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閑話 女王様の誕生秘話 (ラスター、アマリリス視点)

 今回はあのアマリリスの過去編といった感じです。個人的には結構好きなキャラなので少々長くなってしまいました。


 過去回想部だけアマリリス、他はラスター視点です。


 途中で胸くそありです。ご注意ください。

 風に乗って移動を始めて数分。魔力増幅剤(ポーション)のお陰でゆっくりゆっくり、少しずつだけれど確実に魔力が回復していくのを感じながら、王都を見据える。そろそろかなぁ。

 魔力が足りない状態だったのでゆっくりとしたスピードで進んでいるけれど、それももうすぐ終わり。やっと息がつけるとほんの少し、気を抜いた時だった。


 ブワッッ!!


 目線の先で何かが大きく膨らんで破裂した。それと同時にものすごい魔力の波が襲ってくる。これ何なのぉ?!

 ビリビリと肌を突き刺すような魔力に顔をしかめる。この魔力は二つの魔力が混ざりきれていない。誰かの魔力を取り込んだか、魔力波長を合わせるのに失敗したのか……。どう考えても前者だよねぇ。この魔力、一つは夏の魔物(アエスターデモン)のだしぃ。もう一つはぁ……、あ、これメルスティアちゃんのだぁ。そういうことかぁ。結界の魔力に耐えきれなくて飽和状態にでもなって破裂したんだぁ。すごいねぇ。


 感心しながらアマリリスたちのところへと辿り着く。アマリリスは放心状態だ。珍しいもの見ちゃったなぁ。


「アマリリス大丈夫ぅ?魔力飽和で破裂って凄いよねぇ。メルスティアちゃんの魔力って底無しかなぁ」


 アマリリスの前に立って見下ろしていると、徐々にアマリリスの焦点がはっきりしてきた。覇気の抜けた顔をしている。アマリリスらしくないよねぇ。()()()()()()()()()()()アマリリスみたいだぁ。

 他の騎士や魔法使いたちも数人ほど放心状態から戻ってきている。取り敢えず、使える人たちを使って素材回収しなくちゃだねぇ。せっかくの夏の魔物(アエスターデモン)だもん。存分にいただかなくちゃ。

 少しワクワクしながらデモンバクを振り返る。そしてその目に映り込んだものに頬がひくつく。これデモンバクだよねぇ?夏の魔物(アエスターデモン)だよねぇ?おかしくない?この()()()()()は何だろう……?僕、目がおかしくなっちゃったのかなぁ?

 ゴシゴシと目を擦り、シパシパと何度も瞬きするけど、その光景は一向に変わる気配がない。


「アマリリス、これ現実だよねぇ?」


 不安になって恐る恐るアマリリスに尋ねる。すると、無言のアマリリスから急に頬を凄い勢いでつねられた。痛いよぉ。これは頬がちぎれちゃうからぁ。


「うん。痛いねぇ。現実だねぇ。アマリリス、そろそろ放してぇ……」


 涙目になりながら訴えると、アマリリスは鼻で笑って勢いよく手を放した。ピリッとした痛みが頬に走って若干顔をしかめるけど、ニッコリ笑っているアマリリスに苦言を伝えることができる訳もない。頬を擦りながら甘んじて受けることにした。早く帰ってライラとレティーナの癒しが欲しいよぉ。


「取り敢えず、取れるものだけ取っておいた方がいいわね。ラスター、魔法。……あなた達!素材を集められるだけ集めてきなさい!無駄になりそうなものは燃やして。変なのが集まってきたら面倒だもの。ほら、わかったらさっさとおし!」


 アマリリスは僕の魔法を使って周辺の騎士や宮廷魔法使いに指示を出した。まったく人使いが荒いんだからぁ。僕だって疲れてるのになぁ。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 素材集めが終わって王都に足を踏み入れようとしたときだった。素材の鮮度を保つために他の騎士たちを先に行かせて、僕らは最後尾で王都の結界を通り抜けようとしたところ、アマリリスが()()()()()()()


