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夏の魔物討伐 ⒉

 ブックマークありがとうございます!ついに100を越えていました!!(*≧∀≦*)こんな拙作を呼んでいただいて、皆様本当にありがとうございます!


 今回は途中で切るに切れずいつもより結構長めです。

 結界の礎がある建物は意外なことにも王都の端っこだった。これは推測だけど、まだクヴァシルと同じ国だったころに使っていたものをそのまま引き継いでいるからだと思う。その証拠にこの建物はクヴァシルとの国境付近にある。と言ってもクヴァシルとの国境の端っこでもある。

 中に入れば他の建物とたいして変わらない造りをしていて、いかにも詰め所な雰囲気。慌ただしく出入りする騎士や宮廷魔法使いがいなければ、街にすごく溶け込んでいる。


 結界はその建物の地下。案内されて階段を降りていくと、いかにも神秘的な空間に出た。壁は真っ白な石造りで、床の中心には巨大な魔法陣と今まで目にしたことのないくらい大きな魔石。曇りひとつ無く透き通ったその魔石からは、既に膨大な魔力が込められていることがうかがえる。しっかし……


「大きい……」


 いや、これ本当に大きいんだよ。例えるならそう、小学校のころにやっていた大玉転がしの大玉。あ、それ以上かな。どれくらい大きかったかよく覚えてないんだよね。それに魔法陣も複雑で大きいし。結構強度あるんじゃない?

 感心しながら見回していると、案内してくれた宮廷魔法使いの人が説明してくれる。


「ここが結界の礎です。ご存知だとは思いますが、念のため説明を。この結界は王都を覆っています。主な効果は障気や魔物、結界内の者に対する一定以上の悪意を持つ者を弾きます」


 きちんと説明してくれるのは助かるな。私ここ出身じゃないからよく知らないんだよね。ありがたく思いながら、ほうほう、と頷き返す。

 マジですか……。そういえば私、崖から飛び降りたとき全く弾かれなかったっけ。ってことは私悪意無い善人?!あ、何か嬉しい。


「結界の強度は1~10にレベル分けされています。普段は警戒レベル3になっているのですが、今は緊急措置としてレベル5になっています。ある程度の魔物ならば弾かれますので、夏の魔物(アエスターデモン)の眷属ぐらいなら防げます。さすがに夏の魔物(アエスターデモン)が来たら無理ですけどね」


 力無く笑う宮廷魔法使いさん。いや、そこ笑っていいの?本当に夏の魔物(アエスターデモン)来たらどうするの。


「警戒レベルがどれくらいまで上がれば夏の魔物(アエスターデモン)が来ても対処できるんですか?」


「そうですね……。相手にもよりますが、例年の強さであれば警戒レベル8ほどあれば弾くことはできるでしょう。ですが、警戒レベルを8に保てる程の魔力が無いので、現実的ではありませんけどね」


 今見る限りでも結構な魔力があの魔石には溜まってるけど、あれ以上必要って結構じゃない?何人ぐらい必要になるんだろ。たくさんの魔力切れを起こした宮廷魔法使いがそこかしこに倒れてる地獄絵が目に浮かんでくる。うわ~……。

 小刻みに頭を振って嫌な想像を掻き消す。ダメダメ。想像したら現実になりやすくなるって言うもんね。もっと前向きに!


 その後、宮廷魔法使いさんから礎への魔力供給の方法を教えてもらって、私は近くの宿に泊まることになった。取り敢えず、今日は私のシフトはないらしい。私は1日のうち午前中に鐘3つ分、午後に鐘3つ分と深夜に鐘3つ分の計鐘9つ分を担当することになる。だから今日は十分に寝ておくように言われた。

 

 宿に着くと、見知った顔を見つけた。受付嬢をしていたのは、パン屋で働いていたときの常連さん。あちらも私に気がついたようで、驚いている。


「メルスティアちゃん?!うっそ~!最近いないからどうしたのかと思ったら。騎士さんになってたの?」


 あらあらまあまあと目を大きく開いている。どうやら未だに常連さんのようだ。

 そういえばパン屋を辞めてからまだ足を運んでない。この討伐が終わったら一休みできそうだから、その時に顔出しに行こっかな。ギーラさんとかインディとかどうしてるんだろう。相変わらずかな。ギーラさんはきっとまた腕上げてるんだろなぁ。インディ置いてかれてなきゃいいけど。あ、でもインディは努力家だからギーラさん追い抜いてるかもしれない。ちょっと楽しみだ。


