夏の魔物討伐 ⒍
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今回はジルベルト視点→メルスティア視点です。やっと主人公に視点が戻ってきました!
目の前であっさりと破裂し、討伐されてしまったデモンバク。こうも簡単に殺られるものなのか。そしてこの尋常ではない結界の魔力量。どう考えても警戒レベルがおかしい。嫌な予感がして結界の礎を目指す。
結界を通り抜けたとき、ビリビリと威圧されるような感覚がした。そしてこの威圧感を与えてくる魔力は、どこか身に覚えがある魔力だ。果たして誰だっただろうか。
道を通るには人が多すぎて通ることができない。声をかけて道を譲ってもらうのもいいが、今は時間が惜しい。指摘されたら、緊急事態でやむを得なかったということにすればいい。
そう決めると、礎に向けて空中に氷で足場を作っていく。その上を身体強化を使って駆けていく。通ったところから氷を消していけば、僅かに残る氷の屑が地上に降り注ぐらしく、下からどよめきの声が上がっている。
ものの数秒で礎のある建物に着くと、建物の内部から膨大な魔力を感じる。威圧的なその量に僅かに眉をひそめる。
ここに近づいてきている時から感じていたが、ここまでとはな。混ざっているようでもないな。この量を一人と言うのか。魔力の暴走でもない限りあり得ない量だというのに。化け物じみているとしか言いようがないぞ。
中に入れば、数人の宮廷魔法使いや騎士たちが、これ以上ないと言わんばかりに顔を真っ青にして蹲っていたり、倒れていたりする。魔力にあてられたか。
彼らを一瞥して一直線に礎へと向かう。地下への階段を駆け降りていくと、何やら言い争っているような声が聞こえてきた。
「……っ!何……っ!……く?!今……吐……!……すぐ!吐けっ!!」
何か起こっているのか?!礎に何かされたのか?!
慌てて礎の元に辿り着くと、そこには涙目で口を抑え、ワナワナと震えるメルスティアと、鬼の形相で彼女の肩を激しく揺さぶっている騎士。そしてその後ろには魔力にあてられた宮廷魔法使い。
焦りがすっと退いていき、代わりに苛立ちが湧き出てきた。
「これはどういう状況だ?」
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「これはどういう状況だ?」
その聞き慣れた声は、いつもより若干低い。何を考えてるか知らないけど、これだけは言える。
絶対勘違いしてる!
「なぜ私の後輩が虐められている」
斜め上な誤解だった!しかも虐めている方じゃなくて虐められている方に怒るってどういうこと?!なぜ私にそれを言うの。ジルベルト様の中では虐められる方が悪いの?!
「ご、誤解です!聖騎士殿が突然服毒を……っ!」
だからしてないってば!余計なこと言うな!あらん誤解を生むでしょうが!
私を揺さぶる手を止めてジルベルト様の方を勢いよく振り返った騎士に心の中で盛大に突っ込み、首が千切れそうになるくらい全力で首を振って否定する。全力の否定が届いたのか、ジルベルト様がほんの僅かに目を細めた。何かがおかしいと気づいてくれたっぽい。
魔力増幅剤が効いてきたようで、じわじわと魔力が回復してきた。いや~、味を犠牲にしてるけど速効性のやつで良かった~。
回復した魔力で口の中に水を生成し濯ぐ。口の中に残っていた激マズな魔力増幅剤の味がきれいさっぱり流された。軽く自己治癒をして体力も回復させる。体も軽くなったところで、すくっと立ち上がると、それに気付いた騎士と宮廷魔法使いが二人そろって目を剥いた。そんなに驚くことじゃないでしょ。
「毒は、毒は大丈「だから、違います!味は殺人的ですが、これは魔力増幅剤で決して毒なんかじゃありません!!さっきから何度否定すればいいんですか?!」」
狼狽えながらも毒は大丈夫なのかと心配してくる目の前の騎士に、食って掛かるように声を張り上げる。あー、スッキリした!
私が言った言葉に拍子抜けした顔で固まっている騎士と宮廷魔法使いを見て胸がすく。
入り口付近にいるジルベルト様を見れば、一ミリも動いていない表情から何とも言えない呆れが漂っている。何かスミマセン……。
「彼の勘違いか?」
溜め息をつきながら言われた。興醒めでもしたのかな。
「そうです。服毒する理由もありませんし、予想より遥かに多くの魔力が結界の礎に持っていかれたので、やむを得ず自作の魔力増幅剤を飲んだだけです。ただ、これが味が少し、いや、かなり……、あ、違うな。そう!死ねるくらいマズいので悶えていました。その結果、この状況になりました」
簡潔に説明すると、頭が痛そうにジルベルト様は軽く眉間を揉む。その様子を見ているとなんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「詳しくは報告会で聞かせてもらう。その時までに今言った自作の魔力増幅剤も用意しておいてほしい。……はぁ。今は他のことを優先したいので、取り敢えずここら一帯に漂っている魔力を回収できるか?威圧されて上にいる者たちが倒れていた」
なんと!それは大変だ。慌てて周囲を漂う自分の魔力を回収していく。ある程度回収したところで、ジルベルト様が口を開いた。
「本題に入るとする。今回の夏の魔物はデモンバクだった。その特徴は知っての通り魔力を食べることだ。そのデモンバクが結界に弾き飛ばされた挙げ句、魔力飽和で破裂した。恐らくだが、結界の警戒レベルが異常なほどに上がっているのではないか?」
……はい?今さらりとすごいこと言わなかった?
