王城探険だったはずなのに
ブックマークありがとうございます!
大変遅くなりました!
ガギィィィィン!
弾かれた剣が綺麗な弧を描きながらくるくると宙を舞い、ギャラリーの前に深く突き刺さる。一体何が起こったのか検討のつかないギャラリーたちは府抜けたようにポカンと口を開けて固まっている。
それを視界の端に納めながらニッコリ笑顔で口を開く。
「はい、次の方~。」
ここは病院のアナウンスを意識ね。…じゃなくて!言うことはこれに尽きる!
────どうしてこうなった?!
★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。
「メルスティアよ、アマリリスが城内を案内するから今日中に城の道を覚えていておけ。」
失われし夢幻世界について根掘り葉掘り聞き出されぐったりしてきた私に、総帥様はさも今思い出したかのようにそれを告げた。絶対面白がっていると思う。この鬼畜め。
「私が案内してあげるのよ。光栄に思いなさい、メルスティア。あと、私のことはアマリリス様ではなくアリスと呼ぶことを特別に認めて上げるわ。喜ぶことね。うふふ♡」
流し目でこっちを見ながらそう言われてもね、光栄に思えないんだけど。てかこの人ツンデレキャラなの?!アリスって何?!そのいかにも傾国の美女的な身体と女王的な喋り方でアリスかっ!ね、正直言って良い?全然似合わないんだけど…。ええ、勿論口には出しませんよ。怖いから。
一通り城内を案内されて分かったことを一つ。クヴァシルの城と造りがほぼ同じ。これっていいの?確かに同じ国から別れた二つの国だから文化は似ていると思うよ。でもさ、城の造りがほぼ同じって危なくない?簡単に攻略されちゃうよ。因みに私はクヴァシルの城で見つけた隠し通路と同じような仕組みの隠し通路見つけちゃいました。でも良かった。これがクヴァシルの城と全く違う造りだったら覚えるの凄く大変だったもん。だから、良いのかな…?
立ち入り禁止の場所もあるらしく、聖騎士は大抵の場所への立ち入りは許可されているけど、地下と何故か知らないけど三階にある一つの扉。これは入らないようにって言われた。
特に三階の扉の方。アマリ…アリス様によると時々女性を称える声が聞こえてくるらしい。それも長々と。昔この部屋は王族が私室として使っていた頃があったから、その亡霊じゃないかと言われているって。王妃より国王が先に逝っちゃったときの亡霊じゃないかと言われているらしい。
しかも一度それを知らずに入っていしまった侍女がいて、その人が出てきたとき、真っ赤になったり青ざめたり白くなったりと、どう考えても顔色がおかしくなったあと城を辞めていったらしい。それはその亡霊に王妃の代わりにでもされたからじゃないかと考えられている。
うん。凄く近づきたくなくなったよ。叫び声が聞こえてくるとかの方がましだと思ったぐらいだからね。
そして最後に案内された場所は騎士団の訓練場。私たちか現れた瞬間、多くの視線が私たちに降り注いだ。大半はアリス様に行っているけど、一部私へのものもある。基本的にアリス様へのものは男性。まあ、だろうねって感じ。だってこの容姿でこの服でしょ。見ない訳が無いっての。そして私へのものはアリス様に興味が無い人達のもの。女性が大半だけどちらほら男性もいる。いや、それよりさ、訓練の手が止まってるんだけど。いいの?
「あらぁ~?何故かしら。私には手が止まっているように見えるわね。騎士ともあろう者たちがいいのかしら?ねえ、メルスティア?」
「え?そ、そうですね。駄目…なんじゃないですか?」
突然振られて反応が遅れる。そしてアリス様が私に話を振ったせいで訓練場のほぼ全ての視線が私に集まってしまった。するとヒソヒソと何やら話す声がちらほら聞こえてくる。よく耳を澄ませばそれは私のことだった。どうやら私のことを見た人がこの中にいるらしい。『凄い』と言ってくれている人もいるけど、案の定『何であんな子供が』と明らかに嫌悪感満載の話をしている人もいる。ラスターさんが言っていたのはこういうことか。
「そうよね。ねぇ、メルスティア。貴女相手してあげなさい。」
「はい。…ん?はいっ?!」
待って!今さらりと物凄いこと言ったよね?!どうゆうこと!私が相手するって何で?!
頭がパニック状態になってオロオロしてしまう。そんな私を艶やかな笑みを浮かべて楽しそうに見ているアリス様が憎いよ…。何てことをしてくれるんだ。何も考えずに『はい』って言っちゃったじゃん!
「決まりね。さあ子羊たち!うちの新人ちゃんが相手してくれるそうよ。噂の聖騎士の実力、知りたいでしょう?」
────勝手に進めるなぁーー!
何とか声に出ないようにすんでの所で我慢したけど、心の中では存分に突っ込ませてもらった。てか何よ『子羊』って!どこの宗教かっての!
