○○日和(???、メルスティア視点)
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短時間で二話更新していますので、前話を読まれていない方は一つお戻りください。
天気は快晴、城の空気も穏やか。今日は絶好の暗殺日和だ。
いつもはいるはずの聖騎士が今この城にはほとんどいない。つまりこの城の警備は手薄。これほどの好都合があるだろうか。否、ないだろう。この状況は私が意図的に作り出したのだから。
王族のうち国王と王妃は外交で国外へ。それに伴い聖騎士8人のうち半分の4人が国外へ。その中には最も厄介な総帥、カルステッド・ブライトもいる。それに加え、独自魔法の使い手、スザンナ・ノイセルも、魔力に敏感な«風の魔人»ラスター・ロビンソンもだ。女王気取りのアマリリス・テイミールもいない。
研究狂いのケルビン・レイバンは偽の情報に踊らされクヴァシル皇国との国境の森へ新種の薬草の採取に向かっているし、平民出身の魔力が桁外れなメルスティア・カルファは、下町で起きている騒動を調べるために、あの第二王子に駆り出されている。今ちょうど城門を出たところをこの目で確認した。
残りはザラド・ブルスターとジルベルト・プリアモスだが、ザラド・ブルスターの方は魔力に関する感度がからっきしなので城にいても問題ない。あの野生の勘で気付かれたら終わりだが、昨日渡した酒に入っている下剤で今ごろは……。笑止。ジルベルト・プリアモスはどうすることもできなかったが、こればかりは仕方ない。あれの今日の予定はすでに手元にある。あれが目標から離れたときに実行だ。全ては完璧。場は整っている。
目と鼻の先にいる目標を見て薄ら笑いを浮かべる。全く気づいていない。何も知らず淡々と普段と変わらない仕事をこなしていく様は憐れに見えてくる。世紀の天才と呼ばれる隣国、クヴァシル皇国の第一皇子エドルグリードと並ぶと言われる人が、ここまでとはな。まあそれも仕方ないだろう。私の方が一枚上手だっただけだ。
「殿下、時間になりましたので失礼いたします」
ジルベルト・プリアモスが礼をし目標から離れていく。順調だ。そろそろだろう。
ジルベルト・プリアモスが離れてから十分ほどが経過した。目だけを動かして壁時計を見る。
5、4、3、2、1……
ビー! ビー!
予定通り、手配していた者により城の結界が破られた。辺りが一気に騒がしくなる。
「殿下、危険です。お守りいたします」
「ええ。お願いします」
辺りを警戒するように腰を下げ、目標の側による。簡単すぎる。まんまと引っ掛かった。このためにじっくり時間をかけて一介の騎士からここまで成り上がってやったのだ。今さら疑われることはない。
外の声が大きくなってきたところで、懐に隠し持っていた短剣で目標に斬りかかる。
突然のことに驚いた目標は為す術もなく、いつもの澄ました顔を驚愕に染め、信じられないと言わんばかりの目をこちらに向けている。私はその無防備な首筋に一直線に短剣を振り下ろした……はずだった。
キィンッ!
高い金属音と共に短剣が弾かれ、手から離れた短剣が後ろの本棚に突き刺さる手前、空中で止まる。一体何が起きたと言うんだ……?
訝しく思った瞬間、右腕に鈍い痛みが走る。警戒して前に構えている筈なのに、まるで締め付けられているような痛みだ。自分が見えている腕には何も起こっていないのに。
「失われし夢幻世界解除」
今ここで聞こえてくる筈のない声とともに視界がガラガラと崩れ落ちる。それに合わせて聞こえてきていた外の騒音もピタリと止む。目の前には結界によって守られている目標──セルシュヴィーン第二王子──。そして私の背には得物ではなく短剣を私の首筋に当て、私の腕を捻り上げているメルスティア・カルファ。
なぜ……っ! ここにいる筈がないのに……! 確かに朝、この目で城を出ていくのを確認して……!
