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閑話 If シリーズ もしもクリスマスがあったなら

 クリスティーナ(メルスティア)が転生してすぐのころの話です。

 もうすぐこの世界に来て初めて迎えるクリスマス。公爵令嬢ってどんなクリスマス迎えるんだろうね。なんかきらびやかなフリフリのドレス着てキラキラ笑っているイメージしか無いんだけど…。はぁ…、想像力の無さが悔やまれる。


「クリスティーナ、次のクリスマスプレゼントは何がいいかい?ぬいぐるみ?ドレス?髪飾り?お人形?お花畑…なら温室の方がいいな。それともお母様みたいに宝石がいい?」


 これは数日前にお父様から聞かれたこと。中にはたかが五歳児になんちゅうもん与えとんじゃ!ってつっこみたくなるものがあったけど、そこはぐっと堪えた。

 正直な話、クリスマスプレゼントって言われても欲しいもの無いんだよね。すみませんねぇ、物欲の無い幼児で。あ、でも本なら欲しいかも。まあ、この男尊女卑国ではそんなこと夢のまた夢かな。絵本なら貰えても本はね、貰えるわけが無いってこと。


 というわけで考え付いたことが一つ。私は転生してからずっとこっそり抜け出してるわけですよ。そこで何を見たと思う?…はい、テンプレね。私は孤児を見たよ。酷く飢えていて物乞いしないと生きていけない…、というわけではなさそうだったけど、日本の中でも比較的ホームレスとか、そういう人たちが少ないところで生活していた私にとっては衝撃以外の何でも無かった。

 そこで私はあるものをお父様におねだりした。


「ドレスもお人形もぬいぐるみも宝石も、何もいらないから、『幸せ』が欲しいわ。」


 って。我ながらこんなこと言う五歳児ってそうそういないと思う。実際いたら結構怖いよね。病んでるのかなってなる。最初はお父様も疑心暗鬼でなかなか承諾してくれなかったけど、胸の前で両手を組み合わせてうるうる涙目で見上げればあっけなかった。必殺幼女の可愛いおねだりポーズ!こっちで通用するか分からなかったけど、お父様には十分効果があることが実証されました!パチパチパチ!


 でもね、『幸せ』って言われても何を準備したらいいいかなんて全くもって検討がつかないわけで。お父様ってば最初はちゃんと考えてたらしいよ?でも結局は私に聞いてきたからね。それで私はお菓子をたくさんって答えた。これが昨日の話。でもって今日なんだけど…。


「エドルグリード王子、なぜここにいらっしゃいますの?」


「可愛い妖精を見つけちゃってね。来ちゃった☆」


 来ちゃった☆、じゃねーよ。アポ取ってないのに突然来るな!そのテヘッて顔も止めて。そのキラキラ属性の顔にはお似合い過ぎて、こっちの顔が引きつきりそうなんだけど…。そして離れろっ!なんでこんなにくっつく必要があるの?!無いよね?!貴族って節度ってものを大切にするんじゃないの?これは節度あるのか?無いよね?絶対無いよね?!


「そうですのね。その妖精様はきっとお城の方へと行ってしまいましたわ。ですから私から離れて追いかけた方がいいと思いますわ。」


 私を抱き締めるエドルグリード王子のお腹をぐいぐいと押し戻しながら伝える。あ、あくまでも不敬罪とか言われない程度だからね?


「何言ってるの?僕の妖精はここにいるよ?」


 キョトンとしたような顔をして私をぎゅっと引き寄せる。どこの少女漫画…。じゃなくて!


「放してくださいませ。苦しいですわ。」


 私が苦しそうな顔をして言うとエドルグリード王子はさっと私を解放してくれた。その隙に私は間合いをとる。確か不審者と対峙したときは腕二本分距離をとっておくんだったよね。ここら辺かな。


「クリス、何でそんなに離れたの?寒いからこっちにおいでよ。」


 エドルグリード王子はそう言うけどここは暖かい。室内で暖炉の火が明々と燃えている。てか寒かったら公爵家の王子に対する待遇が悪いってことなんだけど。そこんとこ分かってる?

 私はニッコリ笑ってスルーし、エドルグリード王子が座っている席と反対側に座る。


「お城の方が暖かいですわよ?ここが寒いのでしたらお城に「寒くないよ。すごく暖かい。」」


 お帰りなさいますか?って言おうとしたら被せられた。やるじゃん…。


「ところで、本当はどうしてここにいらっしゃいましたの?」


「クリスがクリスマスプレゼントにたくさんのお菓子を頼んだって聞いてね。何をするのか気になって来ちゃった☆」


 結局、来ちゃった☆なのね…。うん。もういいよ。でもお菓子のことか。ん?これってちょっとしたチャンスじゃない?