「はい。一ヶ月ほど前に聖騎士になりました。あの節はよくしてくださってありがとうございました」


 ちょっとわざとらしく敬礼してみる。


「いいのよ。だってメルスティアちゃん面白かったもん。それにオススメのし方も上手だったでしょう?だからいっぱい買っちゃったの!ふふっ!でも聖騎士なの?メルスティアちゃんが?全然見えないや」


 私セールススキルあったのかも?ちょっと嬉しいな。でもやっぱり私は聖騎士に見えないよね。


 改めて自分の体を見下ろしてみる。下町の人と同じかそれ以上にほっそりとした体つきで、傷ひとつ無い。手だって荒れてないんだよね。剣なんて無縁みたいだし、食器とか洗ったことありませんって感じ。何かいいとこのお嬢ちゃんみたい。あ、私公爵令嬢だったか。今では関係ないけど。

 でもこれは私が普段からそうなるような行動ばっかりしてるからかな。訓練するときは身体強化使って、あんまりごっつい体にならないようにしてるし、傷はすぐに治癒魔法かけてる。手が荒れてないのも薬草から作ったハンドクリーム使ってるし……。こう考えると、魔法に頼りすぎかな?でも魔力たくさんあるから使わないのも宝の持ち腐れってものだ。


「そう?じゃあ見えるように頑張らなきゃね!」


「頑張って。私たちを守る聖騎士様!」


 『私たちを守る』か……。私は守られる側から守る側になったんだ。冗談めかして言われた言葉に重みを感じながら、宛がわれた部屋へ続く階段を上がっていった。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 次の日の朝。朝日の眩しさで目が覚めたので、まだ寝ている人を起こさないように気を付けながら宿を出た。夏と言えども朝は寒い。でも心地よい寒さってあるじゃない?そういう寒さだ。寝ている間に凝り固まった体をほぐすためにストレッチをしてみれば、ゴキゴキゴキッと体から盛大な音が鳴った。

 慣れたとは思ったけどやっぱり痛いし辛い。スプリングのベッド欲しい。帰ったら作ろっと。あとそれを誰に渡そうかな。広まれば助かるんだよね。やっぱり渡すなら貴族からがいいかな。それならふわふわだけどちょっと寝心地の悪い高級ベッドに不満を持ってそうなアリス様とかいいよね。


 そんなことを考えながら軽めのジョギング。下町は整備されてる方だけど、少し凸凹しているところがあるので走っていて面白い。この時間帯に大通りの方に行ったら、店の準備をしている人がいるんだろうな。行ってみたいけど、何か起こったりしたら怖いので行けない。後ろ髪を引かれながらも宿近くの道でジョギングをすることにした。


 宿に戻ると殆どの人が起き上がっていて、朝食を食べていた。


「あ、メルスティアちゃん。どこに行ってたの?」


「ごめんなさい。ちょっと早く目が覚めたからジョギングに」


「もう、心配したんだから。明日からは教えてよ?」


「は~い」


 何も言わずに外に出たのは得策ではなかったようだ。私の姿を見て安心したように息を吐かれてしまった。心配かけちゃったな。


 魔法で体の汚れを取り去り、目の前に差し出された朝食を口に運ぶ。いつもの食堂の味も好きだけど、この味も好きだ。食堂のご飯は、体力を使う騎士や宮廷魔法使いに合わせて、少し濃い目の味付けがされている。この宿のご飯はそれに比べると薄味。でも私にはこの味がとっても好感が持てる。聖騎士になる前、この街に来たころにアルマさんたちとよく食べていた味と似ているから。懐かしい思い出に浸りながら食べることができた。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 その後なんだけど……、特に何も起こらなかったんだよね、本当に。特筆することもなくここにやって来てから一週間が過ぎようとしていた。


 7日目の午後のシフトの時。礎の部屋に座り込んで、すごく暇だなぁ、なんて思っていたら、何やら地上の方が騒がしくなってきた。と思いきや、何の前触れも無く、中央の魔石の魔力が大幅に減少した。その量は恐らく半分に。この7日間でちょくちょく眷属が結界に引っ掛かって魔力が吸いとられることはあったけど、それでもほんの少し魔力が減少するだけで、ここまでは無かった。頭の中で警報が鳴り響く。私の第六感が危険だと主張している。