「アマリリスっ?!」


 あまりに突然のことに驚きの声を上げる。アマリリスは咄嗟に受け身の体勢をとって事なきを得たが、これは由々しき事態だ。だって、この国をひいては王都を、国民を守る聖騎士が王都の結界に弾かれたのだから。幸い、それを見ていたのは僕を合わせてたった三人だけだったから、他の二人は気絶させて物理的に記憶を奪うことにした。

 アマリリスは忌々しそうに自分を弾いた結界をにらみ上げる。黙視できない結界は、まだこれは想像ではあるけれど、警戒レベルがとても上げられているんだろうねぇ。あのデモンバクさえも弾いたんだしぃ。そう考えるとぉ、アマリリスがこの王都内に大きな隠し事か、とても疚しいことを思っている相手がいるってことだよねぇ。


「アマリリス、何か隠し事でもしてるのぉ?」


「よく言うわ。分かっているくせに。あの子を騙しているからよ」


 既に王都内に入ってしまっている、とある騎士の後ろ姿を見据えながらアマリリスは言った。その目には寂しげながらも優しい光が揺らめいている。


「そんな目をするくらいなら言っちゃえばいいのにぃ。アマリリス・()()()()()()()()()?」




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 私、アマリリスにはかつて家族というものがあった。帰るべき場所があった。あの女が来るまでは──……。


 男爵家の令嬢として、貴族の末席に位置していた私は平民に比べればなに不自由なく育てられた。兄妹はいなかったけれど、私を一心に愛してくれるお父様とお母様がいた。一人で寂しくないようにといつも相手をしてくれる優しい使用人たちに囲まれて、いつか慈愛に満ちた憧れのお母様のような淑女になるのだと夢見ていた。

 しかし、その夢は叶えられることなく、儚く終わった。突然の死だった。お母様が流行り病に倒れたのだ。当時、男爵家であるテイミール家にはその病を治すことのできる資金などなく、為す術のないままお母様は逝った。お母様は何もできない私たちを責めることなく、ずっと私の頭を撫でながら『ごめんなさいね、あなたを置いていってしまうわ。不甲斐ない母でごめんなさい』と涙を流していた。

 お母様が亡くなる前夜、私にあることを言い残した。


「リリー、私は優しいリリーがとっても大好きだわ。だからずっとその優しさを捨てないでね」


 それが私が最後に聞いたお母様の言葉だった。鮮やかだった紫の髪は色褪せ、いつも艶やかで輝いていた深い緑の瞳はいつしか光を失い、それでも笑顔を絶やすことのなかったお母様。


 お母様の埋葬を終え、お父様と泣いた。泣いて泣いて泣きまくって、使用人たちから慰められながらも二人して嗚咽を漏らして目を真っ赤に腫らして、喉がヒリヒリと焼けつき、顔中の全てが嫌になるくらいの痛みが走り、肺がズキズキと痛んでも泣き続けた。


 それから一年後だった。あの女が来たのは。何の前触れもなくお父様から紹介されたあの女は、ピンクの髪にお母様と同じ深い緑の目を持っていた。その女は『これからよろしくね』と私に微笑みかけてきた。私は我慢ならなかったが、お母様が亡くなったあの日から誓い続けてきたことを思いだし、無理矢理笑みを作った。私は優しさを捨てない、と。

 そんな私を見たお父様は悲しそうな笑みを浮かべた。そんな顔をするならこんな女、連れてこなければいいのに。張り付けた笑顔の奥にその黒い感情をそっと押し込んだ。

 それから数日たったある日のことだった。珍しくお父様がまるまる二日間屋敷にいない日。あの女と二人きりで屋敷に取り残された私は、出来るだけあの女に会わないようにした。したのに……!あの女は私の元へやってきた。


「あなたって本当に目障りよね。あの笑顔しか浮かべられない出来損ないの女とそっくり。せっかくあの方を手に入れたのに私のことなんて見てくれやしないわ。口を開けばアマリリスと仲良くしているか、アマリリスはなついているか、アマリリス、アマリリス!あなたのことばっかり!そのくせあなたはあの目障りな女と同じ笑顔を浮かべて優しさを持って?!なんなのよ!あれは死んだのにここに生きている見たいじゃない!」


