僕の愛しい人 (エドルグリード視点)
ブックマークありがとうございます♪
今回は長いです。いつもより千字ぐらい。ですが、空白も多いので実質いつもと内容量は変わらないと思います。
アストレアが(偽)クリスティーナを殺るシーンがあります。内容は「終わって始まる」にありますので、お忘れの方は先にそちらを読まれることをオススメします。
※流血表現があります。
10/21 改稿しました。
僕は人形を見た。いや、人形のように可愛い女の子を見た。
七歳になった僕は、婚約者と会うことになった。本当はあんまり気乗りしなかった。だって会ったことさえないのに婚約者だなんて言われても困るんだ。
でも、それは間違いだって気付かされた。僕の婚約者は人形のように可愛かった。今までに何度か会ったことのある貴族の子とは違って、何て言ったらいいんだろう。こう、ビビッてきたんだ。会った瞬間にこの子だって思った。僕の、エドルグリード・クヴァシルの相手はこの子、クリスティーナ・フォルセティだけなんだと。
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僕のクリスは可愛い。今年で僕は十歳、クリスは八歳。クリスは初めて会った五歳の時よりも可愛くなっている。僕のことをエド兄様と呼んでくれる。僕はクリスの兄ではなくて婚約者だけど、嬉しいからあまり気にしていない。こんなに可愛くていいのだろうか。僕は十歳になって社交デビューをした。まだ八歳のクリスはまだ。公爵はクリスを余り外に出したがらないから、貴族の中でクリスを見たことがある人はほんの一握りだけ。貴族の令息や令嬢でクリスを見たことがある人はいない。だから、僕だけがクリスの可愛さを知っているんだ。誰にも見せたくない。可愛いクリスを知っているのは僕だけでいいんだから。
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僕が十二歳になり、クリスが十歳になってクリスが社交デビューしてしまった。とうとうクリスが他の人の目に入るようになってしまった。僕だけのクリスだったのに。でも社交の場でクリスをエスコートして、ファーストダンスを貰うのは僕の特権だ。誰にも譲らない。クリスは僕の大好きな婚約者なんだから。誰にも渡さない。
クリスの可愛さはあっという間に話題という話題を攫っていった。長くたなびく銀糸はシャンデリアの光を浴びてキラキラと輝き、琥珀の瞳はありきたりなようで、その奥に秘められている光が美しいと。スッと伸びた美しい鼻筋に淡い桃色の薄い唇。そして白く極め細やかな柔肌は降り積もった粉雪のよう。それだけでなく、心も優しく美しい。完璧な令嬢だと。可愛いと言うよりは美しい。姿も心も。そうして付いた二つ名は、『真白の令嬢』。
正直、的を射ていると思った。僕から見れば可愛くて愛らしいクリスは他の人から見れば美しいらしい。そして『真白の令嬢』。誰が考え付いたのか。悔しいが認めざるを得ない。僕のクリスにとても相応しい名だ。
それから僕のクリスは皆のクリスティーナとなり、皆の真白の令嬢となった。けれど僕の前では真白の令嬢ではなく、ただのクリス。これだけは絶対に誰にも…。
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僕が十六歳、クリスが十四歳。クリスが魔法学院に入学してきた。この学院は全寮制だ。皇族だって例外ではない。去年までの二年間クリスがいない中、僕は耐えた。僕の周りには常に不躾にも言い寄ってくる令嬢がいた。面倒で面倒で仕方がなかった。そんなときは全てのことを聞き流してクリスのことを考える。今頃どうしているだろうか。どれ程愛らしくなっただろうか。僕のことを想っていてくれているだろうか。そうやってクリスのことを考えることで切り抜けてきた。それが、今年はどうだろう!僕の愛しのクリスがこの学院にやって来た!前々から分かっていたことだかこれがどれ程嬉しかったことか。会えなかったこの二年を取り戻さなくてはならない。
入学式で見たクリスはすっかり美しくなっていた。これを見てどれ程焦ったかクリスには分からないだろう。
