終わりました。次は四章、«第二王子の専属護衛騎士»です。いつも読んでくださっている皆さんに感謝申し上げます。これからもよろしくお願いいたします!
ついでに『違います。けれど、同じです。』の方の連載も再開しますので、お時間があれば見ていただけると幸いです。