「聖騎士殿っ!このまっでは魔力の供給が間に……合わずっ!結界が崩壊します!急いで魔力を!」


 バタバタと大きな足音を立ててかけ降りてきた騎士が、息を切らしながら鬼のような形相で捲し立てた。私はその騎士が言い終わる前に礎に向かって魔力を送り込み始める。

 すると、予め伝えられていた量以上の魔力量にすぐに到達した。一定量以上を一気に流し込むと、結界がおかしな反応をするかもしれないので、くれぐれも注意するようにと言われていた量だ。でも今は背に腹は変えられない。どんな反応をするかは分からないけど、結界が強化されることは間違い無いだろう。送り込む魔力量を増やしてどんどん押し込む。


 ブオン


 何やら変な音がして、押し込んでいた魔力が逆に引きずり出され始めた。その速度も量も段々速く、多くなってくる。


────まだ行ける……!


 それでも私の魔力はまだ半分にもなっていない。まだ余裕はある。自分からまた魔力を押し出してみる。


 ブオン ブブオン


 また変な音が聞こえて来たけど気にしてられない。次の瞬間、不意討ちのように大幅に魔力が削り取られた。さっき魔石から魔力が半分ほど減少したときと同じぐらいだろう。体内から魔力を無理矢理ぶん取られたような気分だ。突然のことに集中か途切れそうになったが、何とか持ちこたえる。ここで私の魔力は半分になった。


────まだ、行ける……!!


 蛇口を全開に捻るようにして魔力の供給量を増やす。さっきよりも体から放出される魔力が濃くなる。私の後ろにいる騎士は、私の魔力に威圧され、顔色を悪くしているか、ふらついているだろう。放出している当の本人でさえ少々気持ち悪くなってきた。


 ブオン


 またあの変な音がして魔力が引っ張られる。そして次は先程とは比にならない程の魔力が一瞬にして奪われた。このままでは使える魔力が底を尽きて、髪にかけている魔法を維持するためと亜空間を維持するため、自分の魔力を偽装するために分けている魔力まで引き摺り出されてしまう!


「魔力を止めてください!」


 さっきの騎士とは違う人から背後から叫ばれて魔力の流れを何とか断つ。その瞬間、体から力が抜けてその場にへたりこんだ。魔力切れ寸前。そう見えるだろうし、実際そんな感じだ。一気に保有魔力の大部分、というかほぼ全てを抜き出されたようなものなので、体が耐えきれていないのだ。壁の方まで何とかたどり着くと、そこにもたれ掛かり、魔力増幅剤(ポーション)を亜空間から取り出して蓋を開けた。騎士とさっき叫んでくれた人が目を見張ってるけど説明してる暇はない。この自作の魔力増幅剤(ポーション)、できれば飲みたくなかったな……。

 漂ってくる異臭に顔をしかめ、意を決して一息に喉へ流し込む。


「~~っ!ぅうっ!」


 マズっ!吐きそう。だから飲みたくなかったんだ!

 この魔力増幅剤(ポーション)は即効性で人より魔力の多い私の魔力がしっかりと回復するぐらいの効果がある。でも、その対価というべきなのか、凄く、もの凄くマズい。

 涙目になりながらキラキラが出ないように必死に口を抑えて悶える。


「ちょっ!何してっ!服毒?!今すぐ吐いて!今すぐ!吐けっ!!」


 騎士が大慌てで私の元に駆け寄り肩を揺さぶる。やめて。これ吐き出したら元も子もないから。それに違うから!服毒違う!薬!味は死ねるけど薬だから!!

 涙目で口を抑えてふるふると首を振って否定するけど、多分否定にならないな、これ。私を揺さぶる騎士の顔が段々と深刻になっていく。怒ってるようにしか見えないんだけど……。


「これはどういう状況だ?」


 ふいによく知る声が耳に飛び込んできた。いや、待って。タイミングーー!

 メルスティアの魔力量半端ないです。とにかく半端ないです。そして最後に現れたのは……?


 次話は他の聖騎士視点での夏の魔物討伐(現場の方の状況)です。

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