これからクリスとの時間をたっぷり取ろうと心に来て決めていた時、隣国のケリドウェンから第二王子のセルシュヴィーン殿がやって来た。はた迷惑な話だと思っていたが、それどころでは無かった。頭の回転が早すぎる。僕が相手をしなければ、いつどこからか国の重要な情報が漏れるか分からない。そのせいで僕はセルシュヴィーン殿とほとんどの時間を過ごすようになった。一つの救いはクリスも一緒にセルシュヴィーン殿の相手をしてくれたことだ。セルシュヴィーン殿のことで父上に報告するために特例として僕とクリスだけが学院から出ることが許された。学院から城、城にいる間、城から学院。この間だけは誰にも邪魔されることなくクリスとの時間を取れた。まあ、これはセルシュヴィーン殿のおかげとも言えるので何とも言い難いのだが…。
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それから一年程してセルシュヴィーン殿は自国へと帰っていった。これからはクリスのことだけを考えていられる、と思ったところで入れ替わるように新しい令嬢がクリスの学年に入ってきた。男爵令嬢だそうだ。どうやら市井の出身のようだ。一目見たが余り関わりたいとは思えなかった。見た目は良い方かもしれない。無論、クリスには勝てるわけがないが。だがその顔に隠された心は醜い。周りの令息たちはとても気に入ったようだが僕は気に入らなかった。嫌な予感がしたのだ。僕から何か大事な物を奪っていくかもしれないと、直感的に思った。僕の大事な物。大事な者。クリス。愛しい僕の最愛の婚約者。何にも代えるつもりはない、代えることなど考えられない。僕の唯一無二の僕だけのお姫様。彼女が獲られる…。そんな気がした。
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直感は当たった。何かあるごとに僕に絡んでくる。鬱陶しい。嫌気が差す。クリスとの時間を邪魔する。僕とクリスの時間を取るな!
クリスは一国の皇子としてあの子をサポートして欲しいと言う。いくらなんでも婚約者に他の女を差し向けるようなことをしないでほしい。僕があの女を好きになってしまったらどうするつもりなのだ?まあ、そんなことはあり得るはずがないのだが。仕方ない。これを機に、クリスが嫉妬して僕に甘えてくるようになるかもしてないからな。気は進まないがやるか…。
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「それで~…。」
アストレアの間延びした声が聞こえてくる。ああ、クリスに会いたい。
「も~、殿下聞いてますか~?」
ムッとした顔で口を突き出してくる。僕は冷めた目で見そうになるのを堪えて笑みを向ける。
「聞いていますよ。続きを聞かせてください。」
受け答えをいちいちするのが面倒だ。クリスの所に今すぐ行きたい。と、視界の端に銀が煌めいた。
「クリスっ!」
つい名前を呼んでしまう。しまった、と思ったときには時既に遅し。アストレアが上目遣いで可愛らしく(見えるように)睨んでくる。
それに対してクリスはこちらに気付いてふわりと花のような微笑みを浮かべてくれる。
「エドルグリード様。アストレア様もご機嫌よう。エドルグリード様、どうかなさいましたの?」
「愛しいクリスが目に入って、つい呼んでしまったようだ。どうやら私にはクリスが足りないらしい。その花の精のように愛らしい笑みを僕にもっと見せてくれるだろうか?」
「そ、そんな…。殿下…。皆様の前ですもの。そのようなことを言われてはお恥ずかしいですわ…。」
うっすらと頬を染めて恥ずかしがるクリスが可愛い。僕のクリスはやはり可愛いな。
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「それで~…。もう、エドルグリード様。聞いてますか?」
レアの柔らかい声が聞こえる。
「悪かった。つい見とれてしまって…。もう一度聞かせて?それと僕のことはエドと呼んでほしいと言っているよね?」
「で、でもそれはクリスティーナ様に失礼ですよね?できませんよ~。」
レアはいつまでたっても僕のことをエドと呼んでくれない。アストレアことレアと出会ってもう一年が経とうとしているというのに。