心の中で叫んでいると、一人の騎士が前に出てきた。私に対する敵対心が剥き出しになっていて隠そうともしていない。正直言ってみっともない。そういえばこの人は昨日の城門で会った人だ。あの若い方。確かラスターさんは伯爵家の息子って言ってたよね。相変わらず感情が隠せてない。騎士以前に貴族失格でしょ。
「私と相手してもらおうか。正直に言わせてもらうがお前のような小娘が聖騎士など認めない。」
憎悪を思いっきり言葉にしてぶつけてきた。うん。やっぱこいつ駄目だ。貴族どころか大人失格だよ。平民の子供でもって言うか小学生でもそれくらいのこと自分の中に飲み込めるって。
でもさ、今良いこと思い付いた。これってチャンスじゃない?ここでちゃんと叩きのめしておいたら、こんな面倒臭いのの相手しなくて良くなるよね?ラッキーじゃん。
「良いですよ。お相手させていただきます。」
相手を刺激しないような、否、もっと逆撫でるような笑顔で答える。視界の端にいるアリス様は愉快そうに口の端を上げている。これがお望みでしたか。はいはい。分かりましたよ。ありがとうございます。ここで厄介払いしておきますよっと。
訓練場の一部を空けてもらって伯爵家の息子──もう失格野郎でいいや──と向き合う。失格野郎はおもむろに両手剣を構える。私はそれを無視して儀礼に倣い、礼をする。これは本来練習時であってもしなければならないこと。クリスティーナの時に私に剣術を教えてくれた師匠が口を酸っぱくして言っていた。これはどこであっても変わらないこと。相手に必ず敬意を払ってから打ち合うのが鉄則だと言われてきた。そういえば師匠は元々ケリドウェンの人間だったとか言ってたなぁ。
礼をしてから静かにレイピアを抜き、構える。同時に身体強化を使い、最初の衝撃に備える。別に一撃も貰わずともこちらが一撃で屠ることだってできる。それは相手の構えを見ればすぐわかることだ。一見何も問題が無いように見えるその構えは脇のしまりが甘い。足の開き方が甘い。柄の握り方が甘い。この間の試験まで師匠としか剣を交えたことの無かった私の剣では、この失格野郎の剣を簡単に手放させることができる。うん。これは断言できる。でもそれでは厄介払いするどころか恨み倍増だ。だからここは甘んじて一撃は受けようかな。
失格野郎の出方を待っていると、失格野郎がすっと腰を落とした。
────来る。
次の瞬間、ザッと音を立てて地面を蹴り、失格野郎が私の方まで飛んでくる。あ~あ。そんなに振りかぶっちゃあ色々がら空きだよ。
────右か。
その勢いを乗せた剣が私めがけて一直線に振り下ろされる。速い。でも身体強化をしている私からしてみれば簡単に目視できる早さだ。振り下ろされた両手剣を右手に持ったレイピアで受け止める。風が巻き起こり前髪が浮き上がる。意外と重いな。でも素直すぎるね。剣筋が分かりやすすぎる。
一撃受け止めたからもういいだろう。剣を押し返して払いのける。失格野郎はここまで簡単に防がれるとは思わなかったらしく、軽く目を見張っている。
────次は私のターン。
グッと足に力を入れて飛び出す。その速度に反応できないのか失格野郎は私を目で追えていない。それでも体が反射的に動いたようで足の筋肉が形を変えてる。これが経験によるものか、と少し感心を覚えた。でも甘い。私が飛ぼうとしているのはそこじゃないよ。
魔法で気流を起こして軌道を変える。それには全く気付いていないようで、私が来るだろうと体が判断した方向に一歩、もう踏み出してしまっている。はい。残念でした。私が行くのは貴方の後ろ!
「がら空き。」
ここで冒頭に戻るわけだ。後ろから容赦なく剣を吹き飛ばす。ガギィィィィン!とつんざくような金属音を響かせ、弾かれた剣が綺麗な弧を描きながらくるくると宙を舞い、ギャラリーの前に深く突き刺さる。
私が飛び出してからその間一秒。一体何が起こったのか検討のつかないギャラリーたちは府抜けたようにポカンと口を開けて固まっている。
それを視界の端に納めながらニッコリ笑顔で口を開く。
「はい、次の方~。」
いつの間にかできているその人だかりに向かってアナウンス。じゃなくて!どうしてこうなったの!ああ、もういい!こうなったらやけくそだ!どんどん来いっ!
★°٠*。☆٠°*。★°٠*。☆٠°*。
キンッ!
「ごめんなさいっ!」
高い澄んだ音がして相手の剣が折れた。ギャァーー!やってしまった!さっきの人はヒビを入れてしまったから気を付けなきゃって思ってたのに…!
失格野郎から13人目。今日は金曜日じゃないのに災難な人だ。あ、13日でも無かった。でも本当にごめんなさい。わざとじゃないんです…。今13人連続で相手してるから力加減がね。
そう。失格野郎から13人も連続で相手をしている。その間に増えたギャラリーたちは私がいつまでもつかで賭けを始める始末。いや真面目に練習しろよ。今職務中じゃないの?それにこれいつまでやるの?城の案内されてる途中じゃなかったっけ?おかしいよねこれ。
「あの~アリス様、そろそろ…。」
「もう終わり…?まあ仕方ないわね。終わりでいいわよ、終わりで。」
窺うようにしてアリス様を見ると、さも残念そうな顔をして言われた。
「女王アリス降臨…。」
どこからかポツリとそんな言葉が聞こえてきた。あ、それ同意。これは女王様だよ。てか、もしかしなくてもそれ二つ名じゃない?言い当て妙です!
「ではそういうことで失礼しますね。」
そう言ってそそくさとレイピアを仕舞いその場から離れる。ちょっと残念そうだけど満足そうな顔をしているアリス様が私の前を歩き、後ろからは賭けがどうのこうのという声が聞こえてくる。いいから早く練習戻ろうよ。
そう思いながらちらりと後ろを見やるとある人が目に入って、思わず二度見してしまった。
────王女様何故ここに?!
王女様は堂々とギャラリーと化していて、しかもあまりにも違和感なく溶け込んでいるので全く気が付かなかった。あ~!どうか王女様に目を付けられてませんよーに!
王女様何故来たれし!まあそれは後々…。
次話は王女の次は王子です。はい。王子再来です。メルスティア頑張れ…!