「エドルグリード王子、もし私がすることを聞いたら、手伝っていただけますの?」


 コテン、と首を傾げて聞いてみる。幼女で可愛い容姿をしているからこそできる技だ。存分に活用しなくては!


「勿論!さ、話して?」


 案の定、エドルグリード王子はふにゃりと笑って落ちた。よし。心の中でガッツポーズをして口を開く。


「実は、お菓子を下町の孤児の子たちにあげようと思っていますわ。」


「何で?それはクリスが貰ったものでしょう?それに孤児なんかにあげてどうするの。」


「私はお父様に『幸せ』が欲しいと言いましたの。それは私の『幸せ』ではなくてその子たちの『幸せ』ですわ。」


「でもそれじゃクリスのためにならないよ。」


 ああ、この人には分からないか。男尊女卑でありながら身分差別が当たり前のこの国の王子だもんね。そんな環境で育てば私の言っていることはおかしなこととしか思えないね。


「私はその『幸せ』に満ちた笑顔を見たいのです。ほら、私は理由を言いましたわ。協力してくださるのでしょう?」


 説明か面倒臭くなってきたから少々強引に話を進める。


「う~ん、よく理解はできないけど協力はするよ。最初に約束したからね。ねぇクリス。それをしたらクリスは『幸せ』なの?」


「勿論ですわ。」


「なら僕もお菓子をあげようかな、その子たちに。」


「……きっと喜んでくれますわ!エドルグリード王子、ありがとう存じますわ!」


 動機がなんか違う気がしないでもないけどそれで『幸せ』に満ちた笑顔が見れるならいいや。それにこれを機に孤児とか平民とかの人たちに目を向けてくれるようになったらいい。私は将来この国を出るって決めたけど、この国に残る人たちが少しでも過ごしやすくしておきたいな。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。



 クリスマスの朝、私はいつもより早く起きて身支度を済ませ王城へと向かった。今日はエドルグリード王子と下町に出かけることになってる。あの後決めたのだ。でも、まさかエドルグリード王子が下町に出るなんて思いもしなかった。クリスマスには奇跡が起きるっていうけどこのことかも。なんて思ったのは内緒。

 今回下町に行くのは()()()()()()になっている。いつも私が行っているのは勝手に抜け出してるから非公式なやつね。でも今回は護衛とかが隠れてついてきてくれるから公式になるんだって。大袈裟だと思うけど、よくよく考えたら一国の王子をか弱く見える令嬢と二人で下町に放り出すわけないよね。ま、私はか弱くなんかないけど。


「クリス、ここからは僕たちは兄妹だからね?僕はクリスのことをいつも通りクリスって呼ぶ。クリスはエド兄って呼んで?あと貴族のしゃべり方はなしだよ。」


「はい。エドルグ…エド兄。…う、分かったよ。」


「そうそれ!じゃ、行こっか。」


 私は選択を誤ったかもしれない。何でエドルグリード王子をエド兄と呼ぶ必要がある…。

 王城を出ての少し手前の貴族通りまで馬車で送ってもらい、下町まで歩く。その間に私はエドルグリード王子をエド兄と呼ばなければいけなくなった。でも、手繋ぎは免れたからよしとしよう。お菓子の入った袋でお互い手が塞がっているから手繋ぎなんて出来ないのだ。


 しばらく歩いて下町の端にある住宅街の裏に回る。そこには前に見た子供たちがお互い寄り添いあって、凍えないように体を温めあっていた。それに対して私たち二人はモコモコのコートに身を包んで温かくしている。この違いにエドルグリード王子は何を思うだろうか。まだ七歳の王子には難しいかもしれないけど、この違いをおかしいと思ってくれたらいいな、と淡い期待を抱く。


「ねぇ、これを渡したくて来たの。今日はクリスマスでしょう?だから、ね?受け取ってくれる?」


 どう接したらいいのか分かっていないエドルグリード王子の前に一本出て、孤児の子たちの中でも一番年上の子に声をかける。と言っても私たちと同じぐらいの年頃の子だ。その子は警戒するように私たちを睨む。仕方ない。こんな虫のいい話を持ってくるなんておかしいとしか思えないだろうから。