ふと、視界の端に銀が見えた気がした。どうせ気のせいだろう。今はレアが優先だ。
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「クリスティーナ・フォルセティ。君との婚約を破棄させて貰う!」
クリスティーナ・フォルセティは僕のレアに陰湿な行為を働いていたらしい。僕の婚約者でありながらそんなことをしていたなど、許される訳がない。自分が公爵令嬢だからと図に乗ったのた。その報いだ。真白の令嬢とは名ばかりだな。暗黒の令嬢にでも名を変えるといい。
「畏まりました。そのお言葉、確と受け取りますわ。」
人好きのする笑みを浮かべてスラスラと言葉を述べるクリスティーナ・フォルセティ。その胡散臭い笑みは見飽きた。早く視界から消えて欲しい。
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何故だろうか。胸が痛む。頭も痛む。心が身体が苦しくてならない。今日クリスティーナ・フォルセティに婚約破棄を突き付けてしまった。…違う。それではまるで僕がそのことを後悔しているようではないか。突き付けてきたのだ。
それでも胸の、頭の、心の痛みはおさまらない。何故…?考えているうちに片目から一筋の雫が零れ落ちる。これは何に対してのものなんだ?
虚無感に覆い尽くされていく中、明日にでもレアに癒してもらおうと考えた。
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「そういえば、今宵中庭でアストレアさんとお話をいたしますの。女性の秘密の会話だから見に来ないでくださいまし。」
クリスティーナ・フォルセティは突然僕の前に現れてそんな言葉を言って去って言った。一体何だと言うんだ。レアに何をする気だ。これは見なくてはならない。
僕は今、柱の影に従者と共に身を隠している。するとクリスティーナ・フォルセティがレアの所へやって来た。レアを待たせるなんてどういうつもりだ。
何か話してレアがナイフを取り出した。何をする気だ?まさか…。
それから黙って見ていれば、何かがおかしい。レアが狂ったように笑い始めた。いや、嗤い始めた。あんなアストレアは初めて見た。クリスティーナは怖じ気づいている。
頭がズキズキと痛み始める。こんな時にまたか…!
痛みに耐えていると、ドスッと音が聞こえてきた。次いで頭の中で何かがパリンッと音を立てて砕けた。はっとして音の方を見ると、クリスが女に刺されている。
そんな…っ!僕のクリスがっ!!
女の嗤い声が静かな夜に響き渡る。僕のクリスは胸から深紅が流れ出している。そんな。嫌だ。僕の愛しのクリスがっ!
慌てて飛び出してクリスに全力で治癒魔法を注ぐが胸の傷は一向に塞がらない。倒れたクリスの周りにはドクドクと深紅の水溜まりが広がっていく。
「僕のクリスに何てことをしてくれたんだっ!」
「エド様っ!違います!私じゃ無いんです!ク、クリスティーナ様が急に狂ったように笑いだしてご自分を…っ!!」
そうだ。僕のレアがこんなことをするわけがない。そう。これはクリスティーナ・フォルセティが自分でしたことだ。
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その後クリスティーナ・フォルセティの遺体は回収された。自暴自棄にでもなったんだろう。愚かなものだ。あの日部屋に戻って心にぽっかりと穴が空いたような気がしたが気のせいに違いない。年甲斐もなく涙が次から次へと溢れ出てきたが、それはきっと初めて人の死を目の前で見たからに違いない。
クリスティーナ・フォルセティの死はまだ公表すべきではない。時が来ても真実を公にすることもない。公爵家からすれば恥だ。大恥なのだ。クリスティーナ・フォルセティは病死となり密やかに埋葬された。これが公になるのは半年後で良いだろう。フォルセティ公爵に病死は反対されたが病死が一番自然だろう。フォルセティ公爵の訴えは押しきった、それまでに僕とレアとのこれからについて備えなくてはな。
エドルグリード最初はヤバかったです。溺愛越えて病みかけてました(笑)
次話はメルスティア視点に戻って聖騎士と対面です。