 そして醜く喚き散らした。私の大好きな憧れのお母様を盛大に侮辱して。怒鳴り返したいのをぐっとこらえ、私は笑った。『そうですか』と。それ以外にどう返せばいいのか分からなかったから。しかしそれが気に触ったのか、その女は手に持っていた扇をパチリと閉じて脇腹に叩きつけてきた。強い痛みが走りその場に蹲ると、満足したのか去っていった。人払いされていた使用人が入れ違うように慌てて駆け込んできて手当てをしてくれた。お父様に伝えるべきだと言われたけど、こんなことでお父様を煩わせたくなかったから何も言わないことにした。

 それがいけなかったのだろうね。お父様が屋敷を空ける度にあの女の態度はますます酷くなっていった。私は耐えた。お父様に迷惑をかけたくなかったし、なにより、お母様の最後の願いだったから。優しさを忘れない。


 それから何ヵ月たった頃だっただろうか。いつだったか正確には覚えていないけれど、私には義妹が産まれた。あの女と同じピンクの髪を持っているのに、目の色だけは私と、お父様と同じ飴色。血の繋がりを感じられずにはいられなかった。お父様は、私にその子と仲良くしてやってくれと頼んできた。分別ができない年頃はとっくに過ぎていたので、何も言わずに仲良くするよう心掛けた。母親があの女でも、その子供には何の罪もないのだから。その子は可愛かった。まだ一歳にもならないのにくるくると表情を変え、活発に動きまわり、誰からも愛された。かくいう私だって愛した。その子も私にすごくなついてくれた。それが気にくわなかったのだろうか。また、あの女の仕打ちはエスカレートしていった。流石に耐えかねた。それでもお父様を困らせたくなかった私は、お母様との約束を破ることにした。優しさを忘れ、自分が思うように振る舞い、全てが自分中心に動けばいいと。

 そしてお父様に申し出た。私をテイミール家から追放してくれ、と。でもそれは受け入れられなかった。その代わり、やりたいことをやればよいと言われたので、勝手にテイミールを名乗ることを止め、聖騎士になることを選んだ。離れていても、お父様のことを、義妹のことを守りたかったから。

 やっとの思いで聖騎士になったと思えば、あの子は騎士になって私のところへやって来た。私のことを全く覚えていないのだろうから、私を義姉として見ることはない。だからこれからも私たちの関係を明かすつもりはないのだ。私はただ、近くで見守っていたいから。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 アマリリスは何か物思いに耽っている。顔が憂いを帯びてきてるねぇ、らしくないなぁ。


「アマリリス、結界そろそろ通れるんじゃないのぉ?」


 声を掛ければ、我に返ったアマリリスは軽く(かぶり)を振り、僕の隣までやって来た。


「何か思い出させることでもあったぁ?」


 興味本位で聞けば、アマリリスはじろりと僕を睨んだけど、すぐに目を前に向けて自嘲的な笑みを浮かべた。


「あの子の剣が折れたのよ。私が捨てた家紋の入った剣がね」


()()()()()()()()()()()()嬢のぉ?」


「そうよ。それ以外いなくってよ。いちいち言わせないでちょうだい」


 わざとらしく聞き返せば鋭く返された。うん。女王アリス降臨だねぇ。これでいつも通りだぁ。


「言わないのぉ?」


 何をとは言わずに尋ねると、アマリリスは余裕の笑みを浮かべて僕を見上げた。


「ええ勿論よ。アミュのためだもの。このアマリリス様は一度決めたら曲げない主義なの」


 前に話をしてくれた時も思ったけど、アマリリスって何だかんだ言って、優しさ捨てきれてないよねぇ。

 そう思って小さく笑えば、戦闘靴から履き替えた靴のヒールで思い切り爪先を踏まれた。……痛いよぉ。早く癒しが欲しい……。

 アマリリスとアミュエリスは姉妹だった、の回でした。これからもちょくちょくこの二人の絡みが出てくる予定です。全てを知っているアマリリスと何も知らないアミュエリスの絡みをどうぞお楽しみに。


 次話は前回の予告通り報告会です!

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