「私はこれを食べれないの。このままじゃ捨てられちゃうの。でも、あなたたちなら食べられるんじゃないかなって思って。私のところに来たサンタクロースからのあなたたちへのプレゼントなんだって。」


 そう言って差し出すと、おずおずと手を出して受け取ってくれた。すると物陰からこちらの様子を伺っていたらしい他の子供たちも出てきた。皆期待するような目で私たちを見ている。


「ねえ、エド兄の番だよ。」


 エドルグリード王子の背中を優しく押すと、エドルグリード王子は一歩前に出た。顔をあげて子供たちをしっかりと見渡し、口を開く。


「これは僕からだ。クリスマスぐらいは少し贅沢をして笑顔で過ごした方がいいよ。これ、あげる。」


 一番手前の子につき出すようにお菓子がいっぱいに詰まった袋を差し出す。あちゃー、照れてるのかな?少しぶっきらぼうになっちゃったね。でも差し出された子は嬉しそうに受け取って他の子と袋の中を目を輝かせて覗き込んでいる。


「私たちがここにいたら食べられないと思うんだ。だからもう行こう?」


 エドルグリード王子の耳元に顔を近づけて小さい声でそう言うと、エドルグリード王子は小さく頷いた。


「私はもう行かなくちゃ。メリークリスマス。」


「うん!メリークリスマス!ありがとう!」


 お菓子を夢中で眺めている子供たちに声をかけると、一部の子が私たちに気づいて飛びきりの笑顔で返してくれた。私は満足してエドルグリード王子の手をとり歩き出した。




★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。




 馬車の中で、エドルグリード王子は少しボーッとしたように一点を見つめて座っていた。


「エドルグリード王子?どうかなさいましたの?」


 私が声をかけるとはっとしたように動き出した。疲れたのかな?それともあの孤児たちのことについて考えてた?


「うん、ちょっとね。クリスはあの笑顔を見て満足できた?」


「ええ、勿論ですわ。そしてあの笑顔が絶えない日々が続けばいいと願っていますわ。」


 私はさらりと自分の願望を付け加える。エドルグリード王子は気づいてくれるだろうか。今の状態じゃ気づかないかなぁ…。


「そっか。なら良かった。」


 少し寂しげに笑ったエドルグリード王子は私の願望には気づいていないみたい。でも、あの孤児たちを見て何か思うことがあったのは感じられる。これで少しでもこの国の未来が明るくなればいいけど…って五歳児が言う言葉じゃないか。あ、そうだ…!


「そういえばエドルグリード王子はあのお菓子をクリスマスプレゼントに頼んだと聞きましたわ。ところでこれは私からのクリスマスプレゼントですの。受け取っていただけまして?」


 そう言って私は隣に座っている従者から小さな可愛らしい箱を受け取る。これはエドルグリード王子が自分のクリスマスプレゼントにお菓子を頼んだことを聞いてから、エドルグリード王子のクリスマスプレゼントがないことに気が付いて急いで買いに行ったもの。七歳の男の子がクリスマスに自分の手元に何も残らないプレゼントっていうのは悲しいよね。そうさせたのは私だからせめてもの償いとして、ブローチを買ってきた。


「ありがとう、クリス。凄く嬉しいよ。」


 エドルグリード王子は驚いたように私を見ると、数回瞬きをした後嬉しそうに顔を綻ばせた。私の差し出した小箱を受け取って私に開けていいか尋ねてきたので、ぜひにと返すと、エドルグリード王子は深紅のリボンをシュルシュルと解いて白い蓋を開け、中の物を丁寧に取り出した。


「きれい…。本当にありがとうクリス。僕は何も準備できてないんだ。だから、帰ってから準備するけどいい?」


 透き通った青い細工を眺めていた顔をあげ、とんでもないことを言ってくる。


「それには及びませんわ。今日、エドルグリード王子がお付き合いくださったことが私へのクリスマスプレゼントですもの。」


 そう返しても納得したようには全く見えない顔で頷かれた。


 そして後日、あのブローチよりも豪華なネックレスとイヤリングが私宛てにエドルグリード王子から送られてきてしまった。返すわけにも行かないからショーケースにでも飾っておこっと。

 結構長くなりました。ここでクリスティーナはエドルグリードのことをエド兄と呼んでいたのです。


 皆様は今年のクリスマス、どうお過ごしでしたか?私は遊びに行くことなんて不可能でした(*´・ω・)

 それでは皆様良いお年をお迎えくださいませ。

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