第二王子襲来
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※忘れていらっしゃる方の為に…
エドルグリードはクヴァシル皇国の第一皇子で、クリスティーナの元婚約者です。
そうして連れてこられたのは応接間。セルシュヴィーン様が先に入って手まねいてくる。え、やだ。行きたくない!従順に振る舞いながらも内心半泣きで入っていく。扉が閉められると、セルシュヴィーン様が座るよう促してきた。
「セルシュヴィーン王子殿下を差し置いて座る訳には…。」
「そうですね。では失礼。」
困ったようにして断ると、まるで思い出したかのように先に席についてくれた。そしてセルシュヴィーン様の後ろには護衛騎士が。言わずもがなジルベルト様だ。私と同じ琥珀の瞳をしてるはずなのに違う色に見えるのは何故でしょう…?めちゃくちゃ怖いんですけど。切れ長の目って綺麗だけどこうして対峙すると恐怖覚えるよね。
てか、この人があの時の可哀想な人なんて思えないんだけど…。あれ絶対わざとあそこいたよね。そうじゃなかったらギャップヤバくない?
ティーセットが運ばれてくる。嘘でしょ。私そんなにここに長くいたく無いんですけど…。
暖かな紅茶がコポコポと注がれて、カップを目の前に差し出される。もう嫌。詰んだよこれ。逃げられない。
紅茶を全て(と言っても私とセルシュヴィーン様の分だけだけど)注ぎ終えると、侍女は部屋の端に控えるのではなく、扉から出ていった。待って、行かないで!一人にしないでよ~!やだやだやだ!う~そ~だ~!侍女の裏切り者~!!
元から繋がりなんてなかったけど裏切られた気分。人払いなんて酷なことするよね。
「飲まれないのですか?」
そう言って流れるような美しい仕草でカップを口に運ぶセルシュヴィーン様。流石王族。見本のような動き。
カップを手に取ると、ふわりと素敵な香りが鼻を擽る。初めて出会う紅茶かな。独特の匂いがする。フルーティーな香りの中に爽やかなミントのような香りが混じっている。
一口含むとその香りが味となって口の中に広がる。ん…。美味しい。ん…?
「さて、まずは聖騎士就任おめでとうございます。」
カップを置いたセルシュヴィーン様がにこやかにお祝いの言葉をくれた。
「ありがとうございます。」
私もカップを置いてお礼の言葉を返す。勿論(自分の中では)キラキラスマイル付きで。いや、セルシュヴィーン様には負けるけどね。
「こちらに来て三ヶ月程度…とお聞きしました。新しい生活には苦戦されたのでは?」
世話話…と見せかけての探りかぁ。私クヴァシルからの密偵と疑われてるみたい。さて、どう答えよう。ギーラさんたちの事を引き合いに出す?駄目だね。何故パン屋に?って聞かれる。初日に住むところが見つかったので、は危ないね。アルマさんたちが繋がりがあるのではと疑われる。迷惑かけるわけにはいかないもんね。
「いいえ。皆さん良い人ばかりで助けてくださいましたので。寧ろクヴァシル皇国にいた頃より充実した生活をさせていただいてます。」
どう取る?後半を嘘だと取れば『皆さん』は先にケリドウェンに来ていた密偵仲間と取れる。でも事実を言っているとすると、『皆さん』は密偵仲間ではなく、騙された国民。あくまでも私が密偵という前提だけどね。恐らく私が言っていることは全て事実と捉えているから、後者で取るだろう。
「それは良かった。やはりあちらとこちらでは違いますか。」
呟き。私に聞いている訳ではないけど、私がそれにも答えるかの確認かな。
「そうですね。あちらでは女性というだけで騎士や宮廷魔法使いになれないなど、不自由なことがありました。けれど、こちらでは先月の建国祭で女性の方々が沢山ご活躍されていましたし、私もこうやって聖騎士になることができています。一番の違いはここでしょうか。」
「他にも違いが…?」
おっ!食い付いてきた。やっぱり気になるよね?だって隣国の状況だよ?そこの不満なんて滅多に聞けないもんね?うんうん。食い付きが良いから教えてあげよう。次いでに私への疑いも晴らしておくれ。
「はい。例えば魔法の技術ですね。もしかするとご存知かもしれませんが、クヴァシル皇国では光源に火を使っています。光魔法は使っていません。いえ、光魔法を持続し続ける技術が無いので使えないのですよ。」
これはセルシュヴィーン様は既に知っていることだから、大した情報にはならないだろう。でもメルスティアはその事を知らない。知っているのはクリスティーナ。相手にとってはね。
「そうなのですか…。」
「あまり驚かれないのですか?」
「ええ。以前クヴァシル皇国には訪れたことがありますが、その時がそうでしたのでね。」
自分から行ったことを話す、か…。そこに私が食い付くかどうかを見てるのかな。食い付いて、知っているはずの無い情報を出さないか期待している、と。
「そう言えばそうでしたね。失念しておりました。」
私は一応貴族の屋敷で働いていたという設定だ。セルシュヴィーン様たちがどこまで知っているかは知らないけど、そこはぶれないようにしておかないといけない。
「やはり噂になってたのですか?」
「はい。私はとあるお貴族様に仕えていましたので、よく話の種になっていましたよ。」
私がセルシュヴィーン様を見て話の種にしていたのか、他の人がセルシュヴィーン様を見て話の種にしていたのを聞いたのか、この答え方だと分からないだろう。
ま、実際は私がセルシュヴィーン様本人と話していたし、セルシュヴィーン様と話をするときの対策をエドルグリード様と話し合っていたから、必然的に話の種になってたんだよね。
「そうでしたか。…ところで、一つ聞き忘れていました。何故私がセルシュヴィーンだと分かったのです?私は名乗っていなかった筈ですが…。」
あ…。そう来る?それ考えてなかったんだけど…。どうしよ。私がセルシュヴィーン様をメルスティアとして見た事って…。あるじゃん!