「ばかな……」
あり得る筈のない現状に情けない声が漏れる。その呟きを聞いたセルシュヴィーン第二王子がクスリと笑った。
「これはどういうつもりですか? カンジャス・コーヤッツ」
★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。
「セルシュヴィーン殿下、ご協力していただきたいことがございます」
セルシュヴィーン様を前に、改まって話を持ちかける。
「何にだ?」
「カンジャス・コーヤッツを嵌めます」
「話についていけないのだが? なぜカンジャスなんだ?」
唐突にカンジャス・コーヤッツの名を出した私にセルシュヴィーン様が軽く額を押さえる。無理もない。自分の専属護衛騎士を嵌めると言われたのだから。少なくとも私よりは信用している人を。
「厨房の侵入者の記憶を覗いてきました。彼に手引きしたのはカンジャス・コーヤッツで間違いありません」
さらりと答えると、セルシュヴィーン様の目が細くなる。ジルベルト様も纏う雰囲気を変えた。
「詳しく話してほしい」
佇まいを変えた二人に見つめられ、自然と背筋が伸びる。
「はい。コーヤッツの狙いは殿下、貴方の暗殺ではないかと推測されます。今日から両陛下は他国に外交に行っていらっしゃいます。そこに総帥様を含め、聖騎士が四人。下町の騒動に私を殿下が派遣するので私は下町に。ケルビン様は研究室に籠っているでしょう。ジルベルト様は殿下の専属護衛騎士ですので、交代の時間さえ把握できれば。恐らくザラド様はそこまで警戒されていないかと。そうなると明日は城の警備が手薄になりますよね?」
ざっと考えを述べる。これで下町での騒動の意図がはっきりした。それは私を城から遠ざけるため。ここまで言ってセルシュヴィーン様が分からない訳がない。
「確かにそうだな。ケルビン殿は研究に没頭している間は周りのことなど気にしないだろうし、ザラド殿の場合は魔法の類いに疎かったはずだ。恐らく城の結界に何か細工でもして、それの対応に皆が追われている隙に私を殺す、といったところだろう」
ほの暗い笑みを浮かべるセルシュヴィーン様。今のでそこまで推測できるんだ。今セルシュヴィーン様が言ったことは大体合っている。コーヤッツは明日、ジルベルト様がセルシュヴィーン様の元を離れたときに城の結界を破らせ、その隙にセルシュヴィーン様を殺すつもりなのだと、あの男の記憶の中で語っていた。
「その通りです。流石ですね。そこで殿下のご協力が必要なのです。明日、コーヤッツが事に移るまで、この城全体を失われし夢幻世界で包み込みたいのです」
「なるほど。それはいい考えだ。明日、許可を出そう。魔力はもつか?」
私のやりたいことを理解してくれたらしく、すぐに了承してくれた。
「もちろんです。最悪の場合はあの魔力増幅剤を使いますので」
そう口にするとジルベルト様の表情が強ばった。無表情なのに強ばるとか器用だね。
「そうか。それは自己責任で頼むよ」
「はい。あと、明日は殿下の護衛に私もつかせてください。ジルベルト様がいればほとんど何とかなるとは思いますが、保険として私もいた方が色々都合がいいかと」
正直この人の側にいるとかはなるべく避けたいけど、そうは言っていられない。人の命がかかってるんだから。自分もかつて暗殺者の相手をしていたから分かる。自分の身守れる人は何人いてくれてもいい。
「そうだな。明日は護衛についてもらおう。ジルベルトは明日の休憩はなしでいいか?」
「はい。構いません」
こうして私たちはカンジャス・コーヤッツを嵌めるために動きだした。
さて、今日は絶好の謀日和だ!いつもより早く起きてセルシュヴィーン様の元へ向かった。
セルシュヴィーン様はまだ起きていなかったようで、ジルベルト様がなぜか起こしてきてくれた。寝起きでもキラキラしさがある人はあるんだな、と感じた。だってセルシュヴィーン様、目があまりシャキッとしてないのにキラキラしかったんだもん。
セルシュヴィーン様の許可の元!城全体に失われし夢幻世界をかける。そしてセルシュヴィーン様とジルベルト様には影響が出ないように魔法をかけた。
いつもとは違う一日が始まり、元の予定ではジルベルト様が護衛の任務を外れる時間になった。するとコーヤッツが変な言動をとり始めた。
「殿下、危険です。お守りいたします」
辺りを警戒するような姿勢でセルシュヴィーン様のところへ寄ってくる。恐らくコーヤッツが見て感じている世界では城の結界が破られたときの警報がけたたましく鳴っているのだろう。実際は何も起きていないので、コーヤッツが異常行動を始めたようにしか見えない。
セルシュヴィーン様は笑い出しそうになるのをこらえ、真顔で答える。
「ええ。お願いします」
それを合図にセルシュヴィーン様の周りにジルベルト様が結界を張り、私は腰を低くしたコーヤッツが取り出した短剣を亜空間から取り出した短剣で弾き、素早く取り押さえる。
コーヤッツがいる世界を覗いてみれば、セルシュヴィーン様の首筋に短剣を振り下ろしているところではないか。コーヤッツのいる世界をいじり、その短剣を弾かせた。その短剣の行方だけを現実と同じように見せる。それと同時にコーヤッツの感覚も現実と同じものにする。
コーヤッツの動きが鈍くなった。そろそろいいかな。
「失われし夢幻世界解除」
失われし夢幻世界を解いてコーヤッツを現実に引き戻す。
「ばかな……」
現実を認められないという声がコーヤッツの口から微かに漏れた。そりゃそうだろう。今の今まで順調に事が進んでいる世界にいたのだから。まあそれは全てただの夢幻だったんだけどね。
だんだん青ざめていくコーヤッツの顔を見ながら魔王様が笑った。
「これはどういうつもりですか? カンジャス・コーヤッツ」
犯人はカンジャス・コーヤッツでした。ザラドは脳筋扱い……(笑)
次話はカンジャスの目的(?)です。