「私の聞き間違いでなければ、夏の魔物は破裂した……のですか?」
あまりにも非現実的な討伐のされ方に戸惑い、変な間ができてしまった。いや、だっておかしいもん。
「ああ。魔力飽和で破裂した」
コクリと至極まともな顔をしてジルベルト様が頷くのを見て絶句する。今、元公爵令嬢がするような顔ではない、ものすごく間抜けな顔をしている自信がある。
「そ、そうですか……。魔力飽和で。結界の警戒レベルが上がっているかもしれないと……。へ、へぇ~。へぇ~……へっ?」
自分で声に出して言ったけど、今のもおかしいよ。警戒レベルが上がっているってどういうことなの。
「そうだ。結界の警戒レベルが上がっている可能性がある。何か心当たりはないか?」
え?確かに魔力は注いだけど。でも警戒レベルが上がるほど入れた覚えは無……、あった……。あったよ。もしかしたらあれかもしれない。いや、もしかしなくても十中八九あれだよ。心当たりありすぎるんですけど……。
目の下がひくひくと引きつる。乾いた笑いしか出てこないよこれは。
「あります。ものすごくあります」
明後日の方向を見ながら言えば諦めたような声が出る。
「……はぁ。やはりか。それも報告会で説明するように」
「はい……」
ジルベルト様に盛大な溜め息をつかれてしまった。あの«氷の貴公子»が溜め息をつくとは。あ、さっきもついてたような気が……。
「今は早急に警戒レベルを下げる必要がある。外にいる騎士や宮廷魔法使いたちが入れなくなる可能性があるからな」
「それならば上に行きましょう。そこで警戒レベルの調整ができますから」
いつの間に立ち直ったのか、宮廷魔法使いの人が声を挟んできた。ナイス!
王都の結界は警戒レベルが上がると、魔物や障気だけでなく、心に疚しいものを抱える人や、結界内にいる人に大きな隠し事がある人、少しでも悪意を持っている人までも弾いてしまうらしい。地上への階段を上りながらジルベルト様が丁寧に教えてくれた。ジルベルト様って案外優しい人だ。
結界の制御室に入ると機械みたいなのがあった。もしや科学もあるのでは、とワクワクしたけど、普通に魔法具だった。ちょっと残念。でもよくよく見ればそうだ。所々に魔法陣があるし、魔石もたくさんついている。中央には魔力の塊が光となって浮かんでる。そしてこの光なんだけど……。
「……レベル10だな」
「はい。レベル10です」
「初めて見ましたよ……」
白と金に光輝いております。はい。これを見たジルベルト様と宮廷魔法使いの人、騎士の人が非常に驚いている。てか『レベル10』って言ってるよね。これってどう考えても結界の警戒レベルだよね。でもなんで分かるの。私にはさっぱりなんですが。誰か説明プリーズ!
「この光の色が結界の警戒レベルを表している。この色は警戒レベル10だ」
チラチラと視線を寄越せばジルベルト様が気づいて教えてくれた。ほへ~。色で分かるんだ。便利だね。
「これ、レベル下げれますか?」
「勿論です。魔力の出力を下げればいいだけですから。それにこれからは結界の礎への魔力供給が少なくてすむかもしれません。ありがとうございます」
宮廷魔法使いの人に尋ねればいい笑顔が返ってきた。それはようございました。私は魔力たっぷり持ってかれたけどね。
その人の言葉通り警戒レベルはすぐにレベル5まで下げられた。通常のレベルまで下げるのは、上の指示が来てからって。
そういえば、夏の魔物は討伐されたってことでいいんだよね。てことは討伐完了?んじゃ一件落着?
「メルスティア、報告会までの用意を怠るなよ。今回のことは前代未聞のことだから確かな情報を残さなければならないからな」
横に立つジルベルト様からしっかり釘を刺されてしまった。どうやらまだ一件落着とはいかないらしい。報告会、サボっちゃダメかな……?
メルスティアの魔力は化け物じみているらしい(笑)そして虐めは虐められる方にも原因あるかもしれないけれどダメだからね、ジルベルト。虐められている人がいたら虐めている人を怒ってください。
なんとか(?)夏の魔物討伐完了です!次話は報告会……といきたいところですが、その前にアマリリスの閑話を一つ。その後に報告会です!