「建国祭のパレードの時に知りました。貴方様が通られたとき、周りで黄色い声が飛び交っていましたよ。」
プラスアルファの情報もぶっ込む。どうだ!どんな反応をするかな?
「あぁ、建国祭の時ですか。」
納得したように頷くセルシュヴィーン様。黄色い声のところは総スルーですか…。何か反応して欲しかった。爽やかスマイルを微量も動かさないって、どうかと思うよ。
そして後ろのジルベルト様も表情筋が最初から全くと言って良い程変化していない。主従揃ってこれはヤバい。凄すぎる。私が転生者じゃなくて、本当にただの平民だったら耐えられないぞこれ。どう考えても無理だからね。あ、そう考えたら胃が…。
「セルシュヴィーン殿下。そろそろお時間です。」
「もうそんな時間ですか。では、今日はここでお開きとしましょうか。扉の外までお送りしましょう。」
ふいにジルベルト様が口を開く。おお!救世主よ!私をここから解放してくれるの?!
先程まで恐怖しか感じていなかったジルベルト様が、神に見えてきたんだけど。てか、扉の外ってすぐそこじゃん。どんだけ紳士なのセルシュヴィーン様。絶対女受けいいよね。
「では、お言葉に甘えて…。」
ほんの数メートルをセルシュヴィーン様が先導してくれる。エスコートまではしないけど、私の歩調に合わせてくれる。私後ろにいるのにそれに合わせられるって凄いよね。こっち見てないんだよ。
扉の外に出て私は振り返る。挨拶はちゃんとしなきゃね?
「セルシュヴィーン様、素敵な紅茶をありがとうございました。」
とびきり笑顔でお礼を言う。だって本当に素敵な紅茶だったんだよ?茶葉はクリスティーナの頃にも飲んだことのある茶葉。そして隠し味には自白剤。本当に素敵だよね。ま、香りを嗅いだの時点で気が付いてたし、飲んでやっぱりって確信したから魔法で中和したよ?隠し味としては微妙だったよね。隠し味はやっぱり分からないからこそ意味があるんだから。
セルシュヴィーン様は表情が一瞬だけど固まった。動揺したみたい。そりゃ、そうだよね。私が真実しか言っていない、という前提で話をしていたもん。そこに嘘が混じっていると考えてみたら…?混乱するに決まってる。私は敢えて本当の事しか言わなかったけど。嘘は言ってないよ。本当の事を一部分だけ伝えたから。うん。嘘はついてない。
「それでは失礼致します。」
私を急に連れてきたりしたから、こうなっても仕方ないよね。うん。うん。一人で大満足しながら帰る。鼻歌歌いたい気分なんだけど。
と、ここであることに気がついた。セルシュヴィーン様、お開きって言ったとき、今回は、とか言ってなかった?!え?!次あるの?もう勘弁して欲しいんだけど~!
メルスティア、内心めっちゃ逃げたがってました。結局やりあってましたけどね(笑)
次話はこの話のセルシュヴィーン視点です!セルシュヴィーンから見たメルスティアはどんな感じなのでしょうか。
新しく「女伯爵は幸せを望まぬ~社交界の花は死神です~」の連載を始めました。主人公は二つの顔を持つ17歳にして伯爵家当主を務める少女、セレスティナです。もし宜しければこちらも読んでくださると幸いです。下にURLを載せています。こちらからどうぞ!
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